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決戦のグレイス城編

第189話 カナメルの右腕と左腕

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何が起きたのかナミチュには分からなかった。

バチバチと感電する身体と、大きな書庫のような部屋、そして自分を抱きかかえるマツ。

ナミチュ「え!?マツ!!あんたどうやってここに来たのよ!」

そこにはヘイスレイブ城にいたはずのマツがいた。

ナミチュはトゥールに誘拐される形でここまで来た、トゥールの瞬足をもってしてのこの時間である。
だとしたらマツの到着は早過ぎる。

マツ「やあ、ナミチュ。危機一髪だったね」

ナミチュ「あんたはいつも来るのが遅いのよ」

マツ「確かに、そうかも」

ナミチュ「それで?どうやってここまで来たのかしら?」

マツ「アンチェア様に必死にお願いをしたんだ。そしたらアンチェア様が収束転移魔法でここまで飛ばしてくれた」

ナミチュ「収束転移魔法?」

マツ「そう、アンチェア様の得意魔法は収束!!あらゆる人の魔法を繋ぎ合わせて大きな魔法として扱う。常人じゃ人の魔力に干渉出来ないはずなんだけど、属性を付与していない魔力であれば繋ぎ合わせることが出来るんだって。それで皆の協力もあって転移魔法を繋ぎ合わせて、一気にここまで飛んできたってわけ。正確にはカナメルさんが長く滞在した場所、それがきっとあの儀式の間だったんだろうね」

ナミチュ「なるほどね」

ナミチュはマツの腹に巻かれている包帯を見た。

ナミチュ「あなた、戦えるのかしら?」

マツ「戦えるよ、戦うために来たんだ」

ナミチュ「そう、じゃああの魔女を止めるわよ。彼女はカナメルさんを狙っている」

マツ「早速共闘ってわけだね」

ナミチュ「まさか、あなたと共闘する日がくるなんて思いもしなかったわよ」

マツ「アカデミー時代はどうにかナミチュに勝とうと必死だったからね、私」

ナミチュ「ふふ、まぁ結局のところ私が一番優秀だったわけだけれど。唯一脅威に感じていたのはあなただったのよ、マツ」

ナミチュはマツの肩に手を置いた。

マツ「え?そうなの?」

ナミチュ「だから今あなたと共闘することが楽しみなのですわ」

マツ「ナミチュがデレた!!!」

ナミチュ「褒めて戦うモチベーションを上げようと思っただけよ!ほら、来たわよ」

大書庫の入り口にBBが立っている。

BB「さて、お仲間が参戦したところで始めましょうか」

マツ「ナミチュ、まずどうする?」

ナミチュ「もう既に私の攻撃は始まっていますわよ」

BBの周りに炎の魔法陣が出現した。

BB「意地悪ね」

BBは水球に身を包み、炎を防ぐ。

ナミチュ「あなたには微力ながら筋力増強の魔法をかけてるわ」

マツ「いつの間に!?」

ナミチュ「会話をしながら、あなたの身体に触れたでしょ?その時よ」

マツ「いやーやっぱ勝てないな、ナミチュには」

ナミチュ「いいからあなたのやることをやりなさい!分かってるでしょ?」

マツ「了解!!」

マツの身体がバチバチと発光し出す。

マツ「瞬雷!!」

マツは槍を構えた。
次の瞬間、眩い雷光と共に一直線に水球ごとBBを貫いた。

しかし、そこにBBはいなかった。

BB「まずはあなたから仕留めるべきね」

BBはナミチュの背後に立ち、杖を心臓に向けた。

ナミチュ「あなたが後ろに転移することは想定済みですわよ!」

ナミチュは指を鳴らした。

しかし魔法が発動しない。

BB「魔法戦は読み合いよね?私はその先を読んで、この部屋に来た直後にあなたの周囲に設置してあるであろう魔法陣を解析して解除しておいたの、詰めが甘かったわね」

マツ「させない!」

屈折した軌道を描いてマツがBBを狙う。

BBはまたも姿を消す。

マツ「私の瞬雷を超える速度で転移魔法を発動するなんて」

ナミチュ「ええ、不可能ですわよ。何かトリックがあるのでしょう」

BB「そうね、ヒントをあげましょうか。闇魔法を使うときに引き換えとなるのは記憶の欠落、感情の欠落、身体の自由の欠落の中のいずれかとされているわね?例えば他にも引き換えに出来るものがあったら、闇魔法を使うことが怖くないと思わない?例えばそれが自分にとって重要ではないものだとしたら」

ナミチュ「確かに使うことを厭わないでしょうね、でもそんなことが出来るのかしら?そもそも闇魔法を使えばあらゆる欠落が自動的に起こり、身体以外であれば記憶なのか感情なのか、どの感情なのかいつの記憶なのかすら分からないと聞くわよ」

マツ「そう、だから闇魔法を使うメリットはないとアカデミーでは教わった」

BB「ええ、間違いないです、よくお勉強してますね。でも世の中には学んだとてそもそも身体と脳の機能が違う者達がいるのよ、例えば実験で弄りまわされたりしてね。そんな人達が普通の人生を送れると思う?」

ナミチュ「あなたがそうだと言うのですか?」

BB「さぁね。でも自分が皆と違う存在だということは良くも悪くも執着に繋がる。使命や正義への執着、愛や誰かへの執着。執着は良い方向にいけば常人では辿り着けない偉業を成し遂げるでしょう。でも悪い方向にいけば世界を歪ませることになる」

マツはドラのことを想っていた。

ドラはいつも呑気に笑っていた。

いつも隣にいてくれたが、本当はマツやナミチュのことを疎ましく思っていたのだろうか?

しかし今は彼女と話すことすら出来ない。

彼女は今、完全に竜となってしまったのだ。

ナオティッシモ先生がドラの身動きを封じ、何とか被害は出ていないものの、マツの頭からドラのことが離れたことはない。

マツの不安そうな表情を知ってか知らずか、ナミチュがハッキリとBBに言った。

ナミチュ「自らの行動を歪ませてしまうことを何かのせいにするような小心者がいるのであれば、カナメルさんとその右腕である私が叩き潰して差し上げますわ」

BB「ふふ、あなたには一生理解出来ない感覚でしょうね?あなたはどうかしら?」

BBはマツへと語りかけた。

マツ「私の友達に普通とは違う存在の者がいます。彼女は今理性を失ってしまいました。彼女も世界を歪ませる一つになってしまうのではないかと正直不安です」

マツは目の前の女性が敵であるにも関わらず、心の中にあった不安をつい話してしまった。

ナミチュ「、、、、、、」

BB「十分になり得るでしょうね、世界を歪ませる一つの要因に。だって存在から違うのですから、人というものは違うものを攻撃する習性があるでしょ?だとしたら心は歪む、それこそ必然」

マツ「私が弱いから、、、私が彼女を頼り過ぎたから、、」

ナミチュ「あなた、大馬鹿者ですわね」

マツ「え?」

ナミチュはとぼけたように口を開いた。

ナミチュ「誰のことを言っているのか知りませんけど、あなたのように人を愛する力を持った人間の隣にいて、心が歪むわけがないでしょう?感謝はあっても、恨まれることは決してないわ」

マツ「ナミチュ、、」

ナミチュ「いい?カナメルさんはそんなことでクヨクヨしないのよ。仮に歪んでいたとしたらどうするか、論理的に組み立てて、分からなければ夢中で方法を調べる。彼は悲しみを置き去りにして夢中でどうすべきか行動するでしょうね。私も感情を置き去りに動くのは得意ですわよ?あなたもカナメルさんの左腕なら、もっとしっかりしなさい!」

ナミチュは藁箒でマツの頭を叩いた。

マツ「痛ったぁ~、、、、そうだよね、心配しても仕方ないよね。うん、皆でドラの所に帰ろう!!彼女が正気を取り戻した時、ナミチュやカナメルさんがいなかったら悲しむから、、、、そのために私はここに来たんだ」

ナミチュ「少し本気を出しましょうか。マツ」

マツ「うん!!一気に行こう!!」

BB「ふふふ、その青臭さ、アカデミーを思い出しますね」

BBの表情は自然と緩んでいた。



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