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エンドレス・ラブ
9 働く男タイラー ― 1 ―
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アーロンが死亡?
今、炎を通じて聞かされた内容のショックで頭が全然働かない。隣に座ってるスチュワードさんも、同様に呆然としたままだ。
とにかく今聞いたことが信じられない。違う、信じたくない。
呆然と机の上のランプを見つめてしまう。
もしかするとまた繋がって、今のは冗談だって声が聞こえてくるかも知れない。いやもしかして災害訓練とか、なんかそんな感じの──
そこまで考えたところで、突然執務室の床の一部が光りだした。途端、スチュワードさんが慌てて私を抱えて部屋の扉まで飛び退る。
続けて直ぐにその光の中心からタイラーさんが現れた。
「タイラー! 無事だったのですか! 一体王城で何が──」
「タイラーさん!」
私たちが駆け寄ると、直ぐにタイラーさんが私の前にきてサッと跪く。
「アエリア様、先ずは地下のアーロン様の研究室に退避いたしましょう」
「え?」
「この部屋はピピン様の執務室と今まで何度も繋げています。最悪、空間魔法に詳しい者が王城側から解析すれば繋げられてしまう恐れがあるのです。ですからここを破壊、封鎖して、階下に避難致します」
私が返事をする間もなく、横で話を聞いていたスチュワードさんが有無を言わさず私を抱えて走り出す。部屋を出てすぐ、背後から凄い音が辺境伯邸内に響いた。
え、破壊ってどこまで壊しちゃう気!?
スチュワードさんと一緒にアーロンの研究室に入ると、一瞬部屋が揺れたような気がした。今の振動も破壊作業だとしたら、あの部屋本当になくなっちゃってるかも。
私たちに続けてエリーさんとマイアさん、それにブリジッタさんがタイラーさんに伴われて部屋に降りてきた。
アーロンの研究室はいつも通りゴチャゴチャしてて、椅子も荷物で埋まってる。それをエリーさんとマイアさんがテキパキと片付けて、人数分の椅子を揃えて座らせてくれた。
その間もタイラーさんは何やら戸棚から引き出した本を片手に、手順よく部屋のあちこちで詠唱してる。
その度に壁一面やら部屋全体がピカピカ光ってなんかパーティーの演出みたいになって来てた。途中、ブリジッタさんと話しながら食料品やら食器やら日用品を取り出してはマイアさんたちが片付けてく様は流石執事さんって感じ。
「これでひとまず安心です」
そう言ってタイラーさんが椅子に腰掛けたときにはアーロンの散らかり放題だった研究室はすっかり整頓された避難所の体を様してた。
「アエリア様、説明が遅くなって申し訳ありません。先ずは手順書通りの避難処置が最優先でしたので」
私に説明を始めたタイラーさんの手元にエリーさんがサッとお茶を出し、まるで当たり前のようにそれを一口啜ってタイラーさんが先を続ける。
「先週の定期連絡が途切れた直後、アーノルドの隊から緊急連絡が入りました。『フレイバーンより交渉の申し入れあり、第二王子と総師団長、生死不明』と」
「ヒッ」
タイラーさんが厳しい顔で告げた言葉に思わず口の中で小さな悲鳴が漏れた。だけどタイラーさんはそのまま補足するように先を続ける。
「アーノルドたちはその後攻め入ってきたフレイバーン軍と交戦状態に入ったようで、詳しい状況説明は全く届いておりません」
「生死不明……死亡ではないんですね」
「はい。ただ前もって戦況は厳しいとの連絡が来ておりました。フレイバーン側の出兵はアーロン総師団長率いる派兵軍の5倍近いと。
アーロン総師団長はご自分がいる限りそれも特に問題ではなかろうと判断し、転移ではなく正規の手順で追加出兵を要請されていたのですが」
そこで言葉をきって、言いにくそうに続けた。
「出兵に際して南ルトリアスの貴族数家が示し合わせたように揃って支援を渋り、未だその交渉に手こずっておりました」
「え、なんでお貴族様の支援が出兵に必要なんですか?」
「この国の王都警備隊も王室警備隊も、それぞれ有力貴族出の者が将校として働いてますし、彼らの実家からの支援が大きい分、彼らの影響力も大きいのです」
うーん、私とは全く縁のない世界の話でイマイチ細かいところは分からないけど、アーノルドさんたちが必要な援軍が立ち往生してるのはなんとなく分かった。
「ですので、現在交戦中のアーノルドからの連絡はあまり期待できないかと」
「……それでなんでタイラーさんがここへ? と言うかタイラーさん、自力で転移出来たんですか!?」
「いえこれはアーロン様が緊急用に設定されていた移動魔法陣を、お預かりしていたアエリア様の魔晶石で起動いたしました」
そこでちょっと困った顔でこちらを見て言いづらそうに先を続ける。
「ピピン様からも有事の際にはアエリア様の安全を全てに優先するよう言いつかっております。何しろ……もしアエリア様の身に何かあった場合、戦況に関わらずこの大陸はアーロン様に滅亡されるのが確定するとのことで……」
ああああ、否定できないのが怖い。アーロンやりそうだもんね。
「ただ申し訳ありませんが、言いつけを少しだけ曲げてでもピピン様の処遇を先に確認するまであちらを離れられませんでした」
ああ、それであちらのお話が聞こえてからしばらくタイラーさんが来なかったのか。
「えっとじゃあアーノルドさんからの連絡ではアーロンは生死不明、ってことですね。で、さっきの定期連絡でピピンさんにお話してたのはどなたですか?」
「それを含めて、この一週間、王城で起きたことを先ずはご説明させてください」
そう言ってお茶を一口飲んだタイラーさんは私たちが何も知らずにのほほんと暮らしてたこの10日ほどの間に起きた激動の数々を教えてくれた。
今、炎を通じて聞かされた内容のショックで頭が全然働かない。隣に座ってるスチュワードさんも、同様に呆然としたままだ。
とにかく今聞いたことが信じられない。違う、信じたくない。
呆然と机の上のランプを見つめてしまう。
もしかするとまた繋がって、今のは冗談だって声が聞こえてくるかも知れない。いやもしかして災害訓練とか、なんかそんな感じの──
そこまで考えたところで、突然執務室の床の一部が光りだした。途端、スチュワードさんが慌てて私を抱えて部屋の扉まで飛び退る。
続けて直ぐにその光の中心からタイラーさんが現れた。
「タイラー! 無事だったのですか! 一体王城で何が──」
「タイラーさん!」
私たちが駆け寄ると、直ぐにタイラーさんが私の前にきてサッと跪く。
「アエリア様、先ずは地下のアーロン様の研究室に退避いたしましょう」
「え?」
「この部屋はピピン様の執務室と今まで何度も繋げています。最悪、空間魔法に詳しい者が王城側から解析すれば繋げられてしまう恐れがあるのです。ですからここを破壊、封鎖して、階下に避難致します」
私が返事をする間もなく、横で話を聞いていたスチュワードさんが有無を言わさず私を抱えて走り出す。部屋を出てすぐ、背後から凄い音が辺境伯邸内に響いた。
え、破壊ってどこまで壊しちゃう気!?
スチュワードさんと一緒にアーロンの研究室に入ると、一瞬部屋が揺れたような気がした。今の振動も破壊作業だとしたら、あの部屋本当になくなっちゃってるかも。
私たちに続けてエリーさんとマイアさん、それにブリジッタさんがタイラーさんに伴われて部屋に降りてきた。
アーロンの研究室はいつも通りゴチャゴチャしてて、椅子も荷物で埋まってる。それをエリーさんとマイアさんがテキパキと片付けて、人数分の椅子を揃えて座らせてくれた。
その間もタイラーさんは何やら戸棚から引き出した本を片手に、手順よく部屋のあちこちで詠唱してる。
その度に壁一面やら部屋全体がピカピカ光ってなんかパーティーの演出みたいになって来てた。途中、ブリジッタさんと話しながら食料品やら食器やら日用品を取り出してはマイアさんたちが片付けてく様は流石執事さんって感じ。
「これでひとまず安心です」
そう言ってタイラーさんが椅子に腰掛けたときにはアーロンの散らかり放題だった研究室はすっかり整頓された避難所の体を様してた。
「アエリア様、説明が遅くなって申し訳ありません。先ずは手順書通りの避難処置が最優先でしたので」
私に説明を始めたタイラーさんの手元にエリーさんがサッとお茶を出し、まるで当たり前のようにそれを一口啜ってタイラーさんが先を続ける。
「先週の定期連絡が途切れた直後、アーノルドの隊から緊急連絡が入りました。『フレイバーンより交渉の申し入れあり、第二王子と総師団長、生死不明』と」
「ヒッ」
タイラーさんが厳しい顔で告げた言葉に思わず口の中で小さな悲鳴が漏れた。だけどタイラーさんはそのまま補足するように先を続ける。
「アーノルドたちはその後攻め入ってきたフレイバーン軍と交戦状態に入ったようで、詳しい状況説明は全く届いておりません」
「生死不明……死亡ではないんですね」
「はい。ただ前もって戦況は厳しいとの連絡が来ておりました。フレイバーン側の出兵はアーロン総師団長率いる派兵軍の5倍近いと。
アーロン総師団長はご自分がいる限りそれも特に問題ではなかろうと判断し、転移ではなく正規の手順で追加出兵を要請されていたのですが」
そこで言葉をきって、言いにくそうに続けた。
「出兵に際して南ルトリアスの貴族数家が示し合わせたように揃って支援を渋り、未だその交渉に手こずっておりました」
「え、なんでお貴族様の支援が出兵に必要なんですか?」
「この国の王都警備隊も王室警備隊も、それぞれ有力貴族出の者が将校として働いてますし、彼らの実家からの支援が大きい分、彼らの影響力も大きいのです」
うーん、私とは全く縁のない世界の話でイマイチ細かいところは分からないけど、アーノルドさんたちが必要な援軍が立ち往生してるのはなんとなく分かった。
「ですので、現在交戦中のアーノルドからの連絡はあまり期待できないかと」
「……それでなんでタイラーさんがここへ? と言うかタイラーさん、自力で転移出来たんですか!?」
「いえこれはアーロン様が緊急用に設定されていた移動魔法陣を、お預かりしていたアエリア様の魔晶石で起動いたしました」
そこでちょっと困った顔でこちらを見て言いづらそうに先を続ける。
「ピピン様からも有事の際にはアエリア様の安全を全てに優先するよう言いつかっております。何しろ……もしアエリア様の身に何かあった場合、戦況に関わらずこの大陸はアーロン様に滅亡されるのが確定するとのことで……」
ああああ、否定できないのが怖い。アーロンやりそうだもんね。
「ただ申し訳ありませんが、言いつけを少しだけ曲げてでもピピン様の処遇を先に確認するまであちらを離れられませんでした」
ああ、それであちらのお話が聞こえてからしばらくタイラーさんが来なかったのか。
「えっとじゃあアーノルドさんからの連絡ではアーロンは生死不明、ってことですね。で、さっきの定期連絡でピピンさんにお話してたのはどなたですか?」
「それを含めて、この一週間、王城で起きたことを先ずはご説明させてください」
そう言ってお茶を一口飲んだタイラーさんは私たちが何も知らずにのほほんと暮らしてたこの10日ほどの間に起きた激動の数々を教えてくれた。
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