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エンドレス・ラブ

23 裏切りの代償 ― 3 ―

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 王都はその夜混乱を極めた。

 城下町は雪崩こんだゴーレムにより破壊し尽くされ、外郭の城壁はすでに消し飛んでいた。折角一度は押し返した前線も、あっという間に城の内郭近くまで下がり、死傷者数はもう数え切れない。

「ケビンもういい、撤退しろ! アーノルド、負傷兵を一箇所に集めておけ!」

 騎士団棟の北、城の内郭から張り出し、城下町の北部全体が視野に収まる元訓練施設前からそれぞれの隊に指令を飛ばす。
 カールが率いていた即席予備軍のうち半数以上が魔力を持たなかった。それを再編成し、魔力のないものだけを魔導騎士団第4師団長のケビンに預けた。
 現在、アーノルドとカールが残っていた全ての魔導騎士団員他魔力のある奴全員を連れて、内外の城壁から要所に防御壁シールドを展開し、その内側から大型の投石機カタパルトバリスタを使ってゴーレムの足止めを行っている。
 ポールは既に辺境伯邸に送り、負傷兵の対処ほかあちらでの指揮を任せていた。
 魔力のないケビン率いる遊撃隊は、アーノルドたちの攻撃の合間を縫って街を駆けずり回っている。ゴーレムの巨体の前では彼らは無防備に近い。それでも彼らが囮となり、時間稼ぎをしてくれていた。

 地平線に伸びるゴーレムの影を視認した時点で、俺たちは撤退戦に移った。
 既にピピン、大公カール他王族どもはキール率いる近衛隊精鋭とともに『今現在最も安全な場所』へと転移させた。続いて生き残っていた城内の非戦闘員も次々と飛ばした。

 ゴーレムの侵攻が始まる前のわずかな静寂の間、ありがたい事に街に散っていた王都騎士団が城下町の住民を退避させてくれていた。俺の到着と時を同じくして駆けつけてきた北の三公爵家の私兵と諸侯軍も、王都南から最も近い諸侯領への移動の護衛を申し出てくれていた。とは言え、非戦闘民のかちである。まだ王都の南からさして離れられていないだろう。
 ここでまだ暫くこのゴーレムの波を抑えねば、あっという間に追いつかれ蹂躙されてしまう。
 街中で最後まで退避を先導していた各教会付きの神殿警備隊員が、最後に残っていた身動きの出来ない怪我人や寝たきりだった老人などを集めてきたのはもう空が薄らと明らんだ頃合いだった。
 それを転移で送り出した俺は、最後の仕上げに入ることにした。

「これだけか」

 集まったケビンたちと負傷兵共を見て、数を減らした面々に思わず呟いた。

 このゴーレムどもはやはりおかしい。
 確かにあの時フレイバーン軍の中心で渦巻いた魔力は、俺でさえ今までに見たこともない規模の土魔術だった。だが、いくらフレイバーン兵の命と引き換えに呼び出されたとはいえ、あの大量のゴーレムは数時間経った今も動きをとめる気配すらない。

 あのタヌキ親父、なにかとんでもない誓約をしたのか?

 だとしたら誓願の規定があるはずだ。どんな無茶に見える魔術も、必ず終端の姿は先に決められている。
 それに大きな代償を払えば払っただけ、条件はより厳しく限定するものだ。
 だから俺は真っ先に大公を転移させたのだが、それでもゴーレムの攻撃が収まる様子はなかった。そして今、俺の頭には非常に迷惑な仮説が浮かんでいた。
 目的は大公じゃなかった。そしてこの城の玉座や殲滅でもないようだ。
 なぜなら、ゴーレム共は城の中心ではなく、ここ、騎士団棟の北を目指して移動してきている。
 俺が立つ正にこの場所を。
 俺の考えが間違ってなければ、このゴーレムたちの目標は俺の命なのだろう。

「全く」

 お陰でゴーレムの動きはある程度コントロールできたが、気づくのがあまりに遅すぎた。
 順次こちらの兵を撤退させつつ、俺は一人で最後の片を付けようと考えていた。

「!」

 ケビンたちのすぐ後ろ、防御壁シールドと投石の合間を抜けこちらへ向かってきた一体のゴーレムに右手で圧縮した火球を飛ばしながら、左手でケビンたちの転移を発動する。消えるケビンたちのすぐ後ろで、火玉を食らったゴーレムが頭を吹き飛ばされて一瞬動きを止めるが、すぐに残った身体がまた進んでくる。
 そう、コイツラは全壊しない限り止まらない。再度風魔法を繰り出し、片足を切り飛ばすとその巨体をゆっくりと傾け、城壁の一部を巻き込みつつ崩れ去った。
 魔法攻撃自体は効くのだが、投石機バリスタなどの物理攻撃に比べ効率が非常に悪い。
 このままでも時間さえかければ間違いなく殲滅出来るだろう。だが、俺にはその時間が惜しかった。

『アーノルド、合図したら元訓練施設のあの部屋まで撤退してこい! すぐにここ一帯に俺の防御壁シールドを張る』

 竜の意志でそう伝えた俺は、以前古代魔法の転移陣を設置するのに借り受けた、元訓練施設の広い部屋を目指した。
 あの日描いた古代魔法の転移陣は砂の下だし、アエリアが乗らねば発動しない。あいつらが来ても気づかれることはないだろう。
 それよりも、今はあの部屋の大きさと天井の高さが必要だった。
 あの部屋ならばあいつらを転移させた後、問題なく擬態を解ける。
 そう思って目的の部屋の扉を開いた俺は、一瞬己が目を疑った。

「アエリア! なんでお前がここに!」

 揺らいだアエリアの姿が実態を結んだその途端、アイツの足元が光り、あの日描いた古代魔法の転移陣が勝手に起動した。

 クソッ!!!

 手を伸ばすが間に合わない。俺の目前、「あ」と間抜けな顔をしたアエリアの姿がまたも揺らいでいく──

 一瞬で姿を消すアエリアの赤い首輪に、俺は最後の起動魔法を叩きつけた。
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