悪魔な魔法使いの弟子はじめました。

こみあ

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エンドレス・ラブ

24 裏切りの代償 ― 4 ―

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「…………」

 突然飛ばされてきたそこは、とてもよく見知った部屋だった。

「ただい、ま……?」

 うん、ここはどこだかよく知ってる。
 だって私の部屋だもの。
 パイプベッドがあって、本棚があって、机があって。
 棚には沢山のぬいぐるみとほんの少しの参考書があって。
 姿見と、作りつけの小さなクローゼット、壊れかけの目覚まし、ラップトップと片付かない小物大量。
 間違いなく、ここは地球の、日本の、私が住んでる家の、私のベッドルーム。

 一体今なにがどうなったんだ!?
 さっきアーロンが見えたと思う。
 さっきなんかおっきな石の部屋にいたと思う。
 なのになんで?

「なんでそれで今ここなのぉー?!!」

 落ち着け私。
 もう一度なにが起きたか順を追って思い出そう。
 えっと、鍵を自分の体に使って絶界を出られたのは本当に良かった。
 口でも鍵穴代わりになるってこれかなり便利じゃない?
 で、そこから日本じゃなくてアーロンの所に出られたのはもっと良かった。アーロンに会いたいって強く願ってたからかな。でも、よく考えたら絶界だって違う世界なんだし、あれで世界を渡ったことになってたのかも。
 じゃあ、その後のピカー!ってなに??
 なんで私また飛ばされちゃったの???

『アエリア』

 グルグル考え混んでた私の耳に、突然アーロンの声が響いた。

「へ、え!? アーロン、師匠、どこですか!!??」

 思いっきりキョロキョロ辺りを見回すけど、どこにもアーロンの姿が見えない。
 会いたすぎて幻聴が聞こえてきたのかな……
 ちょっと泣きそうになった私の耳に、またもアーロンの声が響き出す。

『アエリア、これはお前に付けた首輪に仕込んだ自動再生メッセージだ。これが一体どんな状態で起動したのか、俺は知る術がない。まずはお前が無事であることを祈る』

 あ、これ、この首輪から流れてたのか!
 慌てて見下げるにも見えない。首なんて見えないよ!
 そう思って急いで部屋の姿見に駆け寄った。

「あれ?」

 そこに映った自分の姿に一瞬戸惑った。どう見ても若作りとかじゃなく、若い。あ、そう、以前教会で見た時と一緒。黒髪の、高校生くらいの若い顔の自分が、アーロンに貰ったスケスケのネグリジェと首輪で座ってる。あまりのミスマッチに違和感が爆発してるよ。
 混乱する私を他所に、首輪から流れる声は止まらない。

『これが起動したということは、俺は死んだか、さもなければもうお前を守ってやれない事態になったと言うことだろう。そして同時に、これでお前を辺境伯邸に閉じ込める契約も破棄されたことになる』

 え!!

 アーロンの声が告げた内容に、胃のあたりがキュゥっと痛んだ。

『安心しろ、俺がいなくなってもピピンやタイラーたちがお前の行末を守ってくれるはずだ。……そしてもし。もしもお前が俺の設置した古代魔法の転移陣で転移したのなら、そしてお前が元いた世界に帰り着いたのだとしたら』

 ちょっと言い澱むように、音声が一瞬途切れて、そしてまた流れ出す。

『そこが今一番安全だ、と俺が判断したと言うことだろう』

 え、じゃあ今アーロンは危険な状態ってことじゃないの?

『お前に会えなくなるのは辛い。だが、いつか、きっとまた会える』

 愕然としてる私を置いてきぼりにして、メッセージはひたすら進む。

『何年、何十年、何百年かけてでも、必ず俺がお前をここに召喚し直してやる!』

 やけに力の籠るアーロンの言葉に、自分は見捨てられた訳じゃないんだってホッとした。

『だから、待っていろ。待っていてくれ。俺が迎えに行くまで』

 最後はなんか悲痛な声音になって、そしてメッセージが終わったのかそれっきりアーロンの声は聞こえなくなっちゃった。

 何百年は待てないよ。

 思わず突っ込んで悲しくなる。アーロンにとって何百年でさえさして長い時間じゃないのかな。
 もう一度聞きたいけど、無理だよね、これ。

 鏡の中の自分の首輪を見つめて、ため息が溢れる。

 ……そっか。古代魔法、もう完成してたんだ。
 私がどこから来たのかも、どうやって帰せばいいのかも、アーロンはもう分かってたんだ。
 例えそうだとしても、ここがどんなところかも知らないで、八年ぶりでただ送り帰して、私が無事でやってけるって本気で思ってたのかな。

 アーロンなしで。

 そう思った途端、涙が溢れ出してきた。

 私を帰せることを教えてくれなかったアーロンも、自分で帰れることをずっと言わなかった私も。
 私たち、どっちもどっちで酷い嘘つきだったんだね。
 だからそれを教えてくれなかったのは、もう仕方ないし、恨みもしない。

 だけどそれでも、一つだけ許せないことが残ってる。
 アーロン、これ、自分が死んだ時も起動するように設定してた。
 アーロン、本当に危なくなったらいつでも私をこっちに送り帰そうって思ってた。
 でもじゃあ、なにが迎えに行くだよ。死んじゃったら迎えにこれないじゃん。

 私はポロポロこぼれ落ちる涙をネグリジェの裾でゴシゴシと拭って、そしてもう一度ポケットからさっきの鍵を取り出した。
 立ちあがって、部屋の扉に向かう。
 その鍵穴に、鈍色のその鍵を、挿して、捻る。
 以前は何度もこうやって行き来してきたんだ。
 使えなかったらどうしようって不安はまだあるけれど、戻らなきゃ、戻れるはずって希望のほうが今は上。
 ドアノブをしっかり握って、一気に開く。
 扉の向こう側に見えたのは、さっき見たばかりの石造りの広い部屋。

 戻って来れた!

 そう喜んだ私は、だけどすぐ目に飛び込んできた光景に息を飲む。
 ただっ広い部屋の中央には美しく銀に輝く巨大な竜が一匹。狭い部屋いっぱいに翼を広げたその竜は、今正に飛び立とうとしているとこだった。
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