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第12章 北の砦
22 ドラゴンさんのお話3
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「え……滅ぼすって!?」
いくらなんでも私、そんな怖いことするわけない、というか絶対したくない。
そう思いつつ、でも不安が全くない訳じゃなく。
「私確かにノーコンでご迷惑かけますが、そんな大それたことするつもりは……」
つもりがなくても、もしかして私、危険なんだろうか?
思い当たりすぎて怖くなって語尾が消えちゃった。
そんな私を見て、ルディンさんのお母さんが困ったように小首をかしげる。
「魔術のコントロールならばエルフの女王のほうが得意です。あれは中々打ち解けにくいかもしれませんが、一度教えを乞うといいでしょう」
うう。もう教わってるんだけど、言いにくい……
「シアンさんにはもう教えて頂いてるんです。ただ私が不出来なだけで……」
恥ずかしくて、消しいるような声になっちゃった。
「……あれはもう少し丁寧にあなたを導いてもいいでしょうに」
それは違う、シアンさんは全然悪くない、そう思って慌てて口を開く。
「い、いえシアンさんはすっごく丁寧に教えてくれてるんです。実際、教わって直ぐは全てコントロール出来てたんです。本当に、単に私の覚えが悪いのと、魔力が大きくなりすぎて調節が難しくなってるだけで……あ、ほら、最近教えて貰ったばかりの土魔法はこの通り大丈夫なんです」
そう言って、さっき土魔法で作った椅子とテーブル、そして今その上に土魔法で刻んでた幾何学模様を指差した。
黒猫君とバッカスは勿論、ルディンさんのお母さんも私がずっと何かやってるのは見てたんだと思う。そのテーブルの模様に目を移して一つ頷いた。
「その左側、上から五番目の接続点を六つ下に繋いで、次の列の接点を四つ目に変えておきなさい」
「それで貴方専用のものが出来上がります」
「ドン、それの鋳型を取って」
「あなた達の得意な鉄板にして差し上げなさい」
ルディンさんのお母さんの言葉を話しつつ、ドンさんが目前でウンウンと頷いてくれた。
このままだと雨が降ったらダメになっちゃうって思ってたから、その申し出は本当にありがたい。
「あ、ありがとうございます」
黒猫君が「なんだそれ?」ってもの問い顔でこっち見てるけど、説明は後でいいよね?
私は早速土に彫られた模様をルディンさんのお母さんに言われた通りに書き換えていく。
それを確認したルディンさんのお母さんは、ちょっと考えてから話し出した。
「あゆみ、貴方の魔力はこれ以上強くしてはいけません」
「は、はい、もちろん私もそのつもりで……」
私だって調整したい。出来るなら減らしたいし使いたくない。そう思って答えようとした私を押し留めるように、ルディンさんのお母さんが首をふりつつ変な質問を口にする。
「あゆみ、あなたはこちらに来る以前の記憶がありますか?」
「はい、あります」
不意に当たり前のことを聞かれ、不思議に思いつつも即答すると、ルディンさんのお母さんが困ったようにゆっくりと聞き直してくる。
「では、あなたにとって大切だった者たちのことを一人一人紹介してみてください」
「は、はい、もちろん。最後家に残ってたのは飼い猫の……えっと……あれ? 名前ど忘れしちゃった。じゃ、じゃあ先に犬の…………あれ? ほ、ほら大学の友人の…………?」
あ、あれ?
あれ?
あれ???
……え、待って、お、思い出せない!
名前を言おうとするのに、もうここまで出てきてるはずなのに、どうしても一つも出てこない!
待って、え、どうして!?
思わず黒猫君を見る。すぐにルディンさんのお母さんが黒猫君にも尋ねる。
「ネロ、貴方はどうですか?」
「思い出せる。世話になったジジイの名前は島○正造だ。俺の最後のクライアントはロバート・ショウ。最後に連んでた仲間はジェイクとシンと……あゆみ、大丈夫か?」
多分、今私、真っ青な顔してるんだと思う。黒猫君とバッカス、ディアナさんまでがすごく心配そうに覗き込んできた。でも今回は本当に自分の混乱を繕う余裕もない。
な、名前、うちの猫、うちの犬、ずっと一緒に暮らしてた……
「これからも貴方が望めば、貴方はより強い魔力を得るでしょう」
「でもあゆみ、貴方の強い魔力には代価があるのです」
「それを決して忘れないように」
ぐるぐると悩んでる私に、ルディンさんのお母さんの言葉が一つ一つ重く響く。
待って、じゃあ私、今まで魔力と引き換えにこんなに沢山忘れちゃったってこと?
私が記憶と引き換えに、魔力を、選んだの?
もう、思い出せない……?
問いたいことは山ほどあるんだけど、返ってくる答えが恐ろしくて、どうしても尋ねる勇気が湧いてこない。今はキツく手に爪を立てて、不安に崩れ落ちそうな自分を支えるのでいっぱいいっぱいだ。
そんな私から顔を背け、北の彼方を見やったルディンさんのお母さんが、突然なにかに急かされるように早口に告げる。
「あまり私たちの帰りが遅いので他の者が騒ぎ出しているようです」
「私たちは一旦北に戻ります」
「どちらにしろ、これ以上は今の貴方には過ぎるでしょう」
「ここの片付けは任せますよ、ルディンの小人たち」
突き放すようにそう言って、ルディンさんのお母さんとご一行様がグワンと大きな翼を広げた。そして来た時同様、大量の土埃と竜巻のような風を巻き上げながら、ジェット機の群のような轟音とともに北の空へと飛び立って行かれた。
いくらなんでも私、そんな怖いことするわけない、というか絶対したくない。
そう思いつつ、でも不安が全くない訳じゃなく。
「私確かにノーコンでご迷惑かけますが、そんな大それたことするつもりは……」
つもりがなくても、もしかして私、危険なんだろうか?
思い当たりすぎて怖くなって語尾が消えちゃった。
そんな私を見て、ルディンさんのお母さんが困ったように小首をかしげる。
「魔術のコントロールならばエルフの女王のほうが得意です。あれは中々打ち解けにくいかもしれませんが、一度教えを乞うといいでしょう」
うう。もう教わってるんだけど、言いにくい……
「シアンさんにはもう教えて頂いてるんです。ただ私が不出来なだけで……」
恥ずかしくて、消しいるような声になっちゃった。
「……あれはもう少し丁寧にあなたを導いてもいいでしょうに」
それは違う、シアンさんは全然悪くない、そう思って慌てて口を開く。
「い、いえシアンさんはすっごく丁寧に教えてくれてるんです。実際、教わって直ぐは全てコントロール出来てたんです。本当に、単に私の覚えが悪いのと、魔力が大きくなりすぎて調節が難しくなってるだけで……あ、ほら、最近教えて貰ったばかりの土魔法はこの通り大丈夫なんです」
そう言って、さっき土魔法で作った椅子とテーブル、そして今その上に土魔法で刻んでた幾何学模様を指差した。
黒猫君とバッカスは勿論、ルディンさんのお母さんも私がずっと何かやってるのは見てたんだと思う。そのテーブルの模様に目を移して一つ頷いた。
「その左側、上から五番目の接続点を六つ下に繋いで、次の列の接点を四つ目に変えておきなさい」
「それで貴方専用のものが出来上がります」
「ドン、それの鋳型を取って」
「あなた達の得意な鉄板にして差し上げなさい」
ルディンさんのお母さんの言葉を話しつつ、ドンさんが目前でウンウンと頷いてくれた。
このままだと雨が降ったらダメになっちゃうって思ってたから、その申し出は本当にありがたい。
「あ、ありがとうございます」
黒猫君が「なんだそれ?」ってもの問い顔でこっち見てるけど、説明は後でいいよね?
私は早速土に彫られた模様をルディンさんのお母さんに言われた通りに書き換えていく。
それを確認したルディンさんのお母さんは、ちょっと考えてから話し出した。
「あゆみ、貴方の魔力はこれ以上強くしてはいけません」
「は、はい、もちろん私もそのつもりで……」
私だって調整したい。出来るなら減らしたいし使いたくない。そう思って答えようとした私を押し留めるように、ルディンさんのお母さんが首をふりつつ変な質問を口にする。
「あゆみ、あなたはこちらに来る以前の記憶がありますか?」
「はい、あります」
不意に当たり前のことを聞かれ、不思議に思いつつも即答すると、ルディンさんのお母さんが困ったようにゆっくりと聞き直してくる。
「では、あなたにとって大切だった者たちのことを一人一人紹介してみてください」
「は、はい、もちろん。最後家に残ってたのは飼い猫の……えっと……あれ? 名前ど忘れしちゃった。じゃ、じゃあ先に犬の…………あれ? ほ、ほら大学の友人の…………?」
あ、あれ?
あれ?
あれ???
……え、待って、お、思い出せない!
名前を言おうとするのに、もうここまで出てきてるはずなのに、どうしても一つも出てこない!
待って、え、どうして!?
思わず黒猫君を見る。すぐにルディンさんのお母さんが黒猫君にも尋ねる。
「ネロ、貴方はどうですか?」
「思い出せる。世話になったジジイの名前は島○正造だ。俺の最後のクライアントはロバート・ショウ。最後に連んでた仲間はジェイクとシンと……あゆみ、大丈夫か?」
多分、今私、真っ青な顔してるんだと思う。黒猫君とバッカス、ディアナさんまでがすごく心配そうに覗き込んできた。でも今回は本当に自分の混乱を繕う余裕もない。
な、名前、うちの猫、うちの犬、ずっと一緒に暮らしてた……
「これからも貴方が望めば、貴方はより強い魔力を得るでしょう」
「でもあゆみ、貴方の強い魔力には代価があるのです」
「それを決して忘れないように」
ぐるぐると悩んでる私に、ルディンさんのお母さんの言葉が一つ一つ重く響く。
待って、じゃあ私、今まで魔力と引き換えにこんなに沢山忘れちゃったってこと?
私が記憶と引き換えに、魔力を、選んだの?
もう、思い出せない……?
問いたいことは山ほどあるんだけど、返ってくる答えが恐ろしくて、どうしても尋ねる勇気が湧いてこない。今はキツく手に爪を立てて、不安に崩れ落ちそうな自分を支えるのでいっぱいいっぱいだ。
そんな私から顔を背け、北の彼方を見やったルディンさんのお母さんが、突然なにかに急かされるように早口に告げる。
「あまり私たちの帰りが遅いので他の者が騒ぎ出しているようです」
「私たちは一旦北に戻ります」
「どちらにしろ、これ以上は今の貴方には過ぎるでしょう」
「ここの片付けは任せますよ、ルディンの小人たち」
突き放すようにそう言って、ルディンさんのお母さんとご一行様がグワンと大きな翼を広げた。そして来た時同様、大量の土埃と竜巻のような風を巻き上げながら、ジェット機の群のような轟音とともに北の空へと飛び立って行かれた。
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