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5巻
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しおりを挟む1 王立自治区ネスト領
貴族の三男坊として生まれた僕、クロウ・エルドラド。スキル授与の儀式の直前、前世の日本人として生きていた時の記憶を思い出したことで魔法の世界にわくわくしていたのに、授かったスキルはこの世界では不遇とされる錬金術だった。
せっかく貴族として生まれたというのにこの不遇スキルでは表舞台に立つことすら許されず、僕の貴族としての道はあっさりと途絶えてしまう。
それでも錬金術の可能性を信じ、仲間や家族の協力のもと辺境の地の開拓に成功したことで錬金術スキルの評価は高まり、ついにネスト村はエルドラド領から独立して王立自治区に。そしてなんと僕も男爵位を授かってしまった。
辺境の地でのんびりと家族のために頑張ろうかな、ぐらいの軽い気持ちだったのに、これからは貴族としての責任が問われる状況となってしまった。
それでもいきなり僕に領地を任せるというわけではなく、王太子であるアドニスをトップに置いて、僕は補佐をしながら勉強しなさいということらしい。
ウォーレン王もアドニスにここでしか感じることのできない錬金術スキルによる街造りや、精霊さん、それとドラゴンとの共生について実際に触れ合うことで学ばせたいのだと思う。街の中に精霊さんとかドラゴンとか普通はいないからね。
ということで、王都での凱旋を終えて新たに自治区となった新ネスト領に戻ってまいりました。
◇
久し振りにネスト村に帰ってきた。
このほっとする気持ち、なんというか前世の記憶が戻ってからほとんどの時間を過ごしてきたこの場所が、今ではホームタウンと言っても過言ではないだろう。
「ここがネスト村なんだね。いや、もう村ではないか。それにしても、聞いてはいたけど……大きいね」
「ようこそネスト村へ。あっ、もう王立自治区ネスト領でしたね」
そうそう。ネスト村はついに村からレベルアップして、街を超えて、王立自治区ネスト領という立派な名前に改名することになった。
アドニスにはここまで来る馬車の中で旧ネスト村についての説明をしておいたからまだ良かったものの、帯同した近衛騎士団は初めて見るネスト村に驚愕の表情を浮かべている。
王都と比較しても差のない、いやそれよりも分厚く高さのある土壁。そして、その奥にそびえ立つドラゴンの棲まう立派な塔。そして周りを囲む大きな水堀。
辺境の地と聞いていたのに、話で聞くよりも綺麗で美しい場所。そして初めて見る種族や精霊の姿に衝撃を受けている。
騎士たちにもそれなりには伝えていたとは思うけど、百聞は一見にしかずというか、聞いた話と実際に目にするのとではかなり違いがあるということなのだろう。
まあ実際、建物とかは造って一年ぐらいしか経っていないからまだ新しい。畑の作物は魔力たっぷりの土で元気いっぱいに育っている。そして壁の内側に湖があるとか意味不明だしどうなってるんですか? って感じだよね。
入口で僕たちを出迎えてくれたのは、ピンクのミニスカギガントゴーレム。そして好奇心旺盛な精霊たちが何事かと物珍しそうに集まってくる。
ふと横を見ると、ちょうど川から荷物を揚げたばかりの川リザードマンたちがゴーレム隊のいる隊舎へと荷物を預けていく。
「あ、危ない! キラービーが」
「慌てるな。事前に説明してるだろう。ここのキラービーは仲間なんだ。ほらっ、手紙を運んでいるのが見えるだろう」
キラービーは何かを探すように空中を舞うと僕の家の方へと向かっていった。おそらくバーズガーデンからセバス宛の手紙なのだろう。
「こ、ここは、本当にベルファイア王国なのか……」
辺境の地だけど、間違いなくベルファイア王国で合っております。
まあ、騎士たちが驚くのも無理はない。でも驚くのはまだ早い。まだ見せていないものはいっぱいあるし、こんな調子じゃ広場にたどり着く頃には日が暮れてしまう。
騎士たちは飽きもせずポカーンとゴーレム隊を見続けている。
ゴーレム隊は荷物を検品しては各場所へと仕分けして運んでいく。それは牧場の方だったり、新設された冒険者ギルドの方だったり、食料庫に運ばれる物もあるだろう。
他にも畑の収穫を手伝っていたり、外から警備のゴーレム隊が戻ってきては問題がなかったか情報を共有したりしている。
僕からしたらいつも見てきたネスト村の光景なんだけど、初めて見る人にとっては珍しいのだろう。様々な種族がいて錬金術師が操るゴーレムが日々の生活の中に溶け込んでいる。
でも、これがきっと王国の日常になっていく。
ここで研究している便利な物を王国に伝えていき、もっともっと楽をしたい。そのためには僕も全力を尽くしたい。
おっと、そろそろ移動してもらわないとね。今日はまだまだやることが多いのだから。
「とりあえず、ここで立ち止まっているのもなんですし、この先の広場まで進みましょうか」
そうして見えてきた広場では、王都ではなかなか見かけないドワーフたちが何人も集まって酒を呷るように飲んでいる。
「あいつら、ちゃんと仕事してたんだろうな……」
「騎士団は三隊に分かれ、昼食をとる組、温泉に入る組、警護に当たる組に分かれるように」
とりあえずはここで休憩をしてもらってる間に、お城と騎士団用の集合住宅を建てたいと思う。
あっ、近衛騎士団用の詰所も入口付近に建てる必要があるんだっけ。まあ、とりあえずはいっぱいある荷物を運び入れる城の建設からだろう。
「アドニス、お城を建てるからちょっと一緒に来てもらえるかな」
「ちょっと散歩に行く感覚で城を建てるというのが、にわかには信じがたいな」
「一応話し合った図面の通りに造るつもりだけど、途中で何か希望があったらなんでも言ってね」
城の装飾とかは苦手なので、そういうのはおいおいアドニスの方でなんとかしてもらいたい。僕は下地となる建物を強度高めで安全に造ることに注力する。
「クロウお坊ちゃま、お帰りなさいませ。話は手紙で伺っておりますが、改めて男爵位叙任おめでとうございます。セバスはクロウお坊ちゃまが認められることをずっと信じておりました」
「うん。ありがとう。セバスが支えてくれたからこそだよ。これからもよろしく頼むね。あっ、こちらはアドニス王太子だよ」
「クロウから優秀な執事だと聞いている。新しい王立自治区における筆頭執事として、引き続きクロウと私を支えてもらいたい」
「過分なお言葉、誠にありがとうございます。この老いぼれで良ければ是非ともお手伝いさせてください」
セバスとも顔合わせが済んだし、ちゃっちゃとお城の建築といこうか。
湖を拡大するようにして掘削しつつ、城周辺の水域だけ防犯のために深度をとる。
この湖はもともと釣りをしたり、子供たちが水遊びしたりするために造られているので、手前側はかなり浅くなっていて中心に行くにつれ深くしていた。
しかしながら王族が住む城となると、そういうわけにもいかないだろう。もちろん、大きな土壁の内側なので安全面はそれなりに高いのだけど、冒険者ギルドがある以上、不特定多数の人がやってくるのは避けられない。
僕も毎日鑑定とかするの嫌だからね。ということで、基本的な警備は近衛騎士団にやってもらう。彼らは王族を守るのが役目なのだからね。
ということで、城へ渡る桟橋を架け、そこを重点的に警備してもらうようにしよう。
「もう、一階部分ができ上がってしまったのか……」
「そうですね、あと少しで完成します」
「えっ、完成するのか!?」
実際には地下も造っているので階数的には二階までがすでに完了している。ここから高さ三階まで積み上げて、屋上にも広くスペースをとる予定だ。
湖上の城なので眺めもいいはず。王族や貴族の方が来た際のもてなしにも使えるようにとの希望だったので、サービスでバーベキューセットやピザ窯も設置しておいてあげよう。
ここでビアガーデンとかやってもいいかもしれない。僕はまだお酒飲めないけど……。ハチミツと果物で甘いジュースとか飲んでもいいかな。氷を入れて冷え冷えにして飲むのはきっと快適なことだろう。
というわけで、お城、完成しました。
湖に浮かぶように立つネスト城。少し離れたところから眺めていた領民たちも感嘆の声を上げている。僕としてもなかなかの出来栄えに満足である。
子供たちの遊び場が縮小してしまったので、あとで反対側の湖をもう少し拡張しておこう。
「本当にあっという間に完成してしまったのだな……。クロウ、もう入ってもいいのか?」
アドニスも興奮気味だ。王都からあまり出たことがないと言っていたし、初めての自分の城になるのだから喜びも一入といったところだろう。
「問題ないですよ。一緒に見学しながら、直したいところとかあれば言ってくださいね」
今日のところは荷物を運び入れたりバタバタするだろうから、必要最低限の家具はすでにこちらで用意させてもらった。
「クロウお坊ちゃま、ご連絡いただいておりましたベッドや家具の搬入はいかがいたしましょうか」
「うん、全部運んじゃって」
セバスとは王都を出発する前に手紙でいくつかやりとりをして、準備を進めておいてもらった。
「かしこまりました」
アドニスがいる間はこの城の城主はアドニスなわけだけど、彼もずっとここにいるわけではない。数年、きっと長くても五年もしないうちに王となるべく教育を受けるために王都ベルファイアへ戻ることになるだろう。
そうなると、この城はそのまま僕が受け継ぐ可能性があるのだそうだ。もちろん、そうはならずに王族の血縁者が貴族位をもって赴任してくる可能性もあるのだろうけど。
アドニスからは最初、城で一緒に暮らせばいいと言われたのだけど、僕にはお気に入りのマイホームがあるし、貴族になったばかりで下っ端男爵位の僕が王太子と一緒に暮らすというのは他の貴族とかに生意気だとか言われそうな気がしたので遠慮させてもらった。
年齢的にも王立自治区の代表とかではなく、今のような補佐的な位置づけの方が各方面にも角が立たないと思っている。そもそも僕に貴族の責務とか言われても困るし、気楽に誰かの影に隠れながらのびのび開拓している方が性に合っているのだ。
「思ってた以上にしっかりとした造りになっているのだな」
そりゃあ、王太子の住まいになるのだからそれなりの設備にしなければならない。
地下には何かあった時用に脱出用の抜け道を造る予定だし、一階にはダミーで小舟を用意しておくつもりだ。ついでに実際に乗って小魚ぐらいは釣れるやつも造るつもりだけど。
「地下は食料庫や倉庫ですね。一階は東側に調理場や洗濯などの作業場。西側にリネン室と侍女や執事たちの住まい、それから簡易的な応接室とダイニングルー厶となっています」
「結構広いんだね……。これをあの一瞬で造ったのか?」
「装飾関係はお任せしますね」
絵画や高級な絨毯などといった物は辺境の地にはない。その辺はアドニスに丸投げしている。
「あー、うん。えーっと、それじゃあ二階を見てみようか」
二階は客間が数部屋あって、そのすべてがレイクビューとなっている。そして、こちらにも応接室を用意している。また、外側から屋上スペースへ上がれる階段が設けられており、出入りできるようになっている。
三階にあるアドニスの寝室や執務室へは近衛騎士がいる階段を通らなければ行けないようにしている。こうすれば騎士の警護するエリアも最小限で済むだろうとのことだ。
そして屋上スペースには屋根のある食事スペースと踊れるぐらい広いガーデンスペースを造った。ここで来客を歓待することもできるし、ちょっとしたパーティーの催しも可能だ。
「なんでクロウは建築やら排水やらの知識があるのかな? その歳でどうやってこの規模の城を、しかも僅かな時間で造れちゃうのかな」
「家造りはなんと言いますか……ネスト村は全部僕が造ってますし、温泉や井戸や排水設備もほぼ僕一人で造り上げたので、この城はその経験が全部詰まった最高傑作である自信はあります」
「そ、そういうものか……。一般の家とこの規模の建築はまったく別物のような気がするのだが、実際にできてしまっているので受け入れるしかない……のか」
「まだ完成ではないですよ」
「こ、これで完成していないのか!?」
「ほらっ、アドニスから希望のあった地下の脱出用抜け道はこれから作業しなければなりませんし」
「そ、そうだったな。それにしても驚いた。クロウがいれば戦場でも一夜にして堅牢な城や砦ができてしまうのではないか……」
そういうことには極力関わりたくないので、今の話は聞かなかったことにしておこう。
そもそも隣国と揉めているという話は聞いていない。辺境の開拓と魔物対策ぐらいのものだろう。
◇
というわけで、一通りの建築が完了すると、お祝いを兼ねた恒例のバーベキュー大会の開催へと移行する。
辺境の地あるあるとして、何かあった時のイベントはとにかくバーベキュー。美味しい肉を焼いてお酒やジュースを飲んで全員で盛り上がる。
今回はアドニスが肉と飲み物代を提供してくれることになったので、僕も含めて完全無料。人も増えてきているので結構な出費になると思うんだけど、これが王族パワーなのだ。
王立自治区となったことで、開拓にも支援金が入ってくるようになったらしい。このお金をどういった研究や開拓費用に充てるかは今後の話し合いで決まっていくだろう。とりあえずはダンジョン探索の拡充やミスリルの増産がメインになってくると思うけど。
ということで、今は住民総出でひたすら肉を焼いてくれている。夕方には冒険者も戻ってくるだろうから本格的に食べ飲み尽くされていくだろう。一応、期限は朝日が昇るまでとさせてもらっているが、明日は全員動けないことがほぼ決定していると見ていい。
ドワーフたちはすでに広場の一部を占領して朝まで徹底的に飲む構えだ。今回お酒はたっぷり持ってきているし、追加の注文も入れているのでたぶん問題ないはず。
明日はダンジョンも暇になるだろうとクネス大師をお呼びしている。いや、そもそも今の探索エリアにおいてクネス大師の出番はないんだけどね。
分身体でも良かったんだけど、一度ぐらいはちゃんとアドニス王太子と顔合わせした方がいいのではということでこのタイミングとなった。
「どうもはじめまして、クネスと申します」
ネスト城に最初にご招待したのが、ゴズラー教のクネス大師ということになる。
今後は王家の情報網にもなっていく予定なので、アドニスとの関わりも深くなっていくことだろう。
「うん、君がダークネスドラゴンのクネス大師なんだね。今後ともよろしく頼むよ」
「あっ、はい。こちらこそ、よろしくお願いします」
最初に見た時の印象からは幾分元気そうに見えなくもない。相変わらず疲れた中年のような姿のままだけれども。
「クネス大師、ちょっと元気になりました?」
「クロウさん、わかりますか? ダンジョンの魔力がなかなか良くて、いつもよりなんだか調子がいいんですよ。ずっと腰痛が酷かったんですけど、最近は痛みもやわらいでる気がするんですよね」
へぇー、ドラゴンも腰痛とかあるんだね……。
「腰痛ですか、大変なんですね……。ひょっとして結構なお歳だったんですか?」
クネス大師の年齢っていくつぐらいなんだろうか。見た目だけで判断できないドラゴン年齢。
「あー、私の年齢は見た目通りの、確か……六百歳ぐらいでしたかな。あんまり覚えてないんですけどね。以前の住処が龍脈の移動で消滅してからここ二百年ぐらいは気苦労も多くて、一気に老け込んじゃいました。あは、あははははっ」
見た目でわからないから疑問だったんだけど、ドラゴンにとって六百歳がどのぐらいの年代なのかもわからない。
ほらっ、アドニスもどう反応していいかわからなそうな顔しちゃってるじゃないか。
とりあえず話の流れを元に戻そう。
「例の情報収集の件だけど、どんな感じなのかな。こちらで手伝えそうなこととか何かある?」
「本格的な稼働は私が導師になってからなので、まだ何が必要かはわかりませんね。一応クネス派の信者にはすでに号令をかけていますので、それぞれ、貴族家の下働きとして潜入させる手立てとなっています。入り込むのが難しい場所については、私の分身体が情報を取って参ります」
「うむ。そういうことであれば、王家にも手伝えそうなことはあるか。能力のある者で侍従や執事として入り込める可能性があるなら、養子縁組などして家柄を整えさせよう」
「なるほど。確かにその方が集められる情報も増やせますね。最悪の場合は面接時に眠らせて有利に進めようと思っておりましたが……やはりその方が無難ですよね」
ちょっと闇属性の黒い部分が見えた気がした。あとで聞いた話だと、眠らせるといってもそこまで強力に作用するものではないらしく、対象者の気持ちを少し揺り動かす程度の効果とのこと。闇属性魔法というのは一見万能に見えるけど、その分効果が伴わないものが多いようだ。
それでも使い方によっては補助的に効果を高めることもできるだろうし、戦闘において敵の隙を突くには十分すぎるものだとは思う。
僕としては、クネス大師みたいに闇に潜ったり、収納機能のあったりする魔法というのは憧れてしまう。
あとで教えてもらう予定なので、とても楽しみにしている。
「王家の暗部も数名、ゴズラー教の教会へ向かわせる。金や武力など必要に応じて頼ってくれ。配置に関してはこちらも希望があるのだが」
「なるほどですね。それでは信者の多いこのエリアはいかがでしょうか。場所は王太子派と対立するリッテンバーグ伯爵領ですね」
ということでゴズラー教を傘下に引き入れ、各地の情報網を手に入れるというミラクルにあっさりと成功してしまったのだった。
◇
宴の翌日は広場で夜を明かした人も多くいるようで、酔っ払いがいっぱい倒れている。冒険者が増えたせいか知らない人も多い。
セバスいわく、酒の消費量がかなり増えているそうでバーズガーデンへの発注数を大幅に増やしているとのこと。人が増えれば必要になってくるものも変わってくるということか。
この光景を見て改めて、駄目な大人にはならないように気をつけようと思う次第である。人はなぜ倒れるまで飲むのだろう。あー、無料だからか……。
「おお、小僧、おせぇーじゃねぇか。やっと飲みに来たのか。うぃっく」
そして、通常通りというか、朝まで飲んでも潰れていないアル中軍団だけが元気そうにしている。こういう欲望に忠実なところが、ドワーフのドワーフたる所以なのだろう。
「ミスリルの剣はちゃんと打ってたんだろうね?」
「なんでぃ、いきなり仕事の話とは無粋じゃねぇか。なぁ、ノルド」
「そうじゃな、ベルド。まぁ、小僧も一杯飲もうや」
そう言って差し出してきたのは紛れもないエール酒。こいつらとうとう脳みそまでいかれたらしい。
「僕はまだお酒が飲めない年齢なんだよ」
「そいつはハチミツで割ったやつだから、ほぼジュースみたいなもんじゃわい」
エール酒にハチミツを混ぜるとは、一応気を遣っているということか。ドワーフはアルコール度数の高いお酒を好む傾向にあるから、このハチミツ割りは僕用に作ったカクテルなのだろう。
無下にするのもなんなので、とりあえず一口ぐらいは付き合ってやるか。
「しょうがないな。乾杯だけだよ」
「おう、そうこなくっちゃのう」
「じゃあ、かんぱーい! ぶふぉぉーああっ!」
口に入れた瞬間、熱い炎をそのまま突っ込まれたかのような衝撃で、思わず全部噴き出してしまった。
「ふぁっ、ふぁっ、ふはっ! もったいないのう」
「見事騙されよったわい」
コップのふちに塗られたハチミツの香りでまんまと騙されてしまった。こいつら人の好意を……。
「十二歳の子供に対するいたずらのレベルを超えてるだろ!」
「すまん、すまん。小僧に会うのが久し振りだったしのう。それに小僧が十二歳というのは信じられんのよ。なぁ、ノルド」
「そうじゃのう、ベルド。こやつの頭脳は悠久の時を生きたエルフのようじゃ。それに例の草かポーションを飲めばすぐに回復するんじゃろ」
草って、デトキシ草ね……。ドワーフにとっては、毒消しポーションやその原料であるデトキシ草は天敵であるかのような扱いだ。酔っていた気持ちいい気分を、すぐに取り除かれてしまうかららしい。
それにしても、こんな小さな見た目の僕が成人なわけないだろ。頭は前世の知識込みで結構な年齢かもしれないけど、体は間違いなく子供なんだ。
「まったく、思わず飲み込まなくて良かったよ」
エール酒のハチミツ割りと思われたのは、アルコール度数の高いドワーフ族秘蔵の火酒の一種でフレイムスピリッツとのこと。
火酒とは名前の通りアルコール度数の高さから来ており、火をつけられるほどアルコール濃度が高い酒だ。
「それからのう、ミスリルの剣じゃが」
「うむ、結構いい代物が完成したぞい」
「おおー、ちゃんと打ってたんだね」
「当たり前じゃ。ドワーフは酒も好きじゃが、鍛冶も好きなんじゃ」
「特に材料がミスリルとなると、そうそう扱える代物でもないからのう。寝る間を惜しんで造ってしまったわい」
寝る間は惜しんでも、きっと酒の時間は削ってはいない。それがドワーフという種族だということを僕は知っている。
「嬢ちゃん用の細いのとは違った、武骨で荒々しい感じに仕上がったぞい」
「うむ、自信作じゃ」
この兄弟からこういうコメントが出てくるのは珍しい。きっとそれなりの業物が完成したのだろう。
「見せてもらってもいい?」
「おいっ、例のやつを持ってこい。落とすんじゃねぇぞ」
「へいっ!」
新入りと思われるドワーフに工房へ取りに行かせるノルド。
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