皇帝とおばちゃん姫の恋物語

ひとみん

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『待たせちゃってごめんね~。や~っと、見つけてきたのよ~』
「・・・・今更、世話役など・・俺は・・・」
『あぁ、そっか・・まだアレ・・が効いたままなのね・・・まぁ、難しく考えなくていいわよ。昔私と過ごした様に過ごせばいいんだから』
そう言って、右手を上げた。
その指先から光が生まれ大きな球体のように膨れ上がっていき、それは徐々に人型を成し、その姿が顕わになる。

空中に浮かぶその人は、黒い髪を揺らめかし、見たこともない白い衣を纏っていた。
『はい、受け取って』と、アルフォンスの腕の中にそっと下ろした。
ユリアナと同じ黒い髪。象牙色の肌。そして薄く唇にひかれた紅。
その姿に、アルフォンスは瞬きも忘れじっと見入っていた。
そんな彼を見て頷くと、ユリアナは貴族大臣の方へと身体を向けた。

『彼の者の名は、二階堂有里という。この者が生きていた世界では、身分階級というものがない』
一瞬にして、空気が変わった。
先ほどまでの軽い口調と表情は消え、まさに女神としての存在を知らしめる。
『いまだ貴族などという階級に縋るお前たちの価値観は、この者には通用しない。この者の前では、全てが平等だ』
凛とした声は、空気を震わせ光の粒となり舞い降りる。
『我が使徒であるこの者の身辺に関しては、皇帝に一任する』
この一言で、貴族たちは皇帝に取り入る術を失ったことを知るのだった。

先ほどとは違い、柔らかな空気を纏った女神がアルフォンスの頭を優しく撫でた。
『では、私はそろそろ行くわね。アル』
「あぁ、・・・約束を守ってくれて、嬉しかった」
いつ彼女が帰ってくるのか、どんな人を連れてきてくれるのか、楽しみに待っていた幼い頃の思いが、切なさと共に甦る。
『十六年も経っちゃってたけどね』
そう言いながら笑うと同時に、ふんわりと身体が浮き、光に包まれた。
『彼女の事、宜しくね』
アルフォンスが頷くのを確認し、ユリアナも満足そうに頷き返すと、その姿は眩しいほどの光に包まれゆっくりと薄れてゆく。
正にその光が消えてしまうその瞬間、ユリアナの笑いを堪えた様な、どこか含みのある声が響いた。

『あ、そうそう。言い忘れてたけど、彼女のその衣装、彼女の国の花嫁衣裳なのよ~』

『なのよ~なのよ~なのよ~』と、まるでエコーがかかったように、彼女の声が木霊する。
静寂が戻っても、その場にいた全ての者が硬直し、女神の爆弾発言を脳内でリピートさせ、その言葉の真の意味を理解しようとしていた。

一番に自分を取り戻したのがフォランドだ。そして、自分が独自に理解した女神の言葉に従い行動を起こす。

「すぐに彼女の、部屋を用意しなくてはいけませんね」

その言葉をきっかけに、息を吹き返したかのように人々のざわめきが静かに沸き上がりはじめる。
「陛下の隣の部屋、『月光の間』で宜しいですね?」
その提案に、どよめきが起きた。
「『月光の間』だって?」「それって・・・」と、口々にのぼる。

皇帝陛下の部屋は、別名『陽光の間』と呼ばれている。
それと対である『月光の間』は本来、皇后の部屋となるのだ。
宰相が自らそれを提案するという事は、つまりは、そう言う事なのだ。

「いいんじゃないのか?」
と、賛同したのは叔父のレオンハルトだ。
「そうね、これで後宮問題も解決できるし」
姉であるシェザリーナも嬉しそうに手を叩く。
「女神に嫁を斡旋してもらえるなんて、羨ましい限りだよ」
レイノルドも憎まれ口は叩くものの、嬉しそうである。

三国王のほぼ祝辞といってもいいその言葉に、祝福ムードが漂い始めた。のに、当の本人はというと、有里を見つめ抱えたままぴくりとも動かない。
「陛下?」
フォランドが近くまで寄り、声を掛けるとはっとしたように、瞬きを繰り返した。
「あぁ、すまない。何だ?」
「彼女の部屋ですが、『月光の間』でよろしいですか?」
改めてアルフォンスに確認を求めると、意外とすんなり「任せる」という返事に大臣や貴族が騒めいた。

「皆の者、静粛に!女神より預かりし大事な使徒である。陛下と同等の警護が必要な故、『月光の間』に滞在していただく」
フォランドの言葉が建前だという事は、そこに居る皆は理解している。
よって一同頷き、膝を折り、こうべをたれ、皇帝とその腕の中にいる黒い髪の使徒へ敬意を表す。

フェランドはその様子を満足そうに見て頷くと、さくさくと大臣たちへと指示を飛ばすのだった。


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