皇帝とおばちゃん姫の恋物語

ひとみん

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そして、とうとうアークル伯爵と対峙する時間ときがやってきた。
気合の入った有里は、向こうの世界でも似合うと言われていた黒を基調としたドレスを、我侭を言って作ってもらった。
白のアンダードレスに黒のドレスを合わせたもので至極シンプルなものだが、それは気品あふれるものに仕上がっていた。
黒のドレスは丸く大きめの襟ぐりで、胸から腰まで銀色の釦で止められ、シルバーのベルトをアクセントとし、腰から下は白のアンダードレスが見えるように開いている。
アンダードレスは襟や袖は蔦と花をモチーフにしたレースで、少し短めの黒い袖から見える長めの袖は手首を隠し、腕の細さを際立たせている。
黒のドレスの裾には銀糸でやはり蔦と花の刺繍が回されており、優雅さと繊細さが際立っていた。
とても凝った刺繍にたった五日でできるものか・・・と疑問をぶつければ彼女が降臨して即、アルフォンスが手配していた事を知り有里を驚かせた。

あまり長くはないが背中まである黒髪をハーフアップにし、これもまた、蔦と花をモチーフにした銀色の髪留めを付ける。
可愛らしい花をモチーフとしたイヤリングとネックレスには、アルフォンスの瞳と同じ色の綺麗な宝石が嵌め込まれていて、見る人が見れば納得する装いだ。
そんな事など全く知らない有里は薄く化粧をし、柔らかな紅色の口紅を指し、そして鏡の中の自分を確認して気合を入れなおした。

よしっ!似合う似合う似合うぞ!有里!!

まるで自分に暗示をかける様に鏡を見ながら心の中で繰り返していると、ノックの音と共にフォランドが入ってきた。
「ユーリ、支度は出来ましたか?」
「ベル!今日はよろしくお願いしますね」
リリやランは『とってもお似合いです!』と褒めちぎってくれたが、やはり慣れない格好に照れと不安が入り交じり、ちょっとぎこちない笑顔でちょこんと頭を下げると、フォランドは目を見開き動きを止めた。
「ベル?」
突然、動きを止めた彼に有里は名を呼びながら顔を覗き込むと、はっとしたように笑みを浮かべた。
「いえ、すみませんでした。とても良くお似合いです。想像以上でした」
「本当!?正直不安だったの。ありがとう」
「所で・・・・」
「ん?」
「この姿を陛下には見せましたか?」
「ううん?今、着替えたばかりだし」
「そうですか・・・」
フォランドはちょっと考える素振りを見せると、リリとランを呼んだ。
「アークル伯爵が見えるまでに、まだ時間がありますね?少しユーリを借りていきますよ」
彼が来たら待たせておくように言いつけて、フォランドは有里を連れて、執務室へと向かった。
「なんでアルのトコに行くの?時間は大丈夫なの?」
「時間は大丈夫ですよ。遅れるようなら待たせておけばいいのです。それよりも、このドレスは陛下からの贈り物ですからね。一応、見せておかないと、後々、怖いので」
「確かにお礼は言ったけど、着たところ見せてないなぁ」
「それに、彼の英気を養うためですよ」
と、にっこり笑った。
フォランドに手を引かれ、執務室へと向かう道すがら、すれ違う人たちや近衛兵、官僚達が有里を見て、驚いたように目を見開いている。
その視線に似合っていないのかと、敵と対峙する前だというのに、段々と気分が下降していく。

そうだよね・・・いくら若返ってお化粧でごまかしてもらっても、やっぱり似合わないよね・・・

この世界と日本とでは、やはり顔の作りが違う。いわゆる東洋人と西洋人の様に。
次第に俯きかけてくる有里をちらりとフォランドが一瞥すると、「ほら、猫背になってきてますよ。胸を張って、堂々となさい」と、喝を入れられ有里は慌てて姿勢を正した。
「貴方は誰の目も気にしなくていいのですよ」
その声は思いのほか優しくて、有里は驚いたようにフォランドを見上げるが、彼はまっすぐ前を見据えて変わらない笑みを口元に浮かべている。
「皆が貴方に目を奪われているだけなのですから」
想像していなかった言葉に、有里は驚きそして慣れない賛辞にぐっと詰まる。
それでも「・・・・ありがとう」と小さく返せば、これまためったに見せない素の笑みを向けられ、有里は頬に熱が集まるのを感じ、空いている手で顔を扇ぐのだった。

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