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五章 わたしの目覚め
第十一話 あの微笑みの奥に
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一段、また一段と階段を上がり、ようやく誠は離れの扉に手をかけた。
(……こんなに短い階段だったはずなのに、随分と長く感じました)
静かに開かれた扉の先では、女官たちがまだ準備に追われている。広間には誰もいなかった。
仕方なく、誠はそっと伽耶を長椅子に座らせる。
だが伽耶はすぐに体を起こしていられず、くたりと身を傾けてそのまま横になった。
「ねえ、誠。今日、楽しかったね」
ぽつりと落とされた言葉に、誠は外套を伽耶にかけながら、その隣に静かに膝を下ろす。
「……ええ。まさか陛下に雪玉をぶつける日が来ようとは」
伽耶はくすくすと笑う。
くすぐったそうに、どこか嬉しそうに。
すると、伽耶は何か思いついたのか、あっと小さく声を上げた。
「ねえ、今日……どうして“寂しそう”って言ったの?」
唐突な問いに、誠はふと目を瞬かせた。
伽耶は横になったまま、首だけ少し傾けて彼を見上げている。
「……驚いたの。だって、当たってたから」
ふにゃりとした笑みに、誠はかえって息を飲む。
伽耶は、少しだけためらってから――ゆっくりと、言葉を紡ぎ出した。
「……わたしね。あなたに会って、初めて気づいたの。
それまで、ずっと……寂しかったんだって」
まぶたが、ゆっくりと上下に揺れる。
「だからこそ、あなたには、甘えてばかりだった気がするの。寄りかかりすぎて……きっと、家臣のあなたは断れなかったのに」
かすかな息とともに語られるその声は、まるで夢の中の囁きのように、柔らかく、どこか切なげで。
「……あなたの負担だったんじゃないかって……ときどき、すごく、怖くなるの」
そのまま、伽耶の瞳はふわりと閉じられた。
まるで、夢とうつつの境を漂うように。
伽耶の呼吸が、ゆるやかに落ち着いていく。
誠はしばし、その傍らで静かに佇んでいたが――やがて、そっと立ち上がった。
広間に据えられた長椅子の上、眠る伽耶の姿はとても穏やかで、どこか幼くも見えた。
そっと毛布を手に取り、伽耶の身体にふわりとかける。
まだ頬にはかすかな紅が残っていて――
けれどそれは、酒のせいだけではない気がした。
(……甘えてばかりだった、寄りかかりすぎた、ですか)
膝をついて伽耶の寝顔を見つめながら、誠は静かに目を伏せる。
(そんなふうに感じながら、ずっと過ごしてこられたのですね……)
明るく、凛として、誰よりも前を見て。
そんな姫が、自分の影で“怖い”と感じていたことに、まるで気づけていなかった。
(寄りかかってくださることが、どれほど嬉しかったか――
……わたしは、一度も、言葉にしてこなかった)
それが、どれほど不安にさせていたかも、思い至れなかった。
視線をそっと伽耶の頬に落とす。
まるで壊れ物に触れるように、誠はその頬に指先をそえ、毛布のずれを整えた。
彼女が穏やかな呼吸を重ねていることを、そっと確認する。
その胸に、小さな決意が灯っていた。
そうして誠は、最後にもう一度だけ伽耶の寝顔を確かめると、静かに扉の方へと歩を進めた。
(……こんなに短い階段だったはずなのに、随分と長く感じました)
静かに開かれた扉の先では、女官たちがまだ準備に追われている。広間には誰もいなかった。
仕方なく、誠はそっと伽耶を長椅子に座らせる。
だが伽耶はすぐに体を起こしていられず、くたりと身を傾けてそのまま横になった。
「ねえ、誠。今日、楽しかったね」
ぽつりと落とされた言葉に、誠は外套を伽耶にかけながら、その隣に静かに膝を下ろす。
「……ええ。まさか陛下に雪玉をぶつける日が来ようとは」
伽耶はくすくすと笑う。
くすぐったそうに、どこか嬉しそうに。
すると、伽耶は何か思いついたのか、あっと小さく声を上げた。
「ねえ、今日……どうして“寂しそう”って言ったの?」
唐突な問いに、誠はふと目を瞬かせた。
伽耶は横になったまま、首だけ少し傾けて彼を見上げている。
「……驚いたの。だって、当たってたから」
ふにゃりとした笑みに、誠はかえって息を飲む。
伽耶は、少しだけためらってから――ゆっくりと、言葉を紡ぎ出した。
「……わたしね。あなたに会って、初めて気づいたの。
それまで、ずっと……寂しかったんだって」
まぶたが、ゆっくりと上下に揺れる。
「だからこそ、あなたには、甘えてばかりだった気がするの。寄りかかりすぎて……きっと、家臣のあなたは断れなかったのに」
かすかな息とともに語られるその声は、まるで夢の中の囁きのように、柔らかく、どこか切なげで。
「……あなたの負担だったんじゃないかって……ときどき、すごく、怖くなるの」
そのまま、伽耶の瞳はふわりと閉じられた。
まるで、夢とうつつの境を漂うように。
伽耶の呼吸が、ゆるやかに落ち着いていく。
誠はしばし、その傍らで静かに佇んでいたが――やがて、そっと立ち上がった。
広間に据えられた長椅子の上、眠る伽耶の姿はとても穏やかで、どこか幼くも見えた。
そっと毛布を手に取り、伽耶の身体にふわりとかける。
まだ頬にはかすかな紅が残っていて――
けれどそれは、酒のせいだけではない気がした。
(……甘えてばかりだった、寄りかかりすぎた、ですか)
膝をついて伽耶の寝顔を見つめながら、誠は静かに目を伏せる。
(そんなふうに感じながら、ずっと過ごしてこられたのですね……)
明るく、凛として、誰よりも前を見て。
そんな姫が、自分の影で“怖い”と感じていたことに、まるで気づけていなかった。
(寄りかかってくださることが、どれほど嬉しかったか――
……わたしは、一度も、言葉にしてこなかった)
それが、どれほど不安にさせていたかも、思い至れなかった。
視線をそっと伽耶の頬に落とす。
まるで壊れ物に触れるように、誠はその頬に指先をそえ、毛布のずれを整えた。
彼女が穏やかな呼吸を重ねていることを、そっと確認する。
その胸に、小さな決意が灯っていた。
そうして誠は、最後にもう一度だけ伽耶の寝顔を確かめると、静かに扉の方へと歩を進めた。
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