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六章 その背に祝福を
第二話 黄金の旗、睨む者
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城門が、淡い桜の光に包まれはじめた頃。
春風にたなびくのは、季国の赤、そして燿国を示す黄金と橙の旗。
その色どりが、いよいよ近づく別れと、新たな縁の始まりを告げていた。
いつもよりわずかに緊張した面持ちで立つ華蘭を筆頭に、
烈翔、総雅、そして伽耶もまた、王族の一員として使節団の到着を待っていた。
「華蘭が結婚とはなあ~」
両腕を頭の上で組みながら、烈翔がのんびりとした声でつぶやく。
総雅は隣で静かに頷いた。
「寂しくなりますね。わたし……お姉様がいなくなったら……」
伽耶の声はかすかに震えていた。
手のひらはきゅっと握られ、目元には早くも光るものが浮かぶ。
その様子に気づいたのだろう。
華蘭がそっと振り返り、ふわりと微笑んだ。
「もう。まだあと一週間あるんだから、そんな顔しないの」
その笑顔は、どこか凛としていて。
伽耶がこれまで見てきた中で、いちばん綺麗だと感じた。
「……お姉様」
胸の奥がきゅうっと締めつけられ、思わず涙がこぼれそうになる。
その時、隣にいた総雅が、そっと伽耶の頭に手を置いた。
「嫁に貰ってもらえて、よかったではないか。
華蘭は、武の道を歩むのかと思っていた」
「縁談も片っ端から断ってたしな。
ほんとに逞しい妹だぜ」
烈翔が豪快に笑えば、華蘭はきっと睨みつけた。
「お兄様たちも、そろそろ縁談を考えたらいかが?お父様、困ってらしたわよ」
その声には、明らかな恨みがこもっていた。
「俺だってな、色々考えて……」
言いかけた烈翔は、だんだん声をしぼませながら目を逸らす。
一方で総雅は、どこか誇らしげに胸を張った。
「わたしは、運命の流れに身を任せているので」
その言葉に、華蘭は盛大にため息をつき、
伽耶は思わず吹き出してしまう。
その瞬間――
「燿国の使節団、到着されました!」
兵の凛とした声に、四人の視線がぴしりと前を向いた。
城門の向こうに、燿国の大きな黄金の旗がたなびいた。
それに続くかのように、整えられた騎馬兵たちが、ゆっくりと城内へと歩を進めてくる。
その中心――
ひときわ大きな栗毛の馬にまたがる男の姿があった。
黄金の鎧に身を包み、周囲の兵たちよりも二回りは大きな体躯。
言葉など交わさずとも、その威容は場の空気を変えるに十分だった。
(あの方が……燿玄騎(よう・げんき)様)
伽耶は、思わずその姿に目を奪われる。
やがて、その背後。
白と金の装飾が美しく施された小ぶりな馬車が、ゆっくりと城門をくぐった。
使節団が城門前に整列し、玄騎が馬を下りる。
迎え出た華蘭は、静かに一歩進み出て、美しい所作で恭しく礼をした。
「燿玄騎様、お待ちしておりました。
遠路よりお越しくださり、まことにありがとうございます」
玄騎は無言のまま小さく頷くと、右手を胸に当て、礼を返す。
「……御歓迎、感謝します。……玲淵(れいえん)」
短く呼ばれたその名に応えるように、背後の馬車の扉が音もなく開いた。
そこから現れたのは――まだ幼さを残す少年だった。
小柄な体に、橙の装束。
あどけなさの残る頬に似合わぬ冷ややかな眼差しが光る。
(この子が……玲淵殿下?)
伽耶は思わず目を細めた。
少年は迷うことなく玄騎の横へと歩み寄り、一礼する。
その動きは小さくとも、どこか堂々としていた。
「玲淵殿下、ようこそ季国へ。ご紹介いたします」
華蘭がやわらかく声を発し、手を広げて季国の面々を示す。
「我が兄、第一王子の烈翔、第二王子・総雅、
そして、妹の第二王女・伽耶です」
それぞれが順に礼をすると、玄騎は再び黙礼で応じ、
続いて、彼の背後に控えていた燿国の補佐官が一歩前に出た。
「ご紹介、痛み入ります。こちらが燿国第一王子・燿玄騎殿下、そして第二王子・燿玲淵殿下でございます」
その名が呼ばれたのに合わせて、伽耶はふと玲淵に視線を向けた。
ぱち、と目が合う。
……が。
(……睨まれて、る……?)
伽耶は思わず瞬きをし、微笑みを返してみた。
けれど――その目は変わらない。
どこか敵意とも警戒ともつかぬ色をたたえたまま、まっすぐに自分を見上げていた。
一通りの挨拶を終えた一行は、案内に従って城内へと進んでいく。
その背を見送りながらも、伽耶の胸には、
あの少年の冷たい眼差しだけが、不思議なほど強く残っていた。
春風にたなびくのは、季国の赤、そして燿国を示す黄金と橙の旗。
その色どりが、いよいよ近づく別れと、新たな縁の始まりを告げていた。
いつもよりわずかに緊張した面持ちで立つ華蘭を筆頭に、
烈翔、総雅、そして伽耶もまた、王族の一員として使節団の到着を待っていた。
「華蘭が結婚とはなあ~」
両腕を頭の上で組みながら、烈翔がのんびりとした声でつぶやく。
総雅は隣で静かに頷いた。
「寂しくなりますね。わたし……お姉様がいなくなったら……」
伽耶の声はかすかに震えていた。
手のひらはきゅっと握られ、目元には早くも光るものが浮かぶ。
その様子に気づいたのだろう。
華蘭がそっと振り返り、ふわりと微笑んだ。
「もう。まだあと一週間あるんだから、そんな顔しないの」
その笑顔は、どこか凛としていて。
伽耶がこれまで見てきた中で、いちばん綺麗だと感じた。
「……お姉様」
胸の奥がきゅうっと締めつけられ、思わず涙がこぼれそうになる。
その時、隣にいた総雅が、そっと伽耶の頭に手を置いた。
「嫁に貰ってもらえて、よかったではないか。
華蘭は、武の道を歩むのかと思っていた」
「縁談も片っ端から断ってたしな。
ほんとに逞しい妹だぜ」
烈翔が豪快に笑えば、華蘭はきっと睨みつけた。
「お兄様たちも、そろそろ縁談を考えたらいかが?お父様、困ってらしたわよ」
その声には、明らかな恨みがこもっていた。
「俺だってな、色々考えて……」
言いかけた烈翔は、だんだん声をしぼませながら目を逸らす。
一方で総雅は、どこか誇らしげに胸を張った。
「わたしは、運命の流れに身を任せているので」
その言葉に、華蘭は盛大にため息をつき、
伽耶は思わず吹き出してしまう。
その瞬間――
「燿国の使節団、到着されました!」
兵の凛とした声に、四人の視線がぴしりと前を向いた。
城門の向こうに、燿国の大きな黄金の旗がたなびいた。
それに続くかのように、整えられた騎馬兵たちが、ゆっくりと城内へと歩を進めてくる。
その中心――
ひときわ大きな栗毛の馬にまたがる男の姿があった。
黄金の鎧に身を包み、周囲の兵たちよりも二回りは大きな体躯。
言葉など交わさずとも、その威容は場の空気を変えるに十分だった。
(あの方が……燿玄騎(よう・げんき)様)
伽耶は、思わずその姿に目を奪われる。
やがて、その背後。
白と金の装飾が美しく施された小ぶりな馬車が、ゆっくりと城門をくぐった。
使節団が城門前に整列し、玄騎が馬を下りる。
迎え出た華蘭は、静かに一歩進み出て、美しい所作で恭しく礼をした。
「燿玄騎様、お待ちしておりました。
遠路よりお越しくださり、まことにありがとうございます」
玄騎は無言のまま小さく頷くと、右手を胸に当て、礼を返す。
「……御歓迎、感謝します。……玲淵(れいえん)」
短く呼ばれたその名に応えるように、背後の馬車の扉が音もなく開いた。
そこから現れたのは――まだ幼さを残す少年だった。
小柄な体に、橙の装束。
あどけなさの残る頬に似合わぬ冷ややかな眼差しが光る。
(この子が……玲淵殿下?)
伽耶は思わず目を細めた。
少年は迷うことなく玄騎の横へと歩み寄り、一礼する。
その動きは小さくとも、どこか堂々としていた。
「玲淵殿下、ようこそ季国へ。ご紹介いたします」
華蘭がやわらかく声を発し、手を広げて季国の面々を示す。
「我が兄、第一王子の烈翔、第二王子・総雅、
そして、妹の第二王女・伽耶です」
それぞれが順に礼をすると、玄騎は再び黙礼で応じ、
続いて、彼の背後に控えていた燿国の補佐官が一歩前に出た。
「ご紹介、痛み入ります。こちらが燿国第一王子・燿玄騎殿下、そして第二王子・燿玲淵殿下でございます」
その名が呼ばれたのに合わせて、伽耶はふと玲淵に視線を向けた。
ぱち、と目が合う。
……が。
(……睨まれて、る……?)
伽耶は思わず瞬きをし、微笑みを返してみた。
けれど――その目は変わらない。
どこか敵意とも警戒ともつかぬ色をたたえたまま、まっすぐに自分を見上げていた。
一通りの挨拶を終えた一行は、案内に従って城内へと進んでいく。
その背を見送りながらも、伽耶の胸には、
あの少年の冷たい眼差しだけが、不思議なほど強く残っていた。
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