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六章 その背に祝福を
第七話 そのぬくもりに、触れたくて
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「……忘れ物をしてしまいまして。姫様にお取り次ぎ願えますか?」
そう告げた誠に、女官はふふ、と意味ありげに笑ってみせる。
「では、確認してまいりますね」
まもなく扉の向こうから、伽耶の声がやわらかく響いた。
「誠、入って」
戸を開けた瞬間。
誠の視界が、一瞬で静止した。
淡い光が差し込む室内には2人だけ…
長椅子の上で伽耶がそっと座り、小さな頭を膝にのせていた。
玲淵が、すぅすぅと穏やかな寝息を立てている。
そして伽耶は、その小さな背を、まるで壊れ物を扱うように優しく撫でていた。
「お疲れのようだったの。少し前から、眠ってしまってね」
伽耶の声は、囁くように静かだった。
誠はただ、こくりと頷く。
「……忘れ物、よね?どこかしら……ごめんなさい、今は動けなくて」
伽耶がきょろきょろと室内を見回す仕草が、どこまでも自然で――なのに、誠にはそれがひどく残酷に感じられた。
「それには……及びません」
机の上に敢えて置きっぱなしにしていた本を手に取ると、誠はかすかに口元を引き上げた。
うまく笑えたかどうかはもう、自分でもわからなかった。
「あなたが忘れ物だなんて、珍しいこともあるのね……誠、もしかして」
伽耶が小首をかしげて、にこりと笑う。
誠の胸がどくん、と鳴った。
(まさか、自分の嫉妬に気づかれたのでは――)
「お腹、空いてる?」
にこりと笑う伽耶のあまりにも無防備なその一言に、誠はガクッと肩を落とした。
伽耶は誠の様子には気づかぬまま、手近にあった菓子の包みを開き、そっと差し出してくる。
「甘いものは、疲れた頭にいいのよ。ね?」
柔らかく、どこまでも優しい声。
誠はその手を受け取り、ひと口。
口の中にひろがる甘さが、じんわりと心まで染み込んでいく。
「どう?」
「……美味です」
短く返すと、伽耶は嬉しそうに微笑んだ。
そして、ふと伽耶は視線を膝の上の少年へと戻した。
「……寂しかったのね、玲淵殿下」
指先で、そっとその髪を撫でながら、静かに語り出す。
「わたしも、そうだったのよ。あなたがくる前、ひとりぼっちで。でも、いい子になれれば誰かが…お父様だって、もっと来てくれるって、そう信じてた」
誠はゆっくりと目を伏せた。
「でも、どれだけ努力しても、変わらなかった。それで諦めちゃった。“がんばっても、意味なんてないのかも”って。だから誠が来た頃のわたし、勉強きらいだったの」
伽耶は顔を上げて誠に恥ずかしそうに笑いかけた。
「でも、殿下は違う。まだがんばれてる。だから、きっと大丈夫。ね、誠?」
その声に、寂しさと、優しさと、祈るような響きがまざっていた。
不意に名前を呼ばれた誠は、小さく目を見開いた。
(……わたしに、問いかけてくれるのですね)
その思いが胸にじんと沁みて、ただ、静かに――深く頷いた。
そして――
伽耶の膝の上。
眠っているはずの玲淵の睫毛が、かすかに震える。
(……聞いてたよ)
まだ子どもで、でもきっと忘れない。
その声も、ぬくもりも。
玲淵の胸の奥に、小さな灯がともっていた。
そう告げた誠に、女官はふふ、と意味ありげに笑ってみせる。
「では、確認してまいりますね」
まもなく扉の向こうから、伽耶の声がやわらかく響いた。
「誠、入って」
戸を開けた瞬間。
誠の視界が、一瞬で静止した。
淡い光が差し込む室内には2人だけ…
長椅子の上で伽耶がそっと座り、小さな頭を膝にのせていた。
玲淵が、すぅすぅと穏やかな寝息を立てている。
そして伽耶は、その小さな背を、まるで壊れ物を扱うように優しく撫でていた。
「お疲れのようだったの。少し前から、眠ってしまってね」
伽耶の声は、囁くように静かだった。
誠はただ、こくりと頷く。
「……忘れ物、よね?どこかしら……ごめんなさい、今は動けなくて」
伽耶がきょろきょろと室内を見回す仕草が、どこまでも自然で――なのに、誠にはそれがひどく残酷に感じられた。
「それには……及びません」
机の上に敢えて置きっぱなしにしていた本を手に取ると、誠はかすかに口元を引き上げた。
うまく笑えたかどうかはもう、自分でもわからなかった。
「あなたが忘れ物だなんて、珍しいこともあるのね……誠、もしかして」
伽耶が小首をかしげて、にこりと笑う。
誠の胸がどくん、と鳴った。
(まさか、自分の嫉妬に気づかれたのでは――)
「お腹、空いてる?」
にこりと笑う伽耶のあまりにも無防備なその一言に、誠はガクッと肩を落とした。
伽耶は誠の様子には気づかぬまま、手近にあった菓子の包みを開き、そっと差し出してくる。
「甘いものは、疲れた頭にいいのよ。ね?」
柔らかく、どこまでも優しい声。
誠はその手を受け取り、ひと口。
口の中にひろがる甘さが、じんわりと心まで染み込んでいく。
「どう?」
「……美味です」
短く返すと、伽耶は嬉しそうに微笑んだ。
そして、ふと伽耶は視線を膝の上の少年へと戻した。
「……寂しかったのね、玲淵殿下」
指先で、そっとその髪を撫でながら、静かに語り出す。
「わたしも、そうだったのよ。あなたがくる前、ひとりぼっちで。でも、いい子になれれば誰かが…お父様だって、もっと来てくれるって、そう信じてた」
誠はゆっくりと目を伏せた。
「でも、どれだけ努力しても、変わらなかった。それで諦めちゃった。“がんばっても、意味なんてないのかも”って。だから誠が来た頃のわたし、勉強きらいだったの」
伽耶は顔を上げて誠に恥ずかしそうに笑いかけた。
「でも、殿下は違う。まだがんばれてる。だから、きっと大丈夫。ね、誠?」
その声に、寂しさと、優しさと、祈るような響きがまざっていた。
不意に名前を呼ばれた誠は、小さく目を見開いた。
(……わたしに、問いかけてくれるのですね)
その思いが胸にじんと沁みて、ただ、静かに――深く頷いた。
そして――
伽耶の膝の上。
眠っているはずの玲淵の睫毛が、かすかに震える。
(……聞いてたよ)
まだ子どもで、でもきっと忘れない。
その声も、ぬくもりも。
玲淵の胸の奥に、小さな灯がともっていた。
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