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1日目
発端
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日常は音もなく突然崩れるものであると彼はその時初めて知った。
いつものように週末の残業付きの仕事帰りに惣菜を買って恋人の家の扉を開けたはずだった。扉を開けると恋人はだらしのないスウェット姿で洗濯やら食卓の整理をしているものだと確信していた。
しかし、彼を待っていたのはベッドで眠っている裸の恋人と見知らぬ男の2人であった。
目の前の光景を理解できず動揺する彼は声にならない声を出す。
彼の帰宅に気付いたのか恋人はゆっくり起き上がりと重たそうな目で彼を捉える。
「あ、、、」
しまった、とでも言いたげなその口を閉じるよりも先に恋人はベッドから飛び起き彼の元へと駆け寄って弁明をし始める。
「ごめん、これは違うんだ」
「職場の飲み会で酔った勢いで」
「浮気をするつもりなんて無かったんだ」
息継ぎをするのも忘れた恋人が何か話しているか彼には何を言っているのかが全くわからない。
ふと、ベットで未だに横たわる男を見るとこちらを見ながらニヤニヤとしていて物凄く気持ちが悪い事だけが彼の脳裏を支配してやまなかった。
「ごめんね、ちょっと頭を整理させたいから今日は帰るね」
手に持った惣菜の袋を恋人に押し付け、彼は脱いだばかりの靴を履いて外へ出た。
全裸で玄関から見送る恋人を後目にマンションの階段を降りながら彼は先程の一瞬ことを思い返していた。
裸で抱き合いながら眠る恋人と見知らぬ男。必死に何かを説明する恋人。ベッドからニヤニヤこちらを眺める男。
「浮気」という単語が次第にその出来事を彩り、彼の心を言い表し様の無い気持ちで洗脳していく。
マンションの出口を出た時、心の何かを支えていた糸が切られたかのように突然涙が溢れて彼を更に混乱へと陥れていく。
悲しい
苦しい
辛い
気持ちに言葉を当てはめようにも該当する言葉が見つからない。
泣きたい。今はただ泣きたい。誰にも気付かれる事無く気の済むまで泣いていたい。彼にはそれだけだった。
道端で目を晴らし泣く男を怪訝に見ながら過ぎていく通行人に目もくれず彼はひたすら静かに泣き続けた。
そんな悲しみに堕ちていた彼を現実に戻したのは小さな殺意だった。泣き続ける彼の横を見覚えのある男が通り過ぎていく。先程の男だ。男は顔がクシャクシャに成程の笑顔でこちらを眺めながら角を曲がって消えてしまった。
アイツを殺してやりたい
ふつふつと湧き上がる殺意を押し殺し、彼は静かに自分の家へと帰っていった。
いつものように週末の残業付きの仕事帰りに惣菜を買って恋人の家の扉を開けたはずだった。扉を開けると恋人はだらしのないスウェット姿で洗濯やら食卓の整理をしているものだと確信していた。
しかし、彼を待っていたのはベッドで眠っている裸の恋人と見知らぬ男の2人であった。
目の前の光景を理解できず動揺する彼は声にならない声を出す。
彼の帰宅に気付いたのか恋人はゆっくり起き上がりと重たそうな目で彼を捉える。
「あ、、、」
しまった、とでも言いたげなその口を閉じるよりも先に恋人はベッドから飛び起き彼の元へと駆け寄って弁明をし始める。
「ごめん、これは違うんだ」
「職場の飲み会で酔った勢いで」
「浮気をするつもりなんて無かったんだ」
息継ぎをするのも忘れた恋人が何か話しているか彼には何を言っているのかが全くわからない。
ふと、ベットで未だに横たわる男を見るとこちらを見ながらニヤニヤとしていて物凄く気持ちが悪い事だけが彼の脳裏を支配してやまなかった。
「ごめんね、ちょっと頭を整理させたいから今日は帰るね」
手に持った惣菜の袋を恋人に押し付け、彼は脱いだばかりの靴を履いて外へ出た。
全裸で玄関から見送る恋人を後目にマンションの階段を降りながら彼は先程の一瞬ことを思い返していた。
裸で抱き合いながら眠る恋人と見知らぬ男。必死に何かを説明する恋人。ベッドからニヤニヤこちらを眺める男。
「浮気」という単語が次第にその出来事を彩り、彼の心を言い表し様の無い気持ちで洗脳していく。
マンションの出口を出た時、心の何かを支えていた糸が切られたかのように突然涙が溢れて彼を更に混乱へと陥れていく。
悲しい
苦しい
辛い
気持ちに言葉を当てはめようにも該当する言葉が見つからない。
泣きたい。今はただ泣きたい。誰にも気付かれる事無く気の済むまで泣いていたい。彼にはそれだけだった。
道端で目を晴らし泣く男を怪訝に見ながら過ぎていく通行人に目もくれず彼はひたすら静かに泣き続けた。
そんな悲しみに堕ちていた彼を現実に戻したのは小さな殺意だった。泣き続ける彼の横を見覚えのある男が通り過ぎていく。先程の男だ。男は顔がクシャクシャに成程の笑顔でこちらを眺めながら角を曲がって消えてしまった。
アイツを殺してやりたい
ふつふつと湧き上がる殺意を押し殺し、彼は静かに自分の家へと帰っていった。
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