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B 楓陥落4

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「やっぱり、久々に乗るとちょっと怖いかも…」
「あはは。宗介さんから誘っておいて、そんなに怖がるんですか」
「ごめん、隣座るね」
「あ…はい」

 観覧車が動き出して早々、俺は楓との距離をぐっと詰めた。今まで愉快そうに笑っていた楓の顔が一瞬はっとしたようにも見えた。そりゃあ、2人きりで隣に座られたら、この前のキスのことを嫌でも思い出すよな。

「ねえ、ずっと言い出すタイミング分からなくなっていたんだけど…」
「…はい」
「この前、急にキスしてごめんね」

 そして頃合いを見計らって、いよいよキスの話を切り出す。

「いや、そんな謝ることじゃ、ないです…」

 楓も察知していたのだろうか。思ったよりも動揺は少ない。ただ、緊張はしているのだろう。前のように俺を弄ることもなければ、ケラケラと笑うこともない。
 そこから俺は、この前のキスのことについてたっぷりと話をした。キスをした理由は自分でもよく分からないけど、あの時はキスしたくなったこと。あのキスのことが忘れられないこと。普段通りに楓と接していたけど、内心はドキドキしていたこと…
 さあさあ、このままムードを作ってキスに持ち込むぞ。

「宗介さん、私にキスしようとしているでしょ」
「え?」

 しかしそんな俺の計画を破壊するかのような一言を楓がつぶやいた。間抜けなことに俺は素っ頓狂な声をあげてしまった。

「宗介さんって、本当に素直じゃないですよね。雰囲気作りばっかり気にして…用意周到っていうか、真っ直ぐじゃないっていうか」
「そ、そうかな…」

 まるで反撃をするかのような楓の言葉に俺は面食らってしまった。おいおい、なんだこの空気。先ほどまでのムードもすっかり消えて、何か分からんが俺が責め立てられている。
 だけどすぐに気がついた。楓は怒っているわけではない。楓の目は以前キスをした時のようにトロンと潤んでいるからだ。
 そして楓はその潤んだ目で俺をじっと見つめながら、こう言った。

「キスしたいならしたいって言えばいいじゃないですか」

 ぱっちりとした目をしていて、清純派女優みたいな顔立ちをしている楓が、上目遣いでじっと俺を見ている。
 何という破壊力だよ…これ。
 これには、百戦錬磨の俺も心臓がバクバクと高鳴ってしまった。まるで初心だった頃みたいに胸がドキドキしていて、それが止まらない。

「ほら、宗介さんはキスがしたいんじゃないんですか?」

 楓はそう言いながら少し意地悪そうに微笑んだ。
 まさか俺がペースを握られるとは。悔しいくらいに心臓が高鳴ってドキドキしている。
 だけど、無理にペースを握り返す必要もない。今の俺にとって最善なのは楓のペースに乗ることだ。楓はきっとOKしてくれるだろうから。

「楓ちゃんと、キスがしたいな」
「あはは。やっと素直になりましたね」

 そう言うと、楓は目をつむり唇をむにゅっと尖らせた。「キス待ち顔」ってやつだ。まるで「はい。どうぞ♪」とでも言わんばかりの表情。これもまたとんでもない破壊力だ。

「ほら、宗介さんっ♪」

 俺があっけにとられていると、楓はキス待ち顔を続けながら、まだかまだかとキスをせがんできやがった。
 据え膳食わぬは男の恥。今の俺にはやるべきことは一つだろう。そう思った俺は、楓に顔を近づけ…そして唇を重ねた。
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