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6 通りすがりのイケメン
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思い出した。
このウィリアムとの出会いは、確かメインヒロインであるルナが外出中急な雨に打たれて、そこにたまたま通りかかったイケメンのウィリアムが傘に入れてくれるという、相合い傘から始まる甘々なシチュエーションである。
しかも、選択肢によっては相合い傘で少しウィリアムが雨に濡れてしまい、こうして家へと招待する事が出来る。
因みに1番ベストな選択肢以外の選択肢を選んだらその場で別れるだけになってしまう。
ふーむ、もしかしたらこのゲームの世界では、ルナの選択肢は自動的に一番良い選択肢を選ぶルートになっているのだろうか?
「ごめんなさい、今お風呂を沸かしてきますわ」
「そんな、大丈夫ですよ」
しかし、そう考えるとルナって結構やり手だよな。
こうしてイケメンを持ち帰り、あまつさえ風呂まで勧めてくる。
世の男性なら、何かと勘繰ってしまいそうなシチュエーションである。
おっと感心してる場合じゃねぇ、こいつも攻略キャラなんだから、俺も何かアピールした方が良いだろう。
まだ誰を攻略するか決めていないけど、俺様王子とツンデレ幼馴染は既に除外済みなので、残りは3人のうちの誰か。
選択肢はなるべく広げておきたい。
「あら、ルナ、お帰りなさい。
それと、あなたはどちら様かしら?」
先程のメイとの特訓のお陰で、お嬢様っぽく喋れてる。
現実世界では1ミリも役に立たないスキルだけど。
「あ、ライラお姉様。
こちらは、先程私を助けてくれた恩人のウィリアムさんです」
「やあこんにちは。
ライラお嬢様……でいいのかな?
俺はウィリアムって言います」
「ウィリアムさんね。
私はライラ、よろしくね」
ふむ、見た限りいかにも好青年といった感じだ。
まだ前の2人に比べて攻略もしやすそうである。
「あ、ウィリアムさん、お風呂が沸いた様なので、どうぞゆっくり入ってきてください」
「本当にいいのかい?
何だか悪いね、ありがとう」
ウィリアムは甘い微笑みをルナに向ける。
そう、この乙女ゲームの主人公は、ルナなのだ。
当然出てくるイケメン達はルナの方ばかり向く。
俺だって、顔は可愛いはずなのにな。
ジーッとルナを横目で見る。
ルナと俺の大きな違いといえば、おっぱいのでかさだろうか。
やはり男たるもの、あるにはあった方がいいと思うだろう。
くそ、こんな所でそんな格差が生まれてしまうなんて!
男の頃はただおっぱいがでかければ良いと思っていたが、貧乳女子になった今はその考えがいかに残酷な事かと理解する。
このままではまずい、誰も攻略出来ずにいたら、最悪この世界から出られないかも……。
もう月野さんにも会えないなんて、そんなのは嫌だ!
「あ、あの!
ウィリアムさん!」
俺は咄嗟にウィリアムに声をかける。
「その、お風呂まで案内しますわ!」
「え?」
私の申し出に、ルナが驚く。
「ライラお姉様、何もお姉様が案内せずとも……」
「え? 良いのかい?
じゃあお願いするよ」
ルナは何やら困った顔をするも、ウィリアムはすんなりとのってくれた。
ルナには悪いけど俺は性格が良くて攻略しやすいウィリアムとはなるべくお近付きになっておきたい。
こうして俺はウィリアムを風呂場まで案内した。
「ふふ、ではこちらです。
何なら、お背中も流しましょうか?」
俺はニコリと提案する。
「え?」
ウィリアムは顔を赤らめた。
俺はイケメンを落とすテクなんて知らないが、同じ男なら、大体考えている事なんて分かる。
例え胸が無かろうと、可愛い女の子から背中を流そうか? と提案されて、意識しない男はいない!
露骨すぎるって?
いやいや、男にとっては浪漫である。
「その……ありがたいけど、流石に会ったばかりでそんな事、頼めないよ」
まあ、当然断られるのは分かっていた。
ウィリアムは割と紳士的な爽やかキャラだからな。
しかし俺は聞き逃さなかった。
会ったばかりでは頼めない、つまり仲が良ければ頼むかもしれないという事。
ここで完全に否定するのではなく、可能性を残しているあたり、ウィリアムも本音では嫌がっていない様子がうかがえる。
「ふふ、冗談ですよ」
そして俺は笑いながらあざとさを演出する。
こうして茶化す事で相手が断った事に対する罪悪感を薄めるのである。
「はは、びっくりしたよ」
そうウィリアムもノリで返してくる。
さあそろそろトドメだ。
「ではゆっくりしていって下さいね。
あ、でも頼みたくなったらいつでも頼んでいいですよ?」
「え?」
そう言って俺はそそくさと撤退する。
そして陰からウィリアムの様子をうかがった。
お、赤面してるな、耳まで真っ赤である。
はい、ヨユー。
茶化しつつも本心であると伝えると同時に恥ずかしくてその場から逃げちゃういじらしい女の子作戦は無事決まった様である。
本当は俺も逃げる前に顔を赤らめられればもっと効果は期待できたのだが、いかんせん男相手に頬を赤らめると言う事が俺には出来ない。
まあ、これでウィリアムルートは一先ずどうにかなりそうである。
「ライラお姉様……」
俺はこの時、まだルナが俺の事をどう思っているかなんて知りもしなかった。
「お風呂まで貸して頂き、本当にありがとう」
しばらくして、風呂上がりにバスローブ姿でウィリアムは登場した。
「いえ、あのまま風邪でも引かれたら大変ですもの」
そうルナは気遣う様にウィリアムを見る。
「それと、ライラお嬢様も案内ありがとうございます」
ウィリアムは私を見て少し顔を赤らめる。
効果覿面な様で良かった良かった。
「いえいえ、私はただ案内しただけですし」
「あ、ウィリアム様!
お洋服が乾くまで時間がありますし、何かお話しませんか?」
何やら慌ててルナは話題を逸らす。
もしかして、ルナもウィリアムの事を狙っているのか?
だとしたらまずい。正規のメインヒロインにサブの悪役令嬢が敵う筈がない。
それどころか、俺がルナの恋の邪魔をしている悪者として、バッドエンドまっしぐらじゃないか!?
出来ればルナには俺が攻略出来ない他のキャラを攻略して欲しいのだが。
しかし、ルナはグイグイとウィリアムとの距離を縮めようと頑張っている様に見える。
こうなったら、俺はウィリアムを攻略出来なくなってしまう。
しかし、まだ全攻略キャラが出て来た訳ではない。
もしかしたらこれから出るキャラの方にルナがなびく可能性だって0ではない。
もう少し様子を見よう。
俺はそう思った。
ただ、ルナってこんなにグイグイ行く女だったっけ?
まあいいや。
そんな感じで、服が乾いたウィリアムはそのまま帰っていった。
ふと俺は、ルナがウィリアムの事を好きなのか訊いて見ることにした。
「あの、ルナ。
少しいいかしら」
「な、何でしょうかライラお姉様」
どうやら俺はめちゃくちゃ警戒されてるらしい。
まあ、ゲームで散々ライラはルナの事虐めていたし、無理もないか。
「もしかして、ウィリアムさんの事、好きなのかしら?」
「そ、そんなのお姉様に関係ないじゃないですか」
おっと、拒絶されてしまった。
それもそうか、何せ俺はお邪魔キャラ、もしルナが誰かを好きになっても、俺に教えたら盗られる可能性があるというのに、ペラペラ話したりはしないだろう。
「そう、じゃあ何でもないわ。
失礼」
俺はそのまま部屋に戻る事にした。
後残るは2人か……。
さて、どうしたものか。
俺が悩んでいると、メイが部屋にやってきた。
「そろそろおやつは如何ですか?」
メイはニコニコとそう尋ねてくる。
メイも初めて会った時とは随分変わったものだ。
「ありがとう、メイ。頂くわ」
俺がそう言うと、メイは嬉しそうな顔をする。
「随分機嫌が良さそうね」
「はい!
だって名前がありますから!」
メイは更にニコニコしながら答えた。
「屋敷のみんなびっくりしているんですよ、最近のライラお嬢様の変わりぶりに!」
「え? そんなに変わってる?」
確かに中身が男になったら変わっているだろうけど、表立って変に見られたらまずいよなぁ。
しかし、この考えは杞憂だった。
「それは、だって最近ライラお嬢様は前みたいにすぐに怒らないですし、我が儘も言わなくなりましたし、それにありがとうやごめんなさいをすぐに言える様になったって、みんな驚いてますよ!」
成る程、プラスの意味で良くなったという訳か。
そっちなら全然良い。
寧ろ今までどれだけ好感度低かったんだライラよ。
「はっ!?
い、今の発言、怒ってますか?」
メイが流石に言いすぎたかと今更焦り出した。
しかし、別に俺は怒る気もない。
「大丈夫、怒ってないから」
「ほっ、良かったです!」
はあ、メイは可愛いなぁ。
俺が今男だったらなぁ。
そんな下心を抱きながら、俺はおやつを食べに行った。
このウィリアムとの出会いは、確かメインヒロインであるルナが外出中急な雨に打たれて、そこにたまたま通りかかったイケメンのウィリアムが傘に入れてくれるという、相合い傘から始まる甘々なシチュエーションである。
しかも、選択肢によっては相合い傘で少しウィリアムが雨に濡れてしまい、こうして家へと招待する事が出来る。
因みに1番ベストな選択肢以外の選択肢を選んだらその場で別れるだけになってしまう。
ふーむ、もしかしたらこのゲームの世界では、ルナの選択肢は自動的に一番良い選択肢を選ぶルートになっているのだろうか?
「ごめんなさい、今お風呂を沸かしてきますわ」
「そんな、大丈夫ですよ」
しかし、そう考えるとルナって結構やり手だよな。
こうしてイケメンを持ち帰り、あまつさえ風呂まで勧めてくる。
世の男性なら、何かと勘繰ってしまいそうなシチュエーションである。
おっと感心してる場合じゃねぇ、こいつも攻略キャラなんだから、俺も何かアピールした方が良いだろう。
まだ誰を攻略するか決めていないけど、俺様王子とツンデレ幼馴染は既に除外済みなので、残りは3人のうちの誰か。
選択肢はなるべく広げておきたい。
「あら、ルナ、お帰りなさい。
それと、あなたはどちら様かしら?」
先程のメイとの特訓のお陰で、お嬢様っぽく喋れてる。
現実世界では1ミリも役に立たないスキルだけど。
「あ、ライラお姉様。
こちらは、先程私を助けてくれた恩人のウィリアムさんです」
「やあこんにちは。
ライラお嬢様……でいいのかな?
俺はウィリアムって言います」
「ウィリアムさんね。
私はライラ、よろしくね」
ふむ、見た限りいかにも好青年といった感じだ。
まだ前の2人に比べて攻略もしやすそうである。
「あ、ウィリアムさん、お風呂が沸いた様なので、どうぞゆっくり入ってきてください」
「本当にいいのかい?
何だか悪いね、ありがとう」
ウィリアムは甘い微笑みをルナに向ける。
そう、この乙女ゲームの主人公は、ルナなのだ。
当然出てくるイケメン達はルナの方ばかり向く。
俺だって、顔は可愛いはずなのにな。
ジーッとルナを横目で見る。
ルナと俺の大きな違いといえば、おっぱいのでかさだろうか。
やはり男たるもの、あるにはあった方がいいと思うだろう。
くそ、こんな所でそんな格差が生まれてしまうなんて!
男の頃はただおっぱいがでかければ良いと思っていたが、貧乳女子になった今はその考えがいかに残酷な事かと理解する。
このままではまずい、誰も攻略出来ずにいたら、最悪この世界から出られないかも……。
もう月野さんにも会えないなんて、そんなのは嫌だ!
「あ、あの!
ウィリアムさん!」
俺は咄嗟にウィリアムに声をかける。
「その、お風呂まで案内しますわ!」
「え?」
私の申し出に、ルナが驚く。
「ライラお姉様、何もお姉様が案内せずとも……」
「え? 良いのかい?
じゃあお願いするよ」
ルナは何やら困った顔をするも、ウィリアムはすんなりとのってくれた。
ルナには悪いけど俺は性格が良くて攻略しやすいウィリアムとはなるべくお近付きになっておきたい。
こうして俺はウィリアムを風呂場まで案内した。
「ふふ、ではこちらです。
何なら、お背中も流しましょうか?」
俺はニコリと提案する。
「え?」
ウィリアムは顔を赤らめた。
俺はイケメンを落とすテクなんて知らないが、同じ男なら、大体考えている事なんて分かる。
例え胸が無かろうと、可愛い女の子から背中を流そうか? と提案されて、意識しない男はいない!
露骨すぎるって?
いやいや、男にとっては浪漫である。
「その……ありがたいけど、流石に会ったばかりでそんな事、頼めないよ」
まあ、当然断られるのは分かっていた。
ウィリアムは割と紳士的な爽やかキャラだからな。
しかし俺は聞き逃さなかった。
会ったばかりでは頼めない、つまり仲が良ければ頼むかもしれないという事。
ここで完全に否定するのではなく、可能性を残しているあたり、ウィリアムも本音では嫌がっていない様子がうかがえる。
「ふふ、冗談ですよ」
そして俺は笑いながらあざとさを演出する。
こうして茶化す事で相手が断った事に対する罪悪感を薄めるのである。
「はは、びっくりしたよ」
そうウィリアムもノリで返してくる。
さあそろそろトドメだ。
「ではゆっくりしていって下さいね。
あ、でも頼みたくなったらいつでも頼んでいいですよ?」
「え?」
そう言って俺はそそくさと撤退する。
そして陰からウィリアムの様子をうかがった。
お、赤面してるな、耳まで真っ赤である。
はい、ヨユー。
茶化しつつも本心であると伝えると同時に恥ずかしくてその場から逃げちゃういじらしい女の子作戦は無事決まった様である。
本当は俺も逃げる前に顔を赤らめられればもっと効果は期待できたのだが、いかんせん男相手に頬を赤らめると言う事が俺には出来ない。
まあ、これでウィリアムルートは一先ずどうにかなりそうである。
「ライラお姉様……」
俺はこの時、まだルナが俺の事をどう思っているかなんて知りもしなかった。
「お風呂まで貸して頂き、本当にありがとう」
しばらくして、風呂上がりにバスローブ姿でウィリアムは登場した。
「いえ、あのまま風邪でも引かれたら大変ですもの」
そうルナは気遣う様にウィリアムを見る。
「それと、ライラお嬢様も案内ありがとうございます」
ウィリアムは私を見て少し顔を赤らめる。
効果覿面な様で良かった良かった。
「いえいえ、私はただ案内しただけですし」
「あ、ウィリアム様!
お洋服が乾くまで時間がありますし、何かお話しませんか?」
何やら慌ててルナは話題を逸らす。
もしかして、ルナもウィリアムの事を狙っているのか?
だとしたらまずい。正規のメインヒロインにサブの悪役令嬢が敵う筈がない。
それどころか、俺がルナの恋の邪魔をしている悪者として、バッドエンドまっしぐらじゃないか!?
出来ればルナには俺が攻略出来ない他のキャラを攻略して欲しいのだが。
しかし、ルナはグイグイとウィリアムとの距離を縮めようと頑張っている様に見える。
こうなったら、俺はウィリアムを攻略出来なくなってしまう。
しかし、まだ全攻略キャラが出て来た訳ではない。
もしかしたらこれから出るキャラの方にルナがなびく可能性だって0ではない。
もう少し様子を見よう。
俺はそう思った。
ただ、ルナってこんなにグイグイ行く女だったっけ?
まあいいや。
そんな感じで、服が乾いたウィリアムはそのまま帰っていった。
ふと俺は、ルナがウィリアムの事を好きなのか訊いて見ることにした。
「あの、ルナ。
少しいいかしら」
「な、何でしょうかライラお姉様」
どうやら俺はめちゃくちゃ警戒されてるらしい。
まあ、ゲームで散々ライラはルナの事虐めていたし、無理もないか。
「もしかして、ウィリアムさんの事、好きなのかしら?」
「そ、そんなのお姉様に関係ないじゃないですか」
おっと、拒絶されてしまった。
それもそうか、何せ俺はお邪魔キャラ、もしルナが誰かを好きになっても、俺に教えたら盗られる可能性があるというのに、ペラペラ話したりはしないだろう。
「そう、じゃあ何でもないわ。
失礼」
俺はそのまま部屋に戻る事にした。
後残るは2人か……。
さて、どうしたものか。
俺が悩んでいると、メイが部屋にやってきた。
「そろそろおやつは如何ですか?」
メイはニコニコとそう尋ねてくる。
メイも初めて会った時とは随分変わったものだ。
「ありがとう、メイ。頂くわ」
俺がそう言うと、メイは嬉しそうな顔をする。
「随分機嫌が良さそうね」
「はい!
だって名前がありますから!」
メイは更にニコニコしながら答えた。
「屋敷のみんなびっくりしているんですよ、最近のライラお嬢様の変わりぶりに!」
「え? そんなに変わってる?」
確かに中身が男になったら変わっているだろうけど、表立って変に見られたらまずいよなぁ。
しかし、この考えは杞憂だった。
「それは、だって最近ライラお嬢様は前みたいにすぐに怒らないですし、我が儘も言わなくなりましたし、それにありがとうやごめんなさいをすぐに言える様になったって、みんな驚いてますよ!」
成る程、プラスの意味で良くなったという訳か。
そっちなら全然良い。
寧ろ今までどれだけ好感度低かったんだライラよ。
「はっ!?
い、今の発言、怒ってますか?」
メイが流石に言いすぎたかと今更焦り出した。
しかし、別に俺は怒る気もない。
「大丈夫、怒ってないから」
「ほっ、良かったです!」
はあ、メイは可愛いなぁ。
俺が今男だったらなぁ。
そんな下心を抱きながら、俺はおやつを食べに行った。
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