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楽園はすぐそばに?
6.言いなよ。全部。聞いてやるから
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背後から、もう聞くはずがないと思っていた声が聞こえたと同時に、背中越しに彼の体温が伝わる。
裸の胸板からダイレクトに熱が伝わる。
どんな時でも穏やかだった彼の心臓が、私の心臓を無理やり叩き起こすかのように、激しく打たれているのが分かる。
「どうして……」
「それはこっちのセリフだよ」
そう言うと、私を無理に振り向かせた。
「僕が、気づかなかったと本気で思ったの?」
「え?」
奴は自分のポケットに手を入れて、あるべき場所にあったはずの私の薬を見せた。
「それ……」
「昨日の内に君の病院に行って話は全部聞いた」
「嘘、だって昨日のまま……」
「この恰好で病院に行ったんだよ」
「ええ!?」
上半身全裸で?いくら夏とは言ってもさすがに夜にその格好では怪しすぎるだろう。
「だって雪穂ちゃん、絶対に僕にはこういうの教えないの、僕知ってるからさ。伊達に5か月近く片思いしてないよ」
「5か月って……私達、出会ったの今年の4月で」
「だから、初めて会った時から好きだったの。何度言わせれば気が済むの?」
こんな怒りに満ちた声も表情も、初めて見た。
「私達3か月は付き合ってたから……5か月は計算が合わないよ」
「5か月だよ。今日までずっと僕の片思い。ひとり相撲。そういうことでしょ?」
「何でそんな事……」
「だって、初めから別れるつもりだったんでしょ?僕の事利用するだけ利用して、捨てるつもりだったんでしょ」
どうやら山田氏との会話を聞いていたらしい。
「どうして僕を頼ろうとしてくれなかったの?そんなに僕って頼りない?」
怒りのせいで低くなっていく声と反比例に、彼の口から発せられる言葉は甘えっこモードだ。
裏が怖い。
何を考えてるのか普段も読み取る事は難しかったけど、今日は底なし沼の底の位置を確認する事くらい、奴の真意を測れない。
「そういうわけじゃない」
「じゃあどうして」
「それを言わせる?未来のある人間がこの私の!?」
「言いなよ。全部。聞いてやるから」
「聞かせてやるよ全部!」
私は自分のワンピースを脱ぎ、投げつけてやった。
裸の胸板からダイレクトに熱が伝わる。
どんな時でも穏やかだった彼の心臓が、私の心臓を無理やり叩き起こすかのように、激しく打たれているのが分かる。
「どうして……」
「それはこっちのセリフだよ」
そう言うと、私を無理に振り向かせた。
「僕が、気づかなかったと本気で思ったの?」
「え?」
奴は自分のポケットに手を入れて、あるべき場所にあったはずの私の薬を見せた。
「それ……」
「昨日の内に君の病院に行って話は全部聞いた」
「嘘、だって昨日のまま……」
「この恰好で病院に行ったんだよ」
「ええ!?」
上半身全裸で?いくら夏とは言ってもさすがに夜にその格好では怪しすぎるだろう。
「だって雪穂ちゃん、絶対に僕にはこういうの教えないの、僕知ってるからさ。伊達に5か月近く片思いしてないよ」
「5か月って……私達、出会ったの今年の4月で」
「だから、初めて会った時から好きだったの。何度言わせれば気が済むの?」
こんな怒りに満ちた声も表情も、初めて見た。
「私達3か月は付き合ってたから……5か月は計算が合わないよ」
「5か月だよ。今日までずっと僕の片思い。ひとり相撲。そういうことでしょ?」
「何でそんな事……」
「だって、初めから別れるつもりだったんでしょ?僕の事利用するだけ利用して、捨てるつもりだったんでしょ」
どうやら山田氏との会話を聞いていたらしい。
「どうして僕を頼ろうとしてくれなかったの?そんなに僕って頼りない?」
怒りのせいで低くなっていく声と反比例に、彼の口から発せられる言葉は甘えっこモードだ。
裏が怖い。
何を考えてるのか普段も読み取る事は難しかったけど、今日は底なし沼の底の位置を確認する事くらい、奴の真意を測れない。
「そういうわけじゃない」
「じゃあどうして」
「それを言わせる?未来のある人間がこの私の!?」
「言いなよ。全部。聞いてやるから」
「聞かせてやるよ全部!」
私は自分のワンピースを脱ぎ、投げつけてやった。
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