幼馴染でマジカルなアレが固くなる

余るガム

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第二部 高校生編

無言

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 あの後なじみを問い詰めて諸々聞き出した。
 要するに付き合ってることは秘密にして、俺というエサに泥棒猫が群がるまで待って、その上でなじみと俺が劇的に付き合って全員の性癖を捻じ曲げる、という企画らしい。
 これなら泥棒猫すら性癖を満たせるようになってみんな幸せというのがなじみの論だ。

 こんな暴論も珍しい。

 要は浮気をしろ、なんて言われたわけだが。
 正直今でも気が進まない。

 なじみの言は要するに『他の女の子の達の好感度を上げるだけ上げて、その上でそいつらを捨てて私を選んで』という事だ。
 整理するととんでもねえこと言ってんな。

 最初からなじみ以外の誰かを選ぶつもりなどないのに、他の女子に思わせぶりな事をするのも気が引ける。出来レースでないのならまだよかったが現実は非情だ。

 『どれだけ比べても絶対に私を選んでくれる』っていう信頼と自信の表れだと考えれば少しはマシか。

 ちなみになじみに群がる男の方をどうするのかと聞いたが、『私に欲情する事=私とケーくんの中を引き裂こうとする存在であることの証明=生きる権利無し』とのことだ。
 長年の想いが熟成されてヤンデレになってる気がする。

 そういえば女が好きなのは女にモテている男と聞いたことがある。
 もしかしてなじみは俺をそういう風にしたいのだろうか。

 色々思案していると、なじみが朝食の片づけを終えていた。

「じゃあとりあえず帰るね」
「帰るっつっても仕切り板一枚挟んだだけだろうが」
「そうだけどね」

 ひょいっとベランダから隣のベランダに移るなじみ。
 そこがなじみの部屋である。

 実家では『窓から部屋を行き来する』なんて幼馴染ムーブはできなかったが、今は簡単にできるわけだ。

 さて、なじみが去って暇なので、なじみとは反対側のお隣さんに挨拶をしておこう。
 何度か行ったのだが、留守だったことが重なり、結局挨拶できていないのだ。

 手土産に素麺も買った。
 あんまり好きでもないが、そういうもんらしいし。

 お隣さんはそもそも今いるのかわからないが・・・防音にした所為で生活音などは聞こえない。
 まあ行ってみればわかることだ。





 素麺片手にチャイムを鳴らす。
 ぱたぱたと足音が聞こえるので、今日は在宅だったのだろう。ようやく挨拶が終わる。

「はい・・・あ、安心院君」
「また仁科・・・いや微?」

 お隣さんは微だった。
 最初の返事は相当嫌そうだったが、俺の顔を見るなりその絶望は消えていた。

「どうして安心院君がここに?」
「ああ、隣に引っ越してきたんでね。挨拶を、と思って」
「隣にきた人って安心院君だったの・・・なら良かった。やっぱり気心知れてる相手だと思うと気楽ね」

 そういう割には、元気がなさそうにも思えるが、どうしたんだろうか。

「微、どっか体調悪い?」
「え? 別にそんなことはないけど・・・どうして?」
「なんか元気なさそうに見えたから」
「そう・・・」

 微は少し考えこむと、こちらを見て聞いてきた。

「安心院君は彼女っているの?」
「いきなりなに?」

 あまりに早い話題転換についていけない。
 そういう所やぞ、微。

「答えて」
「はあ・・・」

 さて何と答えたものか。
 少なくともなじみと俺の関係は恋人同士で、なじみは俺の彼女である。 

 がしかしなじみに『浮気してきて』と言われた以上、ここで居ると言っては浮気はできない。
 我ながら最低の思考回路だな。

「いないは、いないですけど」
「そう・・・」

 微の表情が少し明るくなる。
 しかし陰がなくなり切ったわけじゃない。

「あ、これ手土産の素麺ね」
「ありがとう」
「じゃ、俺はこれで」

 立ち去ろうとする俺の袖を微が摘まむ。

「微?」
「・・・お礼に、お茶飲んでって」
「はあ、まあ、良いですけど」

 どうせ予定などない休日だ。
 しかしなじみに言われたことを考えるとなんだか居心地が悪いのも事実。

 適当に切り上げて早めにお暇するとしよう。

 微の部屋に特にダイナミックでもないエントリー。
 無言で指し示された椅子に座って茶が入るの待つ。

 トントン、と肩を叩かれて振り返ると、豆と葉を持っている微が。

「コーヒーで」

 くるっと踵を返してコーヒーを淹れに行った。

 しばらくしてコーヒーをお盆に乗せて持ってきてくれた。
 机に置く際、どうしても胸が視界に入ってくる。

 ぽよん、なんて生易しい音ではない。
 どるん、とかを想起させる光景だ。
 小二時点でおそらくDだった微の胸は思春期に入り急成長を遂げ、果たして今のブラのカップ数はいくつになっていることやら。

「いやしかし、良い部屋に住んでる」

 コクコク。
 こてん。

「住んでる人が違うと変わると思うし」

 ふるふる。

「お世辞でも嬉しいね」

 さて、いきなり微が無言になって驚いていることだろうが、彼女はこっちが素である。
 屋外では割と饒舌だったが、ひとたび安心できるスペースに安心できる相手と居るとほぼ無言になって表情筋がす仮死状態になるのだ。

 微が素を出すとかなり親交の深い人間にしか意思疎通ができないようになる。
 まあこうなるのはそういうことが出来るような人間相手だけなので、問題ない・・・のか?

「そういうことは小中と乗り越えてきた今更な話じゃあないか」

 ふるふる。

「違う? 好奇が嫉妬にでも変わったってこと?」

 こてん。

「まあそういう連中の思考回路なんてわかるわけもないか」

 コクコク。

「言うじゃないか。そういう事が言えるならしばらく大丈夫だろう」

 コクン。
 じー。

「・・・ああ、コーヒー? 美味しいよ」

 むふー。

「しかしどこで俺の好みを知ったんだ? 微の前で飲んだことなかったと思うんだが」

 ふんす。

「なるほど、そりゃあ上手くもなるか」

 ふんすふんす。

「凄い凄い」

 頭を撫でようとしたら拒否された。
 口調を小学生時代に戻したら対応まで戻ってしまったのだ。

 じー。

「えー・・・まあ良いけど、腕回るかな」

 こてん。

「背中まで」

 ぷんすこ。

「流石に冗談だけど、実際胸以外はほとんど接着しないと思うぞ?」

 コクン。

「お前がいいならいいけど・・・」

 立ち上がって、腕を伸ばす。
 その中に微が入ってくる。
 背中まで腕が回らない、という事態はなかったのでちゃんと抱きしめられはしたのだが、案の定胸部の圧迫感以外何も感じない。

 十秒ほどそうしていると微の方から離れた。

「満足したか?」

 コクコク。

「なんで頭撫でるだけじゃダメなの?」

 ふんす。

「それだと年上女性には全員頭撫でちゃダメってこと?」

 こくり。

「望まれても?」

 ふるふる。

「基準が・・・いや分かるわ」

 変態プレイみたいなもんだろう。
 双方の同意があれば問題ない、みたいな。
 これで納得する俺も俺だな・・・。



 そのままコーヒーと会話(?)を楽しむことしばらく。
 茶も茶請けも尽きてきたころ。

 じとー。

「えっ」

 確かに防音にしたが、後付けで出来るそれは決して完璧ではないし、なじみの声が大きかったというのもある。
 正直当時はなじみの声がどれくらい大きかったのか、正確な所は覚えていない。
 送り込まれる快楽でそれどころではなかったというのが大きい。

「いや、あー・・・そうか、そう聞こえなくもないのか。防音したから逆になー・・・」

 白々しく言ってから繋げる。

 こてん。

「あー・・・筋トレしてたんだが、ちょっと機材が倒れこんでな。多分その時に挙げた悲鳴だと思う」

 じとー。

「マジ? 俺そんな声出してたの?」

 こてん。

「うわー、なんか恥ずかしいな。『女の子みたいな声』って言われるとは・・・」

 こてん。

「それは防音してたからじゃない? まあ過剰な絶叫した俺の所為でもあるかもしれないけど」

 ぷすぷす。

「あはは、まあ・・・思春期だし。そういうことに興味が生まれる年頃だろうし、気にはしない」

 ジッ。

「それは・・・まあ・・・女性サイドから言われるのは流石に初だし、多少はね?」

 じわぁ。

「大丈夫大丈夫、一般的な範囲だから。もーまんたいもーまんたい」

 ジッ。

「全くないね」

 きりり。

「いやその理屈はおかしい。そういうのはちゃんと段階を踏もう。その前にまず頭を冷やせ。今わけわかんねーこと言ってっから」

 きりりっ。

「OKわかった。一回深呼吸して、ゆっくり目を瞑って横になるんだ。4時間後に起こしてやる」

 ハッ。

「帰るわ」

 ぐいぐい。

「いや、帰る。そして頭を冷やそう、お互いにだ。それで決着じゃあダメか?」

 ぐいー。

「ええい引っ張るな裾が伸びる」

 5分ほどてんやわんやしてから帰宅に成功した。
 一応言っておくと貞操は守られた。いや、貞操自体はもうなじみにささげたんだけどさ。
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