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第二部 高校生編
ただ強いだけの能力なんて面白味(おもしろあじ)が無いよなぁ!?
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自分の超能力を前向きに受け入れた所で、とりあえず強化状態でないままランニングを終え、二人と合流した。
仕方ない部分も大いにあるのだろうが、圭希はいつも以上に疲れ果てた様子だった。
その一方で信照は未だハイテンションが止まらない。
その結果を見た時点で、俺は信照の恋が実らないであろうことを改めて確信した。
これでは内海さんにまともな報告もできないだろう。わざわざするほどの義理があるわけでもないのだが。
「あーっと・・・お互い無事に終了したようで・・・」
「全くその通りだ!」
「物理的にはそうですね。物理的には」
圭希がアストラル体に重篤なダメージを負っているのを見て、俺は早々に撤収する腹を決める。
「じゃあこれでお開きという事で。俺は帰るから」
「おう! な、なあ花開院、出来ればこの後お茶なんかしたいなーって思うんだけど・・・」
「いえ、門限があるので帰ります」
バリバリに午前だが、その規定で一体どんな活動ができるというのか。
出まかせであることは百も承知だが、わざわざ藪をつつく必要もあるまい。
「じゃあまたな」
なるべく早くその場を立ち去ることにした。
薄く肉体強化すら使って走り去った。
明らかに人体が出せない速度を出さないようにしようと思って薄く使ったのだが、どうやらセーブしようとするその心意気が良かったようで、強化倍率は比較的制御可能な範囲で収まっている。
ここから少しずつ制御上限を上げていければ、その内スーパーマンごっことかできるだろうか。
バック走でダンベルを放り投げるのに筋力だけでは不足だろうと思っていたところなので、そっちの方が捗るだろうか。
割と楽しくなってしまった俺は少しずつ倍率を上げ、予定より3割ほど早い時間で帰宅した。
それで家の中に入ったのだが、不思議なことになじみが居ない。
電話をかけてみると、数コールの後になじみが出た。
「あ、なじみ?」
『うん、どしたのケーくん?』
「今帰ってきたところなんだが、なじみが居なくてな。今どこにいる?」
『スーパーで買い物。お醤油切らしてて』
「・・・あ、ホントだ」
冷蔵庫を開けて確認してみると、醤油だけが切れていた。
『でもなんで今帰ってるの? もうしばらくは帰ってこないと思ってたんだけど・・・』
「ああ、帰りがスムーズでな。俺としても思ったより早く帰れてビックリしてるところだ」
『そーなんだ。じゃあこれからはもっと家にいないとね』
「別に必要ならいくらでも外出すればいいだろうに」
『ケーくんの帰りを待つのが好きなの!』
「そのロマンはよくわからんが」
『うん。じゃあ早く帰るね』
「たまには一人でゆっくりしてきたらどうだ?」
『ケーくんと一緒じゃないとなんか虚しいし。お醤油買ったらすぐ帰るから』
「ああ、わかった」
電話を切って、ふうとため息をつく。
まあ、特に事件に巻き込まれたとかでなくてよかった。
これで一安心という所で、さあこれから何をしようか。
とりあえずランニングをキメて体がhotなのを良い事に筋トレへ移行することに。
規定回数を熟して、次はどうしようか。
折角とっかかりを掴めたのだし、肉体強化の訓練でもするか。
少し意識を向ければ、エネルギーとしか表現できない何かが全身を這い回る様に巡り、充填されていく。
先のものよりいくらかスムーズで来たのは、この行為自体への多少の慣れもあるのだろう。
試しに色々家事をしてみれば、なんとまあ力が要らないというのだから恐ろしい。
この分だと髪型くらいのテンションで模様替えが出来そうだ。
とはいえある程度以上に出力を上げるとぶっ飛びそうになるのも事実。
やはり普段使いして慣らす必要がある。
その際の出力も段々と上げていけば制御もできるはずだ。
唯一の心配点としては、この肉体強化の副作用か。
筋肉を強化するために精力に回していたエネルギーが無くなってED化なんてありそうな話だ。
この辺については渡辺に色々聞いておくのが得策だろう。
というかセックスの超能力が肉体強化できるってことは多分全部の超能力者が肉体強化できるよな? 島崎・・・瞬間移動する奴とか勝てる気がしないんだが。
いや別に勝つ必要もないんだけどさ。
キンコーン。
「おや?」
チャイムのなった音だ。
来客とは珍しい。まさか噂すれば陰で渡辺が来たんだろうか。
ドアスコープを覗いたところ、来客は微のようだ。
渡辺が来ても微が来ても意味不明であることに変わりはないのだが。
「やあ。どうしたいきなり」
「肉じゃが作りすぎたから御裾分けを・・・」
「ああ、それはありがとう」
「ンンッ・・・それで、食べに来て、欲しんだけど」
「隣だろ? それに御裾分けならタッパーにでも詰めてくれたらいいのに」
「いや、これがその・・・鍋一杯に作って運搬できないレベルだから」
「寸胴鍋でも使わなきゃそうはならんやろ」
「寸胴鍋使っちゃったから」
「なんで肉じゃがに寸胴鍋使うんだよ。頑張ればフライパンでも作れるぞ」
出来は保証しないが。
「とにかく来てくれないと困るの!」
「ええ~・・・まあ良いけど」
そういえばなじみ的にこれって浮気の範疇なんだろうか。
言っちまった以上、行かないという選択肢もないんだけど。
そんなわけで場所を移して微の部屋。
「やっぱ清潔にしてるな~」
こてん。
「そりゃ多少は気を遣うさ。部屋の乱れは心の乱れってな」
部屋は自己という最も大切なものを保存する場所だ。
であれば、そこを居心地よくする義務が存在する。
自分の部屋で自由に、快適に過ごせないのなら、いずれ大きな破綻となって自己を襲う。
まあ俺の場合は大体なじみがやっているという背景もあるのだが。
じとっ。
「なんでそんなジト目をするんだ・・・俺が何かしたか?」
すっ。
チラッ。
上目遣いをされると結構来るものがある。
視覚的な効果が一番強いだろう。具体的には胸である。
「ああ・・・言ったけど」
ニヤッ。
「しかしそれがどうしッ・・・」
ドンッ。
微の上目遣いに気を取られていたせいか。あるいは突如彼女が見せた怪しい笑みの所為か。
俺の鍛えられたはずの体幹は、超能力で強化されているはずの肉体は、彼女のタックルで脆く揺れ、その先にあったベッドに倒れこんだ。
当然、俺の体には微が馬乗りになっている。
見上げる形となったわけだが、顔が胸に隠れて半分くらい見えん。
「じゃあ、私の今の想いも、心の乱れじゃないのよね?」
自分の部屋では動かないはずの表情、唇。
不安げで真っ赤な顔も、震え交じりの唇も、微の部屋で見ることになるとは思わなくて。
「ねえ、安心院君」
「はい」
だから、俺は面白みのない返答しかできなかった。
「ずっとずっと、子供のころから、トイレの個室で震えてた私と、普通に笑い合ってくれてたあの時から、ずっとずっと好きでした。私と、付き合ってください」
微は安心できないと口数が増える。
それは相手が自分を攻撃すると考えているからで、その矛先が向かないようにするためのものだった。
表情豊かで多弁なら、多少特異な程度では爪弾きにならないことを知っているのだ。
それはイジメられていた経験からくる卑屈さであり、周囲に好かれている人を見て学んだ彼女なりの処世術であった。
心を閉ざすほど口が開き、心を開くほど口が閉じる。
かつて彼女と仲良くなった、あるいはなろうとした人間は、普通と逆の挙動をする微に怯え、離れていった。
唯一それを受容し、付き合いを続けていたのは俺だけだった。
過程をすべて知っている身としては、段々上がるコミュニケーションの難易度も誤差の積み重なり。彼女と意思疎通をするのはそう難しい事ではなかった。
あるいは、なまじ俺がわかるからこそこうなってしまったのかもしれない。
そう考えるなら、彼女から『本当に親しい人間』を作る能力を奪ったのは俺だ。
俺は言わなければならない、その事実を。
残酷極まる、本当の真実を。
「ゴメン、俺今彼女いるから」
仕方ない部分も大いにあるのだろうが、圭希はいつも以上に疲れ果てた様子だった。
その一方で信照は未だハイテンションが止まらない。
その結果を見た時点で、俺は信照の恋が実らないであろうことを改めて確信した。
これでは内海さんにまともな報告もできないだろう。わざわざするほどの義理があるわけでもないのだが。
「あーっと・・・お互い無事に終了したようで・・・」
「全くその通りだ!」
「物理的にはそうですね。物理的には」
圭希がアストラル体に重篤なダメージを負っているのを見て、俺は早々に撤収する腹を決める。
「じゃあこれでお開きという事で。俺は帰るから」
「おう! な、なあ花開院、出来ればこの後お茶なんかしたいなーって思うんだけど・・・」
「いえ、門限があるので帰ります」
バリバリに午前だが、その規定で一体どんな活動ができるというのか。
出まかせであることは百も承知だが、わざわざ藪をつつく必要もあるまい。
「じゃあまたな」
なるべく早くその場を立ち去ることにした。
薄く肉体強化すら使って走り去った。
明らかに人体が出せない速度を出さないようにしようと思って薄く使ったのだが、どうやらセーブしようとするその心意気が良かったようで、強化倍率は比較的制御可能な範囲で収まっている。
ここから少しずつ制御上限を上げていければ、その内スーパーマンごっことかできるだろうか。
バック走でダンベルを放り投げるのに筋力だけでは不足だろうと思っていたところなので、そっちの方が捗るだろうか。
割と楽しくなってしまった俺は少しずつ倍率を上げ、予定より3割ほど早い時間で帰宅した。
それで家の中に入ったのだが、不思議なことになじみが居ない。
電話をかけてみると、数コールの後になじみが出た。
「あ、なじみ?」
『うん、どしたのケーくん?』
「今帰ってきたところなんだが、なじみが居なくてな。今どこにいる?」
『スーパーで買い物。お醤油切らしてて』
「・・・あ、ホントだ」
冷蔵庫を開けて確認してみると、醤油だけが切れていた。
『でもなんで今帰ってるの? もうしばらくは帰ってこないと思ってたんだけど・・・』
「ああ、帰りがスムーズでな。俺としても思ったより早く帰れてビックリしてるところだ」
『そーなんだ。じゃあこれからはもっと家にいないとね』
「別に必要ならいくらでも外出すればいいだろうに」
『ケーくんの帰りを待つのが好きなの!』
「そのロマンはよくわからんが」
『うん。じゃあ早く帰るね』
「たまには一人でゆっくりしてきたらどうだ?」
『ケーくんと一緒じゃないとなんか虚しいし。お醤油買ったらすぐ帰るから』
「ああ、わかった」
電話を切って、ふうとため息をつく。
まあ、特に事件に巻き込まれたとかでなくてよかった。
これで一安心という所で、さあこれから何をしようか。
とりあえずランニングをキメて体がhotなのを良い事に筋トレへ移行することに。
規定回数を熟して、次はどうしようか。
折角とっかかりを掴めたのだし、肉体強化の訓練でもするか。
少し意識を向ければ、エネルギーとしか表現できない何かが全身を這い回る様に巡り、充填されていく。
先のものよりいくらかスムーズで来たのは、この行為自体への多少の慣れもあるのだろう。
試しに色々家事をしてみれば、なんとまあ力が要らないというのだから恐ろしい。
この分だと髪型くらいのテンションで模様替えが出来そうだ。
とはいえある程度以上に出力を上げるとぶっ飛びそうになるのも事実。
やはり普段使いして慣らす必要がある。
その際の出力も段々と上げていけば制御もできるはずだ。
唯一の心配点としては、この肉体強化の副作用か。
筋肉を強化するために精力に回していたエネルギーが無くなってED化なんてありそうな話だ。
この辺については渡辺に色々聞いておくのが得策だろう。
というかセックスの超能力が肉体強化できるってことは多分全部の超能力者が肉体強化できるよな? 島崎・・・瞬間移動する奴とか勝てる気がしないんだが。
いや別に勝つ必要もないんだけどさ。
キンコーン。
「おや?」
チャイムのなった音だ。
来客とは珍しい。まさか噂すれば陰で渡辺が来たんだろうか。
ドアスコープを覗いたところ、来客は微のようだ。
渡辺が来ても微が来ても意味不明であることに変わりはないのだが。
「やあ。どうしたいきなり」
「肉じゃが作りすぎたから御裾分けを・・・」
「ああ、それはありがとう」
「ンンッ・・・それで、食べに来て、欲しんだけど」
「隣だろ? それに御裾分けならタッパーにでも詰めてくれたらいいのに」
「いや、これがその・・・鍋一杯に作って運搬できないレベルだから」
「寸胴鍋でも使わなきゃそうはならんやろ」
「寸胴鍋使っちゃったから」
「なんで肉じゃがに寸胴鍋使うんだよ。頑張ればフライパンでも作れるぞ」
出来は保証しないが。
「とにかく来てくれないと困るの!」
「ええ~・・・まあ良いけど」
そういえばなじみ的にこれって浮気の範疇なんだろうか。
言っちまった以上、行かないという選択肢もないんだけど。
そんなわけで場所を移して微の部屋。
「やっぱ清潔にしてるな~」
こてん。
「そりゃ多少は気を遣うさ。部屋の乱れは心の乱れってな」
部屋は自己という最も大切なものを保存する場所だ。
であれば、そこを居心地よくする義務が存在する。
自分の部屋で自由に、快適に過ごせないのなら、いずれ大きな破綻となって自己を襲う。
まあ俺の場合は大体なじみがやっているという背景もあるのだが。
じとっ。
「なんでそんなジト目をするんだ・・・俺が何かしたか?」
すっ。
チラッ。
上目遣いをされると結構来るものがある。
視覚的な効果が一番強いだろう。具体的には胸である。
「ああ・・・言ったけど」
ニヤッ。
「しかしそれがどうしッ・・・」
ドンッ。
微の上目遣いに気を取られていたせいか。あるいは突如彼女が見せた怪しい笑みの所為か。
俺の鍛えられたはずの体幹は、超能力で強化されているはずの肉体は、彼女のタックルで脆く揺れ、その先にあったベッドに倒れこんだ。
当然、俺の体には微が馬乗りになっている。
見上げる形となったわけだが、顔が胸に隠れて半分くらい見えん。
「じゃあ、私の今の想いも、心の乱れじゃないのよね?」
自分の部屋では動かないはずの表情、唇。
不安げで真っ赤な顔も、震え交じりの唇も、微の部屋で見ることになるとは思わなくて。
「ねえ、安心院君」
「はい」
だから、俺は面白みのない返答しかできなかった。
「ずっとずっと、子供のころから、トイレの個室で震えてた私と、普通に笑い合ってくれてたあの時から、ずっとずっと好きでした。私と、付き合ってください」
微は安心できないと口数が増える。
それは相手が自分を攻撃すると考えているからで、その矛先が向かないようにするためのものだった。
表情豊かで多弁なら、多少特異な程度では爪弾きにならないことを知っているのだ。
それはイジメられていた経験からくる卑屈さであり、周囲に好かれている人を見て学んだ彼女なりの処世術であった。
心を閉ざすほど口が開き、心を開くほど口が閉じる。
かつて彼女と仲良くなった、あるいはなろうとした人間は、普通と逆の挙動をする微に怯え、離れていった。
唯一それを受容し、付き合いを続けていたのは俺だけだった。
過程をすべて知っている身としては、段々上がるコミュニケーションの難易度も誤差の積み重なり。彼女と意思疎通をするのはそう難しい事ではなかった。
あるいは、なまじ俺がわかるからこそこうなってしまったのかもしれない。
そう考えるなら、彼女から『本当に親しい人間』を作る能力を奪ったのは俺だ。
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