幼馴染でマジカルなアレが固くなる

余るガム

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第二部 高校生編

勿論参考文献はあるぞ!

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「オッケー、じゃあ掛け金は成立ってことで」

 俺の混乱を余所に、事態はドンドン進行していく。
 俺からすればこのあたりの諸々は全部初見だが、俺以外からすればほぼ既定路線みたいなものだろう。

 と、ここで島崎が俺の肩に手を置く。

「移動しようか・・・とその前に。ここから先は飲食禁止だけど、何か持ってたりする?」
「いや、特には」
「あ、僕ポケットに飴が・・・」

 そう言ったのは先程のギャンブル漫画主人公(暫定)。
 財前は少し呆れたような顔をしていたが、その飴は即座に飲み込むという形で処理された。

 ヴイン。空間が捻じれ、別の場所に降り立つ。
 先ほどの部屋にあった全てが移動していた。変わったのは本当に場所だけなのだろう。

 しかしこの男、島崎。
 瞬間移動の超能力ってのは分かるが、発動条件が緩すぎないか? いや、緩いのだとしてもなぜ俺に触れた?
 あの接触は必要だったのか? じゃあ俺とそれ以外での差は?

 あーもう、考えることが多すぎて嫌になる。

「じゃ、とりあえずルール説明からだね。ゲームの名は『ウィッシュ・ア・イモータル』。一言でいえばカードゲームだけど、君もご存じの通り半殺し上等のルールだ。四捨五入してコロッと逝くのも充分ありうる。よろしいかな?」
「当然だ」

 渡辺からルール説明がされる。
 1mlの水銀。これを配られた手札で相手より多くする、というゲームらしい。
 五枚ある『不死』のカードは水銀の量を7倍する、一枚ある『怪盗』のカードは相手の水銀を50%奪う、一枚ある『近衛』は相手が『怪盗』を使った時に使うと『怪盗』を無効化し逆に水銀を90%奪う。ちなみに小数点以下は切り捨て。

 手番は渡辺が先行だ。仮面を被っているので先出しの不利である『表情を読まれる』という事が発生しないためである。

 ゲームは全部で3ラウンド。
 1ラウンドの最後に所持している水銀が頭上の器に流し込まれ・・・3ラウンド終了時、水銀が少なかった方を負けとし、それまで増やした水銀が降り注ぐ。

 水銀はそれ自体の毒性もあるが、大体13.5ぐらいの比重なので1mlでも13.5gほどの質量を持つ。そんな重量物が一気に叩き込まれるだけでも十分致命傷足りうる。とのことだ。
 この罰ゲームを成立させるため、椅子から離れてはいけないというルールも制定されている。勿論ルールを破ったら反則負けだ。

 ちなみに水銀の量はラウンドごとに持ち越しだ。器に注ぎ込まれても特に清算などがされるわけではない。例えば1ラウンドで100ml手に入れたら器に100ml注ぎ込まれるが、2ラウンドの開始時の水銀の量は100mlからスタートするというわけだ。
 コテンパンに負ければ傷は浅く、ほぼ無傷で終わるだろうが、中途半端に勝つとかえって危ない。そんなゲームバランスになっているらしい。

 あと、超能力を使ったイカサマもルール違反。行われたら天秤の判断で勝敗が決定するため、一切のイカサマは不可能である、とのことだ。

「勝利条件は相手より水銀が多いまま全ラウンドを終了すること、または相手が死ぬこと。敗北条件は相手より水銀が少ないまま全ラウンドを終了する事、または自分が死ぬこと。よろしいかな?」
「・・・ああ、わかった」

 正直ざっと言われただけでは全然ピンと来ない。
 手が偏った限定ジャンケンって感じか? しかしだとしたら偏ってる分はあいこで消えるから意味なんて・・・ああ、偏ってる『不死』は水銀を増やすカードだから、負けた方の傷が深くなるのか。良い趣味してんな。

「あ、それと水銀を入れ終わったら、5分くらい休憩入れようか。ずっと座りっぱなしってのも疲れるからね。この時は反則じゃないってことにしよう」
「・・・わかった」

 やはり成金とはいえ成功者。頭のキレは俺より上らしい。こんなルールを即座に理解してしまうとは。
 ルールが全然ピンと来ない。

 こういう時はとりあえず一回やってみるのが一番わかりやすくていいのだが、世の中には一回やっただけで破滅するようなものが多くある。半殺し上等、なんてまさしくそれだろう。

「さてルール説明も終わったところで・・・賭けをするなら君にもカードを配りたいわけだけど、まだ例の言葉を聞いてなかったな?」
「良いだろう。わしはこのゲームの勝利に超人一人を望み、敗北に200億と親族16人を賭ける。これを天秤に誓おう」
「Good。俺はこのゲームに200億と財前の親族16人を望み、敗北に超人一人を賭ける。これを天秤に誓おう」

 言葉が終わるや否や、即座に世界が上書きされ、編まれた光が天秤を成す。
 契約成立、そしてゲームスタートだ。



 この『ウィッシュ・ア・イモータル』、しばらく時間を掛けて噛み砕いた感じでは限定ジャンケンよりEカードの方が近い。
 言ってしまえば『怪盗』と『近衛』を如何にして相手より後に決めるか、というゲームだ。

 この二枚で相手から奪う量が割合であり、しかも片方は90%である以上、ぶっちゃけ五枚ある『不死』のカードの二枚目以降に意味はない。

 それゆえか、第四ゲームまではお互い全て『不死』を出し、双方の水銀は2401ml。
 後ろから渡辺の手を除いている形の俺から見ても、まるで打ち合わせ済と言わんばかりのスムーズさだった。

 しかし問題はここからだ。
 ここからは三択。『怪盗』で速攻か、それを読んで『近衛』でカウンターか、更にそれを読んでの『不死』で自爆待ちか。

 渡辺が切ったカードは・・・『近衛』!

 読みは二段目に留めた。問題は財前のカードだが・・・。

「チッ」

 財前は『怪盗』。水銀の90%を奪い、ここで両者に初めて差が付く。
 渡辺4562ml、財前240ml。

 いやまて、少し喜んでしまったが、これで財前は『近衛』を持ち、渡辺が『怪盗』を持っている。
 そしてこれは後に『近衛』を決めた方が勝つゲーム。つまり先に『近衛』を決めてしまった渡辺は現状、不利ですらある。

 勿論財前の『近衛』に『不死』を当てられるなら、これは一転して有利になる。

 第1ラウンドの終着点、渡辺がチョイスしたのは『不死』だった。
 早くに勝負を決めたいという欲求を抑え込み、自爆待ちの『不死』。

 そして財前は・・・『不死』!

 第1ラウンドは財前の辛勝、といったところか。
 最終ゲームは当然持っている最後の一枚を出し合う為、渡辺が『怪盗』で財前が『近衛』。

 渡辺は水銀の90%を奪われ、現在3193ml。
 一方財前は大逆転、現在30421ml。

 十倍ほどの差を付けて財前がリードする形だが、後から『近衛』を決められればいくらでもひっくり返る。そして逆転されるという事は、それまでの水銀勝ち分を全て叩きつけられるという事。

 先行者程、多くのリスクを負う構造。なんとやりづらい事か。
 だが、それはどことなく世の中の本質にも感じる。先行者は多くのリスクを負い、勝利すれば相応のリターンを得る。後から追っても、先行者程のリターンは得られないが、リスクも少ない。

「あらら、第1ラウンドは負けちゃったか」
「ふん、当然だ。重ねた時間が違うわ」
「年季って事? 嫌だね年寄りは。自分に誇るものが無い奴ほど年齢を語るんだから」
「・・・その負け惜しみ、いつまで言えるか楽しみだ」

 そんな風なやり取りをしている間、どぼどぼ注ぎ込まれる大量の水銀。
 水銀って割と高級品だと思うんだが、こんなに用意出来るとかどれだけ資金があるんだ? あったとしても買い求める相手が居ないと用意できないだろうに、どこから買っている?
 これまで見ないようにしていた超能力者という陣営の『深さ』を目の当たりにして、そして友人が掛け金のチップになっている事実で、そろそろ脳がパンクしそうである。

 結局事前に言っていた『五分くらいの休憩』なんて一切使わず、二人は第2ラウンドに突入した。
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