亡霊が思うには、

田原摩耶

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ふたつでひとつ

【side:義人】

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「貴方が、義人さんですか。幸喜からよく聞いてます」
「……」

 嘉村義人は喋らない少年だった。

「本当に、宜しいんですね?」
「……」
「幸喜から何を聞いたのかは分かりませんが、勿論無理強いするつもりはありませんよ」

 本当にあの幸喜と同一人物か疑ったが、ただでさえ人気のないこの樹海の中、仕草表情は違えど同じ顔をした年頃の少年を間違えるはずもなく。
 押し黙る少年に、花鶏が優しく声を掛ければようやく少年は口を開いた。

「……いいえ、ぼくのことは……気にしなくていいので……お願いします……」

 空腹もあるのだろうが、嘉村義人の声は弱々しい。
 下手をすれば聞き逃してしまいそうなその掠れた声だが、花鶏の耳には届いていた。

 光のないその目には覚えがあった。生きることを諦めた目だ。

「……わかりました」

 自分から申し出したものの、このような目をされると……気分が悪くなった。死にたがる人間はまだ死への強い思いがあるからいい、それでも、義人のそれには意思はない。
 どうでもいい、そう言うかのようだった。

(これは……彼が居残ることは無理かもしれませんね)

 そう、予め用意していた手斧を握り締めた時だった。

「あの、花鶏さん」

 名前を呼ばれ、「はい?」と花鶏は構えた手斧を下ろす。
 こちらを振り返った義人は、「あの」と口を動かした。

「ぼくが死んだら、二人をお願いします」

「二人とも、ぼくの……大切な友達なので……」その言葉に、少しだけ驚いた。
 嘉村義人は何にも興味がないと思っていただけに、自分の中にいる他人格、他人のことを気にするなんて予想してもいなかった。花鶏はすぐに笑みを浮かべる。

「ええ、お任せ下さい」

 叩き付ける雨の中の木の下。
 花鶏は手斧を掲げ、そして、少年との約束を守った。



 嘉村義人は最後まで消えたがっていた。
 しかし、その結果友人のことを見捨てきれないその未練だけが彷徨うようになってしまった。

「また扉を作り直さなければなりませんね」

 扉のない子供部屋。
 人形と猫のぬいぐるみを抱えて眠る嘉村義人を確認した花鶏は口元を緩めた。

「約束ですからね」

 また、溜まりに溜まった不満を具現化し、暴れださないように。
 それもそれで興味があったが、今度そのようなことがあれば彼はきっと本気で怒るだろう。

 気が付けば、先程までの土砂降りも止んでいた。
 窓の外、虹の掛かった空を見上げた花鶏は一笑し、子供部屋の前を立ち去った。
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