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第4章 凶兆
128話 密談 其の1
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連合標準時刻:火の節87日目、深夜。
荘厳な佇まいに光沢を放つ床、壁を見上げれば豪奢なステンドグラスや天井まで伸びる柱が見える広大な空間は歴史を感じさせる意匠が多数施された空間……恐らく教会と思われる建造物の中に人影が揺れ動いた。
床に等間隔で設置された木製の椅子に腰を下ろす女の影は、その少し前で直立不動で動かない男の影から渡されたデータを無言で見つめる。
暫く後、ふぅ、と女が溜息を零した。女の身体を覆う真黒い修道服は体にピッタリとフィットしているか、あるいは少しばかり窮屈なようで、男には決して持ちえない芸術品のようなボディラインを浮かび上がらせる。
目元から鼻までを覆う仮面の下、露出した赤い口紅が漏らした吐息は酷く煽情的、蠱惑的であり、身形と合わせれば男の理性など容易く吹き飛ばす魅力を放っている……が、目の前に立つ男はそんな様子に微塵も動じる気配を見せない。
「申し訳ございません。地球の拠点の件ですが、やはり落とされておりました」
無言で女を見下ろしていた男は低く感情を押し殺すような声色で報告を行った。女よりも二回り以上は大きい肉体には荒々しさや力強さを内包した筋肉の瘤が幾つも浮かんでいるが、しかしその強面の顔には後悔、無念といったネガティブな感情が浮かんでいる。
まるで蛇に睨まれたカエルの如き有様な男の態度に女は何も語らなかったが、程なく"そう"と、気だるげに呟いた。視線は相も変わらずデータに釘付けな様子を見れば、彼女の関心は目の前の男にも、その言葉にもないのは明白だ。
「アラミサキがあるせいよね。かといって迂闊に壊す訳にも行かなければ機能停止させる事も避けたいし、何より厳重に警備されている。ところで誰の仕業なのかしら?」
「ハッ。主力は国家連合軍とのことですが、例の凄腕2人も混ざっていました。拠点の場所を早々に突き止め、地上工作部隊を敗走させたイレギュラー。既に2度となれば偶然ではありません。如何いたしましょう?」
幾つものデータには両者にとって不都合な内容ばかりだった。この女達は何らかの目的の元、地球に拠点を築いた。が、攻撃された挙句に陥落したという。
女は別のデータへと視線を移す。戦力の大半となったのは地球の精鋭部隊を集めて編成した国家連合軍なる組織。本来ならば女が所有する組織の戦闘能力と技術力ならば陥落するなど絶対に有り得ない程の戦力差がある。幾つものデータが物語るのは絶対的な勝利。
だが覆された。
それを成しえた要素は地球が置かれた極めて特殊な環境。アラミサキ。女が零した固有名詞は、特殊な力場を発生させカグツチを霧散させる機能を持つ装置の名称。
地球は且つて実効支配した神、ツクヨミの指示により至る所に極秘設置されたその装置が原因でカグツチ濃度が極めて低い。濃度が低ければソレを利用する側の戦闘能力は著しく低下、本来ならば覆せない戦力差を覆されてしまったという分析内容だった。
が、それは一要素に過ぎない。
女が"凄腕"と評された2人組のデータへと視線を移せば、ソコに映し出されたのは遠望から撮影された褐色肌の大女とその傍に付き添う小柄の少年。その正体は完全に露見してはいない様で、映像データから推測された性別と大凡の身長体重が記載されている以外の大半が"不明"の文字で埋め尽くされている。
大柄な男は己を無視しでデータを見つめる女の回答をただ只管に待つ。男が暗に尋ねたのは"邪魔だから始末した方が良い"、いや……"始末させてくれ"だ。
どうやらこの2人は男の怒りを買ってしまったようだが、実際には今後も地球でなにがしかの行動を起こしたいのならば最優先で排除しなければならない対象と見做したが故。地球人と侮らず、自らが出向いて始末する。男の性格は極めて慎重で冷静、油断とは無縁であると物語る。
「でもこのザマよ?ついさっきみたいにアッチから姿を見せてくれないと、ね?」
女はそう言うと"不明"で埋め尽くされたデータを男の眼前に移動させた。拠点陥落の原動力になった2人の地球人は、どうやら国家連合軍と協力体制を取っているという立場上から、一切の情報が国家ぐるみ地球ぐるみで隠ぺいされているようだ。
知る者は知っているが、知らない者は誰だか全く知らない人間。いかに文明が進もうが、地球の外から素性不明の地球人を特定するのは困難だと、それ以上を黙して語らぬ女の態度が物語る。
「それより拠点の件、計画と少し違う運用だったけど皆上手くやってくれたわ。証拠隠滅したらコッチに上がってくるよう伝えてちょうだい」
「ハッ!!」
「イレギュラーは見縊る訳じゃないけど今は捨て置きなさい。ところでその凄腕さん、私の贈り物ちゃんと受け取ってくれたのね?」
「はい、躊躇いなく受け取ったようです。蛮勇か無謀か、とにかく英雄は戻ってきました。方法は不明ですが……しかし全てはアナタの想定通りです。ただ、その……"あの方"がいらっしゃることは想定外でして」
"あの方"、その言葉と同時、女の表情に僅かな緊張が浮かんだ。が、男の方を見ればそれ以上、露骨なまでに狼狽していた。
「説明は私からしておくわ。何時来るか分からないよりも確実にそう誘導した方が行動を制御し易い、計画に巻き込みやすいと説明すれば理解はして貰えるでしょう。それに標的の一つを仕留めたのだから其処まで機嫌は悪くないでしょうし」
しかし、女の言葉に男の態度が露骨に変化した。強面で鍛えた肉体と分厚い胸板が殊更に主張する、一目見れば只者では無い雰囲気を持つこの男でさえ"あの方"という存在は恐怖の対象であるようだ。機嫌が悪くない、そう予想した女の言葉に酷く安堵する様子が如実に物語る。
「しかし……理由は分かりますが、やはり地球に留めておいた方が良かったのでは?」
「そうね、そうかもしれないわ。でもね……」
男は椅子の背もたれに体重を預ける女に私見を伝えた。地球に留めておいた方が良い。主語が不明の質問だが、しかしソレが伊佐凪竜一であると理解するのは容易い。
またその言葉は幾つかの事実を突きつける。彼が地球に留まる事に利益があるという事は、ココで何かが起きる可能性が高い。取り分け、フォルトゥナ姫が狙われているという可能性に強い信憑性が生まれるのだが、同時に矛盾も存在する。
女はあろう事か彼が旗艦アマテラスに戻る手助けをしたのだ。合点がいかなくとも無理は無いし、男が問いただしたくなる気持ちも理解できる。
「フフッ、予感がするのよ」
途中で言葉を止めた女が話し始めるのを男は黙って待っていたが、何処か嬉しそうな様子と共に零した曖昧な回答に眉を顰め……
「予感、ですか?」
矢も楯もたまらず心中の疑問をぶつけた。
「えぇ。カレは絶対に此処に来る。戻って来るという」
「しかし地球にある宇宙空港は一つだけ。直接転移を危惧されるならば艦橋の監視を強化すれば事足りるのでは?」
女が語る曖昧な"予感"と言う言葉に男は何とも言えない表情を浮かべた。両者を比較すれば、男の言葉の方が余程に合理的だ。わざわざ敵を招き入れる様な真似をする意味などどこにもない。しかし女はクスッと嬉しそうに微笑み、男を見上げた。
「彼に同調する人間はまだ幾らでもいるわ。監視を強化しても良いでしょうけど、でもコチラの手駒1人の監視範囲が大きくなりすぎて何処かに穴が出るわ。現状を考えれば余計なことに人を割くのは無理でしょう?誰が、何時、ソレが分かれば手の打ちようはあるけど、分からないなら最初から巻き込んでしまった方がってね」
その言葉に男はそれ以上の口を挟まなかった。楽しそうに、嬉しそうに答える女の態度に思うところがあったのかも知れないし、単純に答えに納得しただけかもしれないし、あるいは絶対的な服従か忠誠を誓っているからかもしれない。
男はそれ以上の質疑を行わず、敬礼をするとその場から立ち去った。一方、残った女はといえば何かを想像したのか、嬉しそうに口の端を歪めた。唇に引かれた赤い口紅が淡い照明の中で妖しく蠢く。
イレギュラーか、それとも旗艦アマテラスに戻って来た伊佐凪竜一か、それともそれ以外の誰かか。心中は女の中にしか存在しないが、一つだけ分かっている事がある。女はとても嬉しそうだと言う事だ。偽りない笑顔で微笑む女の笑い声が静謐な教会に木霊した。
※※※
同時刻。とあるニュースが報道されると、ソレは水面に落ちた小石が作った波紋が広がる様に連合中に広まった。
「惑星ファイヤーウッドの列車事故の続報です。ノースト鉄道、サウスト鉄道共同発表により爆破を行った犯人が特定されました。えー、犯人の名前は……え?あの……あの、これ言っていいんですよね?よね?あの、犯人の名前は凪竜一。且つて地球と旗艦アマテラスを救った英雄である凪竜一であると断定されました。駅構内、及び線路を監視するカメラ映像が捉えた様子をご覧ください」
困惑するアナウンサーが事実を告げると同時、映像は伊佐凪竜一が線路を爆破する様子を映し出した。その映像は余りにもセンセーショナルだった。故に誰もが食いつき、鵜呑みにし、無責任に尾ひれを付けながら周囲に吹聴した。さながら娯楽の如く、考えすらせず楽しんだ。
……事実ではないのに。いや、事実か否かなどもはやどうでも良いのだ。情報は連合中を駆け巡り、形を変えながら濁流の如く人心を飲み込んだ。やがて、誰ともなく英雄をこう呼び始めた。"堕ちた英雄"、と。
地球と旗艦を救った英雄が貶められ人類の敵になった。何者かの描いた残酷な絵図は、英雄が死ぬその時まで躊躇も容赦もなく追い詰めるだろう。
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4章終了
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連合標準時刻:火の節87日目、深夜。
荘厳な佇まいに光沢を放つ床、壁を見上げれば豪奢なステンドグラスや天井まで伸びる柱が見える広大な空間は歴史を感じさせる意匠が多数施された空間……恐らく教会と思われる建造物の中に人影が揺れ動いた。
床に等間隔で設置された木製の椅子に腰を下ろす女の影は、その少し前で直立不動で動かない男の影から渡されたデータを無言で見つめる。
暫く後、ふぅ、と女が溜息を零した。女の身体を覆う真黒い修道服は体にピッタリとフィットしているか、あるいは少しばかり窮屈なようで、男には決して持ちえない芸術品のようなボディラインを浮かび上がらせる。
目元から鼻までを覆う仮面の下、露出した赤い口紅が漏らした吐息は酷く煽情的、蠱惑的であり、身形と合わせれば男の理性など容易く吹き飛ばす魅力を放っている……が、目の前に立つ男はそんな様子に微塵も動じる気配を見せない。
「申し訳ございません。地球の拠点の件ですが、やはり落とされておりました」
無言で女を見下ろしていた男は低く感情を押し殺すような声色で報告を行った。女よりも二回り以上は大きい肉体には荒々しさや力強さを内包した筋肉の瘤が幾つも浮かんでいるが、しかしその強面の顔には後悔、無念といったネガティブな感情が浮かんでいる。
まるで蛇に睨まれたカエルの如き有様な男の態度に女は何も語らなかったが、程なく"そう"と、気だるげに呟いた。視線は相も変わらずデータに釘付けな様子を見れば、彼女の関心は目の前の男にも、その言葉にもないのは明白だ。
「アラミサキがあるせいよね。かといって迂闊に壊す訳にも行かなければ機能停止させる事も避けたいし、何より厳重に警備されている。ところで誰の仕業なのかしら?」
「ハッ。主力は国家連合軍とのことですが、例の凄腕2人も混ざっていました。拠点の場所を早々に突き止め、地上工作部隊を敗走させたイレギュラー。既に2度となれば偶然ではありません。如何いたしましょう?」
幾つものデータには両者にとって不都合な内容ばかりだった。この女達は何らかの目的の元、地球に拠点を築いた。が、攻撃された挙句に陥落したという。
女は別のデータへと視線を移す。戦力の大半となったのは地球の精鋭部隊を集めて編成した国家連合軍なる組織。本来ならば女が所有する組織の戦闘能力と技術力ならば陥落するなど絶対に有り得ない程の戦力差がある。幾つものデータが物語るのは絶対的な勝利。
だが覆された。
それを成しえた要素は地球が置かれた極めて特殊な環境。アラミサキ。女が零した固有名詞は、特殊な力場を発生させカグツチを霧散させる機能を持つ装置の名称。
地球は且つて実効支配した神、ツクヨミの指示により至る所に極秘設置されたその装置が原因でカグツチ濃度が極めて低い。濃度が低ければソレを利用する側の戦闘能力は著しく低下、本来ならば覆せない戦力差を覆されてしまったという分析内容だった。
が、それは一要素に過ぎない。
女が"凄腕"と評された2人組のデータへと視線を移せば、ソコに映し出されたのは遠望から撮影された褐色肌の大女とその傍に付き添う小柄の少年。その正体は完全に露見してはいない様で、映像データから推測された性別と大凡の身長体重が記載されている以外の大半が"不明"の文字で埋め尽くされている。
大柄な男は己を無視しでデータを見つめる女の回答をただ只管に待つ。男が暗に尋ねたのは"邪魔だから始末した方が良い"、いや……"始末させてくれ"だ。
どうやらこの2人は男の怒りを買ってしまったようだが、実際には今後も地球でなにがしかの行動を起こしたいのならば最優先で排除しなければならない対象と見做したが故。地球人と侮らず、自らが出向いて始末する。男の性格は極めて慎重で冷静、油断とは無縁であると物語る。
「でもこのザマよ?ついさっきみたいにアッチから姿を見せてくれないと、ね?」
女はそう言うと"不明"で埋め尽くされたデータを男の眼前に移動させた。拠点陥落の原動力になった2人の地球人は、どうやら国家連合軍と協力体制を取っているという立場上から、一切の情報が国家ぐるみ地球ぐるみで隠ぺいされているようだ。
知る者は知っているが、知らない者は誰だか全く知らない人間。いかに文明が進もうが、地球の外から素性不明の地球人を特定するのは困難だと、それ以上を黙して語らぬ女の態度が物語る。
「それより拠点の件、計画と少し違う運用だったけど皆上手くやってくれたわ。証拠隠滅したらコッチに上がってくるよう伝えてちょうだい」
「ハッ!!」
「イレギュラーは見縊る訳じゃないけど今は捨て置きなさい。ところでその凄腕さん、私の贈り物ちゃんと受け取ってくれたのね?」
「はい、躊躇いなく受け取ったようです。蛮勇か無謀か、とにかく英雄は戻ってきました。方法は不明ですが……しかし全てはアナタの想定通りです。ただ、その……"あの方"がいらっしゃることは想定外でして」
"あの方"、その言葉と同時、女の表情に僅かな緊張が浮かんだ。が、男の方を見ればそれ以上、露骨なまでに狼狽していた。
「説明は私からしておくわ。何時来るか分からないよりも確実にそう誘導した方が行動を制御し易い、計画に巻き込みやすいと説明すれば理解はして貰えるでしょう。それに標的の一つを仕留めたのだから其処まで機嫌は悪くないでしょうし」
しかし、女の言葉に男の態度が露骨に変化した。強面で鍛えた肉体と分厚い胸板が殊更に主張する、一目見れば只者では無い雰囲気を持つこの男でさえ"あの方"という存在は恐怖の対象であるようだ。機嫌が悪くない、そう予想した女の言葉に酷く安堵する様子が如実に物語る。
「しかし……理由は分かりますが、やはり地球に留めておいた方が良かったのでは?」
「そうね、そうかもしれないわ。でもね……」
男は椅子の背もたれに体重を預ける女に私見を伝えた。地球に留めておいた方が良い。主語が不明の質問だが、しかしソレが伊佐凪竜一であると理解するのは容易い。
またその言葉は幾つかの事実を突きつける。彼が地球に留まる事に利益があるという事は、ココで何かが起きる可能性が高い。取り分け、フォルトゥナ姫が狙われているという可能性に強い信憑性が生まれるのだが、同時に矛盾も存在する。
女はあろう事か彼が旗艦アマテラスに戻る手助けをしたのだ。合点がいかなくとも無理は無いし、男が問いただしたくなる気持ちも理解できる。
「フフッ、予感がするのよ」
途中で言葉を止めた女が話し始めるのを男は黙って待っていたが、何処か嬉しそうな様子と共に零した曖昧な回答に眉を顰め……
「予感、ですか?」
矢も楯もたまらず心中の疑問をぶつけた。
「えぇ。カレは絶対に此処に来る。戻って来るという」
「しかし地球にある宇宙空港は一つだけ。直接転移を危惧されるならば艦橋の監視を強化すれば事足りるのでは?」
女が語る曖昧な"予感"と言う言葉に男は何とも言えない表情を浮かべた。両者を比較すれば、男の言葉の方が余程に合理的だ。わざわざ敵を招き入れる様な真似をする意味などどこにもない。しかし女はクスッと嬉しそうに微笑み、男を見上げた。
「彼に同調する人間はまだ幾らでもいるわ。監視を強化しても良いでしょうけど、でもコチラの手駒1人の監視範囲が大きくなりすぎて何処かに穴が出るわ。現状を考えれば余計なことに人を割くのは無理でしょう?誰が、何時、ソレが分かれば手の打ちようはあるけど、分からないなら最初から巻き込んでしまった方がってね」
その言葉に男はそれ以上の口を挟まなかった。楽しそうに、嬉しそうに答える女の態度に思うところがあったのかも知れないし、単純に答えに納得しただけかもしれないし、あるいは絶対的な服従か忠誠を誓っているからかもしれない。
男はそれ以上の質疑を行わず、敬礼をするとその場から立ち去った。一方、残った女はといえば何かを想像したのか、嬉しそうに口の端を歪めた。唇に引かれた赤い口紅が淡い照明の中で妖しく蠢く。
イレギュラーか、それとも旗艦アマテラスに戻って来た伊佐凪竜一か、それともそれ以外の誰かか。心中は女の中にしか存在しないが、一つだけ分かっている事がある。女はとても嬉しそうだと言う事だ。偽りない笑顔で微笑む女の笑い声が静謐な教会に木霊した。
※※※
同時刻。とあるニュースが報道されると、ソレは水面に落ちた小石が作った波紋が広がる様に連合中に広まった。
「惑星ファイヤーウッドの列車事故の続報です。ノースト鉄道、サウスト鉄道共同発表により爆破を行った犯人が特定されました。えー、犯人の名前は……え?あの……あの、これ言っていいんですよね?よね?あの、犯人の名前は凪竜一。且つて地球と旗艦アマテラスを救った英雄である凪竜一であると断定されました。駅構内、及び線路を監視するカメラ映像が捉えた様子をご覧ください」
困惑するアナウンサーが事実を告げると同時、映像は伊佐凪竜一が線路を爆破する様子を映し出した。その映像は余りにもセンセーショナルだった。故に誰もが食いつき、鵜呑みにし、無責任に尾ひれを付けながら周囲に吹聴した。さながら娯楽の如く、考えすらせず楽しんだ。
……事実ではないのに。いや、事実か否かなどもはやどうでも良いのだ。情報は連合中を駆け巡り、形を変えながら濁流の如く人心を飲み込んだ。やがて、誰ともなく英雄をこう呼び始めた。"堕ちた英雄"、と。
地球と旗艦を救った英雄が貶められ人類の敵になった。何者かの描いた残酷な絵図は、英雄が死ぬその時まで躊躇も容赦もなく追い詰めるだろう。
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