ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 13

木野 キノ子

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第1章 萌芽

3 ヘンテコトリオ爆誕

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茂みが…ガサガサと音を立てる…。

「あれ?鹿かイノシシ…熊かなぁ?」

「熊ぁぁっっ!!」

のほほんと言うリッケルトの横で、またもケイルクスが絶叫する。

「ええ。大きさ的に…人間よりも大きいかも。茂みの揺れ方からして…」

「どどど、どうすんだよ!!武器…武器になりそうなもの!!」

途端にあたりを見回すが、

「あ、人食いとかでなければ、武器は必要ないですよ。
睨んで…ちょっとずつ後ずされば、大抵逃げられるし、場合によっては向こうからいなくなってくれますから…」

「何でそんなに落ち着いてんだぁ――――――――――――――――――――っ!!」

「よく遭遇しましたので」

「はぁあっ!!何度ぐらい!!」

するとリッケルトは一瞬だけ目線を横にして、再度ケイルクスを見ると、

「数えなきゃ駄目なら、時間ください」

「いや…もういい…」

その答えが、全てを現していると、ケイルクスは思ったのだろう…。
その間も茂みは揺れ続け、やがて…。

姿を現したのは…。

グレンフォだった。

「へ?」

意外過ぎる人物に、ちょっとあっけにとられたケイルクスだったが、

「グレンフォ!!助けに来たのか!!」

「いえ…わしも家で寝て起きたら…、この少し先にいつの間にかおりまして…」

「なんだとぉ!!」

結局…その場で珍奇なトリオが完成した…。

「じゃあ結局…誰も事情が分からないし、帰る方法も知らないと…?」

「そのようです」

グレンフォは…ひとまず話を合わせている。

「どうすればいいんだよぉ――――――――――――――っ!!」

再度その場にうずくまったが、

「あの~、ひとまず野営の準備しません?
春になって暖かくなったし、日が長くなってきていますが、油断すると危険ですよ」

何やかやマイペースなリッケルトが、提案してきた。

「え~、2人になったんだから、お前らでやってくれよぉ!!」

ケイルクス…まあ、生まれつき周りがしてくれるのが、当たり前だったのだから、当然の言葉であろう。

「ダメですよ」

穏やかに…抑揚のない声が、意外にもリッケルトから出る。

「父は…元々狩人だったんです。山や森…自然の事を良く知っていました。
その父が言っていましたよ。世の中は何があるか、本当にわからない。
常に備えをしておかなきゃ、ダメだって…。
今はボクらがいますが、突然いなくなった時に、備えられるようにしておいてください」

その眼は…とても澄んでいる。
蔑みやバカにしているワケではなく、本当に心から、そう思っているのだろう。

「ケイルクス王太子殿下…。彼の言う事ももっともです。
わしらに何があっても、殿下には無事に生還していただきたいです。
だから…今は、彼の言う事を聞きましょう」

グレンフォが穏やかに言うと、

「わかった…」

そちらを振り向く事も無く、ケイルクスが答えた。

そんな3人の様子を見守る、護衛3人は…。

「あの方が、オルフィリア公爵夫人のお父上なんですね。始めて見ました」

ベンズが…珍しいものを見るように、しげしげと見ている。

「今まで…本当に一切社交の場に出てこないからなぁ…。
お母上は、それなりに茶会に出てるみたいだけど…」

ローカスも見つめつつ、とても興味深げだ。

「しかし…グレンフォ卿は大丈夫なのでしょうか…」

眼の色が…心配と言うか、悲嘆と言うか…何とも言えない色になる。

「わからん…。坊主の話じゃ、クレアのお茶会後の、テオルドと同じじゃろうと…。
休みを貰った所で…色々考えてしまって休めない。結局…仕事に出てきた方が楽…。
とはいえ…そんな事を続けては、参ってしまう…。
心の問題は、一筋縄ではいかぬからのぉ…」

ローエンも…長年の腹心が、潰れてしまう事…手をこまねいて見ているしかないのが、歯がゆくて仕方ないようだ。

「オルフィリア公爵夫人は…どうなるかわからないと言っていたが…、太陽の家の時のように、上手くはまってくれることを、祈るよ…本当に…」

ローカスの声も…心の暗さを象徴しているかのように、くすんでいる。

フィリーが国王陛下にお願いした人選は…グレンフォである。
グレンフォはあれから…近衛騎士団に来てはいるのだが、目に見えてやつれてしまい、団員たちが非常に心配している。
中には…王立騎士団やフィリアム商会まで直談判に来て、何とか便宜を図ることは出来ないか…と、平身低頭にお願いしているのだ。

しかし…事が事だし、ラスタフォルス侯爵家の問題に、これ以上関与するのも得策ではないと、ギリアムは判断している…。

ただ…どうにかしたい気持ちが、ないワケではない。
だから…フィリーは今回の策を形にし、国王陛下にお願いしたのだ。

グレンフォが護衛として、申し分のない力を持っているのは、周知の事実。
そして…グレンフォもまた、自身の家の問題で、心を痛めている。
ケイルクスも勿論だが、グレンフォもまた、王家に長年仕えてきて、役に立ってきたし、今後も無くてはならない存在。
その2人を…一緒にカウンセリングしましょう…と。

ケルカロス国王もまた、グレンフォの気持ちがわかるゆえ、フィリーの提案に乗り、グレンフォに密命を出した。
自分も攫われて、置き去りにされたことにして、ケイルクスの護衛をしろと。
カウンセラー(という事にしてある)である、リッケルトの指示に、命の危機が無い限り、従うように…と。それから…よく話を聞くように…と。

「本当に…少しでも良くなるか…せめてとっかかりでも作って欲しいものです。
幼いころから…ローエン閣下にもお世話になりましたが、グレンフォ卿にもお世話になったのですから…。父共々…」

「オレだってそうさ。小さいころから…おじい様同様、世話になったんだ…」

ベンズとローカスは…昔を思い出すように、眼を細めている。
しかしそのまなざしは…やはり悲しみの色だ。

「グレッド卿も…ダリア夫人がダメでも、他の人間に言ってくれれば、良かったのに…」

ベンズは…グレッド卿と実際に関りがあっただけに、口惜しそうだ。

「それは…難しいと、オルフィリア公爵夫人が言っておったろうが。
ギリアム坊主の父母のように…周りから見て明らかに非道な人間でなければ、なかなか信じては貰えない…。グレッドの奴は…訴えても信じてもらえなくて…諦めてしまったんじゃろう。
悲しい事じゃがな…」

ローエンの目は…それでも何とかできなかったものか…そんな色を帯びている。
グレッドが近衛騎士団所属だったから、余計なのだろう。

一方…野営の準備を始めたリッケルト達は…。

「こうして…木と木を支えるようにするんです。
蔓を使えば、ロープも必要ありませんし…。
ああ、寝具にする葉っぱは、一度いぶして小さな虫を追い出します。
結構ダニとかノミとか、紛れ込んでますからね」

サクサクと説明しつつ、準備している。

「オマエ、うまいなぁ…」

ケイルクスが感心しつつ、手伝っている。

「というか、こんなことぐらいしか、取り柄が無いんですよ」

ちょっと苦笑いなリッケルト。

「後は…食べられる実を探しに行きましょう。
ついでに小動物を捕える罠も作って、配置しておけば…明日の朝は肉にありつけるかもしれません。
今は春だから、動物が活発に動き出しますから、丁度良かったです」

やっぱり指示して…的確にこなしつつ、気づけば日暮れになる。

そんな情景を見つつ、潜んでいるローエン、ローカス、ベンズは…。

「我々も食事にしましょう…」

そう言って…ベンズが弁当箱のような、箱を取り出し…。
小さく空いた穴に、楊枝をぷすりと刺すと…。

「ん?温かくなってきたな?」

ローエンが驚く。

「これ…フィリアム商会の商品でして…。
王立騎士団での支給品として、出し始めたらしいんですよ。
こうやって潜んでいる任務って、火が焚けない事多いでしょ?
でも…寒い時はそれじゃあ辛いだろうって…。
この穴に楊枝を刺すと、中の薬品が反応して、熱を帯びるらしいです。
温めるだけなら、十分だってことで…かなり人気を出してるから、民間にも売るみたいですよ」

「そりゃあ、そうじゃろう!!
ローカス!!うちにも支給するよう、坊主に言え!!」

「へーい。オルフィリア公爵夫人に言っときます」

ローカスはあまり…ギリアムと接したくないのは、相変わらずのようだ。

一方、火を囲んで野営しているリッケルト側はと言うと、

「ひとまず…形になって良かったです。
ご協力感謝いたします、ケイルクス様、グレンフォ様…」

「別に…感謝されるような事じゃないだろう?子供でも出来る事だし…」

ケイルクスが手伝ったのは…いぶすための生木を集める事と、寝床となる場所の枯葉を拾うこと
だけだった。
かなり卑屈になっているケイルクスだったが、

「そんなことはありませんよ。
人の手があると無しとで、だいぶ違うんです。
子供だろうが、大人だろうが、いてもらうだけで、手を貸してもらうだけでありがたい事多いです。
ボクは一人で野営することも多かったから、それは骨身にしみています。
だから…お礼はしっかり言いたいんです」

嫌味でもなく、飾るでもなく、おべっかでもなく…心からの真摯なお礼…。
ケイルクスは何だか、変な気分になった。
そんなことを言われたことが…今までにどのくらいあったのだろう…。
そして、自分が相手にそんな事を言った事が…どのくらいあったのだろう…。

こうして…ヘンテコトリオの最初の夜は更けていくのだった…。
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