ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 13

木野 キノ子

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第1章 萌芽

4 そのころファルメニウス公爵家では…

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「大丈夫かしらねぇ…。ウチの夫…」

そういう割にはのほほんとしつつ、ママンが呟く。

「ん~、危機回避能力はピカ一だから、大丈夫でしょ。
周りに手練れもたくさんいるし~」

私ものほほんとしつつ、答える。

「ですが…これで本当にうまくいくのか?
私は…お父上が心配ですよ…」

義息子であるギリアムの方が、よっぽど心配そうだ。

今日は…久々に、家族3人でまったりとお茶を飲んでいる。
春のうららかな日差しの中…庭には花が咲き誇り、蝶々が飛んでいる。
正に…絶好のピクニック日和。
ただ、色々忙しくて、ピクニックにはいけないから、大自然よりよっぽど自然あふれる公爵邸の庭で、家族水入らずのお茶会を催しているのさ。

「私もギリアム様同様、心配ですよ。
リッケルト様は…ちょっと歩くとすぐ転んで、泣き出すような方ですから…」

パパンとママンの離宮付きの執事である、サイファスは…やっぱりちょっと心配そう。
まあ…ウチのパパンのせいで、サイファスは薬箱を常に携帯するようになったそうだからな。

「あら…それは安全が確保されている場所だからよ。
そうじゃ無ければ…結構やるのよあの人…昔からね」

ママンはそんなサイファスを安心させるように、お茶を飲みつつ優雅に話す。

「まあでも…ようやっと重鎮たちも帰ってくれたし、ダイヤの件も片付いたし…。
今回の計画はほぼノータッチだから、久々にのんびりできるぅ~」

ああそうそう。
ヒルダ夫人とイザベラは、ダリアが精神病棟に移された後、ファルメニウス公爵家から家に帰っていった。イザベラにはヒルダ夫人が死んだあと、一定額の年金が、死ぬまで支給されるようになっているから、こっちもダイヤに寄生してこなきゃ、私はどうでもいい。
ダリナとグレリオは…男爵位をそれぞれ貰って、僅かばかりの領地も貰ったから、そっちに移ったらしい。国から…誰が指名されるかはまだわからないけど、その人がいつ入ってきてもいいように、準備するためだそうな。
アンナマリーとその家族は、元の邸宅に戻って今…家や家財を売るための、大整理に勤しんでいるようだ。アカデミー側では…人手は欲しいわけだし、採用試験自体も…割とすんなり突破したよう。
まあ、貴族であるなら、答えられて当然の内容だったらしいからね。
アルフレッドはアンナマリーに家庭教師をつける気らしいが…落ち着くまでは待った方が良いと思うんだけどなぁ…。

「だがフィリー。
アカデミーとサロンの件は、それなりにどうするか、原稿を作っておいた方が良いと思うが?
時間はすぐ過ぎ去るし、何が起こるかわからんぞ」

ギリアムの言う事も最もだけどさ、

「ま~ね。でも…ちょっと羽を伸ばさないと、おかしくなっちゃうよ。
いざって時は、ギリアムが作ってよ」

「わかった!!では、私がフィリーの為に作った、様々な愛の詩を織り込んで…」

「それはいらない」

きっぱり言い切ると、ちょっとしょげおった。
本当に面倒くせぇ。

「でもなんか…意外だわ」

ママンが私を見て言う。

「アンタにファルメニウス公爵夫人が務まるなんて、夢にも思わなかった。
てっきり…平凡な人と一緒になって、平凡な生活を送ると思っていたから…」

「ん~、私もそれが希望だったんだけどね…」

刺激的な人生って、楽しいかもだけど、疲れんのよ。

「なら私が爵位を捨てて…」

「だからそれは、やめぃ!!国からストップがかかるし、だいたい投げ出せないもの多すぎ!!」

「私は逃げるのも得意…」

「今大丈夫なんだから、とりあえずストップ!!」

めっ!!…と言って叱ると、素直にいう事聞いてくれるから助かる。

「でも…アカデミーで講演するのも、サロンで話をするのもいいんじゃない。
私は教育を受けたからこそ、大抵の人はアンタみたいになれないって、わかってるからね」

ママンが少し…遠い目をする。

「ま~ね」

多分ツァリオ閣下が言ってきたのって、それもあると思うんだよね。

「まあ…夢を大きく持つのは、いい事だがな。
リスクはしっかりと頭に入れてやるべきだ。
それがないと、最悪、世をはかなんで自殺するか、世の中のせいにして他者に迷惑をかけるだけになる。
ダリア夫人やジェルグ卿がいい例だ」

「そーですよね…」

まあ…どこまで喋るかは、年齢層にもよるから、それで調整するか…。

「ひとまず…休暇を楽しみましょう。
お父様は心配だけど、なるようにしかならないわよ、今回は」

「そうねぇ…」

こうして私たちは…春爛漫の中、まったりとした休暇を過ごすのだった…。


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「アルフレッド様。
アンナマリー嬢の家庭教師になる件は、お断りさせていただきます」

言葉を発するのは…アイリン夫人より少し年配であろう、あきらかに上位貴族のご婦人だった。
そこは…デラズヴェル男爵家の中…。
アルフレッドはファルメニウス公爵家での話し合いののち…アンナマリーに優秀な家庭教師をつけるべく、文の家柄で一番優秀な人間を選び、打診した。
そして今日…アルフレッドと共に、そのご婦人…ベティニア夫人がアンナマリーに会いに来たのだった。

そして、そんなベティニア夫人をアンナマリーとその家族が、お出迎えし…応接間に通したところで、第一声がコレだった…。

「ま、待ってください、ベティニア夫人!!何も見ないうちからそんな…」

アルフレッドが当然、納得いかないと言いたげだが、

「見た上で!!言っております!!」

ベティニア夫人も引かない。

「まず!!先ほど出迎えた時の、お辞儀の仕方はまだしも、体幹がぶれている!!
10歳未満の子供ならまだしも、18歳にもなってソレでは、今から鍛えなおしたところで直る保証がない!!まずそれを、わかっていますか!!」

扇子でビシッと、アンナマリーに指摘…。

「え…あの…その…」

困惑したアンナマリーが、言葉に詰まると、

「そして何より、その顔です!!」

すかさず厳しい声が飛ぶ。

「上位の夫人にとって、何より大切なのは、表情を相手に読ませない事です!!
少し自分の至らなさが発覚したからと言って、そのような表情をするなど、言語道断!!
満足な教育を受けられなかったとしても、表情の練習はしっかりとして、身に付けている方、いくらでもいますよ!!」

「も…申し訳ございません…」

すっかり委縮した状態で、その言葉だけ紡ぎ…震えるアンナマリー。
ベティニア夫人はそれにため息をつきつつ、

「この際ですから、申し上げますがね、アルフレッド様…」

扇子を開く。

「最近…マナー講師の間でも、問題になっているんですよ。
オルフィリア公爵夫人が…一切の学のない状態で、あれだけの偉業を成し遂げたから…。
自分も頑張れば、それに続けると思っている人…。
でもね。そんな単純な問題じゃありませんよ」

鼻から下を隠し、言葉を紡ぐ。

「私は偶然、まだ男爵令嬢であった頃のオルフィリア公爵夫人が…アイリン夫人のサロンに来た時、ちょうどご招待されていましてね。その現場に居合わせたのですよ…」

アンナマリーが思わず顔を上げた。

「確かに作法は粗削りでしたがね。
何より堂々としていて…貫禄がありました。
ファルメニウス公爵夫人を名乗ったとて、不思議はないと…皆に思わせるぐらいの…ね。
実はあの場には、アイリン夫人も手を焼いている問題児が来ていましてね。
その方々が王立騎士団員の夫人を痛めつけていたのですよ。
それを…オルフィリア公爵夫人は見事に庇いつつ、痛めつけていた人間達を逆に追い詰めました」

「その時分かったんですよ…。
オルフィリア公爵夫人という人物は…上に立つ者が何を要求されるのか…わかっていると。
収穫祭のウェリナ嬢の件とてそうです。
全くオルフィリア公爵夫人の非ではない、いちゃもんのような状態であったとしても、あの方は…衆人環視の元、半裸で鞭打ちになる決心をしていましたよ。
その気概が…並みいる夫人たちに認められているのです」

「だから…エマ夫人だけでなく、クァーリア夫人も…アイリン夫人だって、頭を下げてお付き合いさせてください…に、なるんです!!」

ここまで言い終わると、勢いよく扇子を閉じ、

「先ほど私は、アナタの体幹や表情がどうのと言いましたけどね!!
アナタにオルフィリア公爵夫人程の気概があれば!!
そんな些細な事など気にせずに、教えたいと思う人は大勢現れます!!」

「アナタは…ガルドベンダ公爵夫人になるという意味が、分かっているのですか!!
人の上に立つ家に、嫁ぐことの意味が、本当にわかっているのですか!!
頭でわかっていても、態度で示せねば、誰もアナタにかしずきません!!
極論を言えば…アナタは人に頭を下げさせるだけの、器も魅力も無いんです!!」

「では…これで私は失礼いたします、アルフレッド様」

ベティニア夫人は振り返ることなく、馬車まで一直線に帰ってしまった…。
ちなみにこの方は…エマ、クァーリアと並ぶ、この国のマナー講師3本柱の1人である。
誰に対しても、臆することなくしっかりとダメと言えるため、この人に師事すると…本当に皆に一目置かれる存在になれる。

「これでわかっていただけましたか?アルフレッド様…」

そう言って歩み出たのは、イボンヌ夫人だった。

「ウチの娘は…オルフィリア公爵夫人のようにはなれません。
私は…社交界で表情をそのまま出すのは、マイナスだから訓練するよう言いましたが…。
満足にできなかった…いえ、やらなかったのです。
アカデミーで、行儀作法の筆記の試験こそ、成績は良かったですが…。
実技になると、それが引っかかって、あまりいい成績はもらえませんでした。
この子には、上位の夫人をやるのは無理です。
そもそもウチは夫も私も、娘を大事にしてくれる家なら、上じゃなくてもいいと言っていたのです」

「何卒…お諦め下さい」

エドガー卿も、深々と頭を下げる。
だが…。

「勝手に決めないで!!何もやらないうちから、そんな事言ったって、諦められるわけない!!」

アンナマリーが両親に激しく言うも、

「いい加減にしなさい!!!
だいたいアナタ…表情の練習もそうだけど、社交界にだって、積極的に出なかったでしょ!!
回りくどい言い回しや、ファッションの話しかしない場所は、嫌いだって言って!!
上位の夫人になったら、社交界での地位がものを言うの!!
なんの下準備も、心構えも出来ていない状態で、やれるわけがないでしょう!!

「そんなのこれから、一生懸命やる!!」

「今からやってもモノにならないって、言われたばかりでしょう!!
無理に社交界に出たって…みんながアナタをそういう目で見るの!!
性格なんか関係ない!!それがわかってるの!!?」

「どうして…」

アンナマリーが涙をためた目で、両親を見る。

「どうして私に協力してくれないの!!
今まで…私のやりたいことは、いつも応援して…見守ってくれたじゃない!!」

すると…両親は暗い顔はしたが、しっかりとアンナマリーを見つめて、

「……オルフィリア公爵夫人が言ったでしょう?
これは…一歩間違えば、アナタが取り返しのつかない事になりかねないの。
だから…おいそれと賛成も協力も出来ないのよ」

アンナマリーは…そんな両親を見て、暫く震えていたが…振り払うように、その部屋を出てしまった。
そして向かった先は…自分の部屋だった。

ベッドに倒れ込んで、泣きじゃくった。
いくばくかの時間が経ったのち、

「お嬢さま…。大丈夫でございますか?」

そう話しかけてきたのは…アンナマリーの乳母だった。

「……大丈夫じゃない。でも…アルフレッド様のお見送りがあるから、お支度…」

「アルフレッド様はお帰りになりました」

「え?お見送りは…」

「もう出られましたので…」

乳母は…申し訳なさそうな顔をする…。
おそらくイボンヌ夫人が、知らせなくてよいと言ったのだろう。

「そんな…」

アンナマリーは…しばし泣き止んで放心していたが、

「……出かける」

ポツリと言った。

「アルフレッド様を追いかけるのは…」

「違う!!そうじゃない!!」

アンナマリーの必死さに、乳母はただただ…次の言葉を待つしかなかった。
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