ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 13

木野 キノ子

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第1章 萌芽

5 アンナマリーの向かった先は…

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「ばあや!!馬車を出して!!」

「どこへ行かれるのです?」

ばあやと呼ばれた乳母は、慌てつつも、支度を整えようとする。

「マリアの所へ行くわ!!すぐに用意して!!」

「ダメです!!ご主人様より絶対に…お嬢さまを外に出すなと仰せつかっています。
この前のように攫われたら、どうするおつもりですか!!」

乳母は…アンナマリーには甘いようだが、ここだけは譲れない…と、言わんばかりに、拳を
にぎり、訴える。
するとアンナマリーは考えて、

「……マルク来てるよね。マルクと一緒なら、いいでしょう!!」

「そ、それは…」

マルクは…現在この家にいる、一人だけの護衛騎士だ。
だが、デラズヴェル男爵家の家臣というわけではない。
付き合いのある男爵家の3男で…アンナマリーが攫われたことを受け、暫く臨時で来てもらう事になったのだ。家族ぐるみの付き合いがあるため、一応お互いを小さいころから知っている。

そしてアンナマリーに根負けしたばあやが…マルクを呼んでくる。

「いったい何事ですか?アンナマリー嬢…」

爵位的にはデラズヴェル男爵家より下の家ゆえ、敬語になる。
年は…アンナマリーより2~3歳上に見える。
騎士らしく、髪を短髪に借り上げた、茶髪と茶色い目。
顔は…引き締まっているが、どこにでもいる…と言うような、印象に残りにくいような造詣である。

「マルク!!マリアの所に行きたいの!!護衛お願い!!」

「旦那様の許可は?」

一番大事な所を、冷静に突っ込む。

「これからとるわ!!」

「なら、取ってから言ってください!!」

かなり…杓子定規だった。
呆れてもいるよう。

「あと…付け加えさせていただきますが…」

マルクは…ため息つきつつ、

「マリア嬢…。ここ最近、評判が良くなくて、付き合う人間がだいぶ減ったようですよ。
付き合うのは…これを機に辞めた方がよろしいかと…」

「何言ってんのよ!!私の…数少ない友達なんだから!!悪く言わないで!!」

「だったら…少しぐらい社交界に出て、新しい友達を作った方がいいです。
そもそも…今までさぼってきたのも、昨今認められなかった理由でしょう?
コツコツと地道にやるのが、結局は一番の近道だと思いますけど」

エドガーがどこまで話しているかはわからないが…。
それなりには、アルフレッドとの騒動を、知っているようだ。

「だから!!!社交界にしっかりとデビューを果たすためには、マリアの所に行く必要があるの!!」

「なぜですか?」

「それはまだ言えない!!」

「それじゃ、護衛はできません」

マルクも…家臣じゃないからこそ、かなりはっきり言う。
そして必要以上の気遣いもしない。

「そんな事言わないでお願いよぉ~」

途端に泣き出すアンナマリー。
するとマルクは…わかりやすいくらい大きなため息をつき、

「幼馴染みとして、これも言わせていただきますけどね。
アナタはオルフィリア公爵夫人のようには、なれませんよ」

「や、やってみなきゃ、わからないじゃない!!」

泣きじゃくりつつも、それだけは…と否定する。

「いいえ。この世には、残念ながらやってみなくても、わかることも多いんです。
私が…いくら努力したところで、ギリアム公爵閣下のようになれないのと一緒です。
この世には…努力だけで埋めようのない、紛れもない不世出の天才がいるんです。
下手に凡人がその真似をすれば、待っているのは破滅ですよ」

諭すようにゆっくりと、マルクは言葉を紡ぐのだが、

「アンタと一緒にしないでぇ~」

結局…アンナマリーがビービー泣きながら、ずっと訴えるものだから…。
根負けしたばあやとマルクが…エドガーに許可を取り、3人で行くことになった。

こうして…アルフレッドが帰ってから暫くして、アンナマリーは…馬車を走らせ、あるお屋敷にたどり着いた。

ヴィタルス男爵家…。
デラズヴェル男爵家と同じで、男爵家の中では、だいぶ由緒ある家である。
商売を手広くやっており、規模がそれほど大きくはないが、顔はだいぶ広い。
もっともそれは…あくまで男爵という位の中での話だが…。

「久しぶりね、アンナマリー。
留学はどうだった?元気にしてた?
……あんまり、元気そうじゃないわね…」

マリア・ヴィタルス男爵令嬢。
ヴィタルス男爵家は…上が男3人で彼女は末娘だ。
アンナマリーと同い年の彼女は、商会の仕事に精を出しており、婚約者も恋人もいない。
美人ではないが、控えめな目が顔全体の品を良くしており、どこにでもいる普通の令嬢に見える。
体の線も、気を使っているのか、ほっそりしており、スタイルは良い方だろう。

「マリア!!前に…ウチの商会と共同で、商品開発しようって話があったわよね!!
私が成人してすぐに、持ちかけてきた奴!!」

するとマリアは瞳を輝かせ、

「やる気になったの!!」

「ええ!!それが成功すれば…かなりのお金が手に入るって言っていたでしょう?」

「そうよ。貧乏生活とはおさらばできるわ!!」

マリアはデラズヴェル男爵家の内情を知っているようだ。
アンナマリーの手を掴み、眼をじっと見て訴えている。

「お父様を説得できたの?」

「う…それは…。私を商会の仕事に、関わらせたくないのは、変わらずで…。
でも…私一人でも良いって、前に言っていた気がしたから…」

「まあ…できれば、アンナマリーのお父様の商会にも協力してもらいたいけど…。
アンナマリー1人でも、共同事業の形にはできるわ!!」

「ありがとう!!」

「でも…」

マリアはここで少し顔を曇らせ、

「そんなに生活が厳しくなったの?アナタ一人も養えないくらい?」

「それは…」

アンナマリーが下を向いたから、

「ああ、ごめんなさい。別に…出資金を出せなんて、言うつもりはないんだけど…。
パートナーになるなら、知っとかなきゃと思っただけよ」

それを聞いてアンナマリーは再度顔を上げ、

「せ、生活のため…っていうより、実績を作りたいの!!
お父様とお母様に…あと、みんなに認めてもらえるための…。
その新商品…人々が求めてやまないって、言っていたでしょ!!」

本当はお金も欲しいだろうが…。その辺までは、話せないようだ。

「そうよ!!人を引き付ける物よ!!」

「一体何?」

「植物よ!!」

「植物?」

「そう。その植物はね…。一風変わった薬草なの。人の苦痛を取って…幸せな気分になれる」

「そうなのね…。だったら需要は多そう…」

「でしょ!!一緒にやりましょう!!」

「わかったわ!!」

「あ、でも、一個条件!!」

「なに?」

「代表者はアナタにしてくれない?
私も…今回の商品は自信があるから、ウチの商会は使わずに出したいのよ。
実績積みたいのは、私も同じ!!
でも…ウチのお父様もお兄様たちも…過保護なせいかうるさくてさ…」

「そっか…。1人だけの女の子だもんね。
わかった!!いいよ。もちろん、収入は折半ね!!」

「あはは、話しが早くて助かるぅ~」

その後…笑いながら契約書を作成するのだった…。


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「ベティニア夫人にお願いするなんて、一体何を考えているの!!」

ガルドベンダに帰って来たアルフレッドに対し、アイリンのきつーい一言。

「だ、だって…あの方の指導を受けられれば、箔がつくし…最短でモノになると…。
それに…お父様とお母様が、いつも…教育は最高の物を受けるべきだと言っていたではありませんか!!」

アルフレッドとしては、当然だと言いたげだが、

「全く…何てこと…」

アイリンはめっちゃ頭が痛そうに、顔を抑えている…。

「あのね!!私は…無名でもいい講師はいっぱいいるんだから、相性のいい方を付けてあげなさいって、言ったでしょ!!なのに何で…ベティニア夫人にするの!!」

アルフレッドは…その反応が、何を意味したのか、分かったのかわからないのか、

「で、でも!!アンナマリーは本当に、ガッツがあって、頑張り屋なんですよ!!真面目だし…。
それをわかってもらえれば!!」

ひとまず訴えたいことを、言ったようだ。

「そんなの、上昇志向があれば、誰でもそうよ!!
その上で…モノになるかどうか…を、見られるの!!
習うための標準に達していない人を紹介すれば、かなり嫌悪感を抱かれるだけ!!
アナタも勿論、アンナマリー嬢もね!!それはわかっていたの?」

「何が言いたいんですか?お母様…」

アルフレッドはアイリンの言葉に、別の意図をくみ取っていた。

「これよ!!」

ばさり…と、出された書類は、アンナマリーのアカデミーでの成績表。
こんなものが簡単に手に入るのは、ガルドベンダならではだろう。

「行儀作法…。筆記は満点だけど、実技が落第すれすれじゃない。
この状態でよく、ベティニア夫人に持って行こうと思ったわね」

アカデミーの行儀作法は、むしろ最低限度のものだ。
それさえ落第すれすれでは…下手をすると、アカデミー入学前の子供以下と言う事だ。

「あのね!!アルフレッド…。仮にもあなたは、お父様の手伝いで、アカデミーの仕事を沢山して来たでしょう?
標準に達しない人間を、落第させるのはどうしてだと思う?
それ以上の事をしても、ついてこれないからよ。だからもっと下で勉強しなさい…でしょう?」

つまりベティニア夫人に習った所で、ついていけない、卒業できない…という事だろう。

「そ、そんなの、やって見なければ、わからないじゃないですか!!
実技は筆記のように、正解不正解が分かれるものでは…」

「一体アナタはどうしたの?アルフレッド!!」

ちょっと心配そうな顔になる。

「現実を見ない…。これは一番やってはいけない事だと、お父様は散々言ってきたでしょう。
アンナマリー嬢という人物の、現状をしっかりと見なさい!!
そうじゃないと、対策も取れないわよ!!」

アルフレッドは…この言葉に下を向くしかできない。
現時点での成績表は、嘘をつかないから。

アイリンは長いため息をつき、

「オルフィリア公爵夫人も言っていたけどね!!覚悟が足りなければ、最悪処刑コースになるのよ!!
ガルドベンダはそういう家なのよ!!
まずそこを、よく言って聞かせたの?」

アルフレッドがぎくりとし、

「いや…。最初にそんなこと言ったら…」

「それで逃げるようなら、それこそ務まらないわよ!!」

追い詰めるアイリン。

「あのね、アルフレッド…。
アナタの気持ちもわかるし、大切にしてあげたいけど…これは一歩間違うと、アンナマリー嬢を潰してしまう問題なのよ。
その事をよく頭に置いて、現実を見なさいな!!しっかりと!!」

アイリンの言葉に…アルフレッドは何も言い返せず、その場に佇むしかないのだった…。
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