ひとまず一回ヤりましょう、公爵様 13

木野 キノ子

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第1章 萌芽

6 考え方の問題…

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「オルフィリア公爵夫人は処刑が怖くなかったんですかぁ――――――――――――っ!!」

本日、フィリアム商会に新商品の企画を持ち込んだ私に…アルフレッドが詰め寄って来た。

「いったい何事だ、全く…」

ギリアムが詰め寄ったアルフレッドを、思いっきり押し返す。
今日はギリアムも一緒に来ている。
帰って来たラルトをねぎらうためだ。

「まあ…ファルメニウス公爵家に入った時に、わかっていたかと言われればノーですがね。
ただ…望まれて入ったからには、やれるだけやろうと思っただけですよ」

本当に…そうとしか言えないよ。
そもそも…ギリアムがノックダウンすると思ってたんだ、私は…。
私の絶倫ぶりにね。
でも…ギリアムも私に輪をかけた絶倫だったから、問題なかったんよ…。

「その心構えを、詳しくぅ――――――――――っ!!」

そう言われてもなぁ…。
わたしゃ、思ったままに動いた結果なんやけど…。

「ひとまず落ち着いてくださいよ」

私は…指示してお茶を入れてもらう。
お茶と茶菓子を出して、落ち着かせて…まあ、そしたらさ。
聞いてもいないいきさつを、話し始めたよ。

「う~ん。まあ…なかなか難しいですよ。
表情を隠すのって、上手い人と下手な人がいて…。
ある程度、訓練もありますが、生まれつきの性格もあるんです」

私の場合は…前世の職業が特に、功を奏した。
コアな客の、あらゆるイメプレに対応してきたからさ。
大女優並みの演技力がないと、務まんなかったよ。

「大抵の人間は…ちょっとづつ実績を積むしかないんです。
商会しかり、社交界しかり…。
だから、社交界にはシャペロンが存在するじゃないですか。
アカデミーだって、先生がいるし…。
研究施設だって、最初は研究員として入って、教授に師事したりするでしょう?
それをすっ飛ばしたいなら、よほど画期的な何かを開発するか、国に多大な功績を与えるしかありません。ギリアムが…いい例じゃないですか」

「その通りだ。
私は…結婚と離婚に関することを、一切口出ししないこと以外、望まなかったからな。
金などまた、稼げばいい話」

……まあ…ね。
一般庶民としては、ギリアムが戦争で使った額を知った時は…おめめが飛び出したまま…呼んでも全然帰ってこなくて…一体どこまで行っちまったのやら…だったがな。

「だから私が、アカデミーの研究施設で、何か…やる事はできないのか?…と、聞いただろう?」

するとアルフレッドの顔が暗くなり、

「あれから探してみたんですけど…。
やっぱり…既存の物をぶち破るくらいの物はなかなか…」

まあ…そんなのが簡単に見つかれば、研究職は楽なもんだろう…。

「エマ…。何かいい手ない?」

一緒に来て、お茶を入れてくれる、エマに聞く。

「そうですね…。
一般的には、修練するしかないんですよね…。
ただ…有名な講師は、当然生徒を選びますから、やはり…無名どころに行くしかないかと。
同じような生徒さんと…話しをするだけでも、勉強になることはありますよ。
ただ…ガルドベンダで認められたいとなると…それでも最低限度にもならないかもですから…。
アイリン夫人は幼い時から、師匠に師事することができたからこそ、ガルドベンダ入りを果たせたと思うんですよ。
もちろん中に入ったら、多大な勉強と更なる修練を積まれたでしょうが…」

だよね…。
あの人…ゾフィーナくそばばぁに、潰されることなく、いい勝負してるからな…。

「それに…これは、アンナマリー嬢にとっては、運が悪いのですが…。
ツァリオ閣下のおばあ様は、自身が超一流のマナー講師でして…。
とかく使用人のマナーに関しては、厳しく躾けました。
教えを受けた方はまだ残ってらっしゃるでしょうから…。余計認められるのは難しいかと…」

まじかー。

「だいたいなぜ、そんなに急ぐのだ?
何年かかけて…ゆっくりやってもいいじゃないか」

ギリアムの最もな疑問に、

「そうですが…。
求婚が、他国の王族からも来てまして…。
見合いだけでもするように…って、王家からの書状も来ていて…。
そうなると、逃れられなくなりそうで…」

その心配はもっともだよな…。
ギリアムは…割と早めに、妻は自分で選ぶとしたから、やったことがやったことだし、他国の王族も、この国の王家と話をして…みたいな手が取れなくなった。
でも…アルフレッドは違うからなぁ…。

公爵家に関しちゃ、他国の王族が嫁いでくることは、珍しくないからなぁ…。

「まあ…その事は、ツァリオ閣下とよくよく話をするしかあるまいよ。
急に何か大きい事をやろうとすると、あまりいい結果は産まない。
できる奴もいるが、できない人間の方が多いと思ってかからねば、馬鹿を見るぞ。
それと…急激にやる場合のリスクは、しっかりと把握しておくべきだ。
それだけは…怠らない方がいい」

「はい…」

スッゲーとぼとぼ帰っていった…。
だから…身分がある事って、一概にいいとは言えんのよ。

「でも私は運が良かった」

ギリアムがニコニコしながら、私を後ろから抱きしめつつ、

「フィリーが…これほど私の妻として、相応しいと皆に認めてもらえるとは…。
私はフィリーの為なら、どんなやっかみを受けようと、初代と同じ…奴隷に身をやつしても良いと思っていた。
だが…私が苦手な所を、見事に補填してくれた。
ティタノ陛下とドライゴ陛下の接待しかり。
私が好まない、社交界での活躍は、目覚ましいと皆が褒めてくれる」

1人ご機嫌だった。
まあ…確かに運が良かったよ。

わたしゃ…社交界の某は知らんが、悪辣で醜悪な女どもと、随分前世でやり合って来たからさ。
その昔取った杵柄と、今世で強化された…邪悪な人間を見極める目と鼻が、非常に役に立っている。
だがそれがない、天真爛漫で純粋で、初心ってなったら…。
考えただけで、ゾッとする。

ひとまずこの件は…こっちに火の粉が降りかからない限り、様子見だな…うん。

私に熱いまなざしを向けて来るギリアムの頬を、軽くなでなでしつつ、ひとまず…ラルトのねぎらいに
集中することにした。

ラルトから、包丁がいい塩梅で、お二方に気にいられたと聞いて、ひとまず安堵した。

「それにしても…色々大変な事に、なっているようですね…こっちは…」

どうやら、アルフレッドとアンナマリーの話を聞いたようで、ちょっと苦笑いしている。

「ごめんね…。騒々しくて…。何だか、面倒くさい方向に、行っちゃってるから…」

「私に言わせれば、自業自得だが?」

ギリアム…めっちゃ辛辣ね。
まあ…忙しい中で、しっかりと時間を取って忠告してあげたのに、それを全く…聞く気が無い奴じゃ
しょうがないけど…。

「実際…本当に王命の結婚が、下ることがあるんですかねぇ…」

そこが疑問なんだよね…。

「わからんが…最悪のケースを考えているのかもな…」

「最悪のケース?」

「王女殿下が…そろそろ本当に、行き遅れになりそうだろう?
年齢的には、2人はちょうどいいからな…」

私は…思わず口がひし形になり、眼が猫のように縦長になった。

……そういや、それ…忘れてた。
前世の日本の感覚じゃあ…22で行き遅れ扱いなんかしようもんなら、全国の女子を敵にまわしち
まってもおかしくないからなぁ…。
未だに…その感覚に慣れない…。

「でも…あの、王女殿下ですよ?
ツァリオ閣下が、首を縦に振らないでしょう?」

「王命は…一番強いものは、拒否権が無い。
だから私は…それだけは避けるために、色々画策したんだ」

「あちゃぁ~」

王族特権て…意外と強いんだよね…。
これも…日本人の感覚では、ワカラナイ。

「それに…ガルドベンダには、ステファン卿がいるだろう?
アルフレッド卿と王女殿下が…完全別居でもして子供が出来なければ、ステファン卿の子供で良いじゃないか…みたいな風潮が出来上がってもおかしくない。
通常なら、王族の子供が優先になるのは当たり前だが、王女殿下は…色々やりすぎたからな。
結婚させて、おとなしくさせられるなら、最悪…その子供を跡継ぎにしない…というのも、成り立つかもしれん。
その線での交渉が成立すれば…利害関係が一致したとなり、めでたく成婚となる」

「それ…。アルフレッド卿にとっては、地獄じゃないですか?
あの王女殿下が…気持ちがあろうがなかろうが、愛人を持つこと…容認するとは思えないし、気分で痛めつけるくらい、しますよ。
アンナマリー嬢は…王女殿下に対抗するなんて、できるタイプじゃない」

バカ王女は…自分のわがままはは、相手が全部許すのが当たり前…。
相手は…自分に対して、わがままなど一切言わずに、尽くすのが当たり前…。
そんな、超しょーもないタイプだぞ。

「だろうな。だが実際…歴史上にはそんな例は沢山ある。
婚約者がしっかりいたり…酷いのになると、結婚しているのに、相方と別れさせて、王族を相方にすることを、強要されたり…とかな」

マジか~。
でも…確かに、世襲制になったら、人格者もいるが、人格破綻者も生まれちまうのは、歴史上見ても…当たり前のようにいるからなぁ…。

「だが…即戦力になれる力を持たない人間ならば、即戦力にしようとして、焦るのは悪手だ。
私は…数多の騎士や兵士を育ててきたが…。大抵の人間は、それをやると遅かれ早かれ潰れる」

「ですよね…」

何だか…同情はするが、さりとて…私が何かするのは、筋違いの案件だからなぁ…。
私はひとまず…すり寄ってくるギリアムをなでなでしつつ、深ーいため息を吐くのだった。


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「では、こちらの寮をお使いください」

そう言ってデラズヴェル男爵家が案内されたのは、どう見ても数年間は管理されていないような、
ボロい寮だった。
ツァリオはこの辺は間違わない。
明らかに…優遇していると思われるようなことは、一切しない。
それどころか…身内に近いものは、厳しくてしかるべきと考える。

本日は…家の中の整理が完了したため、急ぎアカデミーの寮に来たのだ。
理由は簡単。整理している最中も、無遠慮に押し掛けてくる人間が、後を絶たなかったから。
売り払う算段はしており、話しがまとまり次第…だった。

アルフレッドのお迎えは、当然だがない。

「これは…本格的な掃除が必要ですね…」

デラズヴェル男爵家についてきた、ばあやが中を見ながら言った一言…。
使用人でついてきたのは、このばあや…名をアグラだけだった。
給料自体がかなり減額されるし、没落された家にいること自体が、箔がつかないから。

「仕方ないさ…。みんなでやろう」

(え~…)

不満を隠せないアンナマリーを、

「誰のせいだと思っている!!」

かなり強めに…叱り倒す。

(私じゃなくて、モントリアのせいよ…。
なのになんで私が叱られるの…。借金だって…モントリアが払うべきなのに…)

そう思いつつ、アンナマリーは寮の状態に、かなり絶句していた。
何故か…?
留学先の寮は、貴族専門であるため、かなり綺麗に整頓されていたのだ。
他国からの留学生は、あくまでお客様…の扱いだった。
だから、寮での衣食住は、メイド付きで世話をしてもらえた。

学校の教材費だって、学校持ちだ。渡航費用は国持ち。

アンナマリーが図書館の仕事をしていたのは、自分のお小遣いを稼ぐためなのである。

1つ言っておくが、平民ではなく貴族…それも他国に留学に来るような貴族が、自分の家から小遣い(しかも高額)を、定期的にもらえないこと自体が、あり得ない事。
実際にガルドベンダは、学生寮にこそ入ったが、必要経費としてかなり実家からの支給があった。
だからアンナマリーは…かなり物珍しいと言ってよかった。

アルフレッドがそんなアンナマリーを、頑張り屋だと言ったのは、まさに貴族の枠組みの中。

それにこの小遣い…貴族の付き合いをする上では、無いとかなり困る。
学校と関係ない社交の場での、ドレスや宝石代に代表される参加費用は、学校からは支給されないから。
貴族はある程度、箔をつけ虚勢を張る必要があるから、お小遣いはいくらあっても足りなくなることは多い。

……………………………。

でも、学業をして暮らすだけなら必要ない。
食うに困る事もない。
もっとも当の本人は、だいぶ馬鹿にされるがね。

食うや食わずで雑居ビルの一室に雑魚寝して、朝から晩まで働き倒しだったフィリーが、そんなアンナマリーと、境遇が同じと言われて激怒したのが、これでわかってもらえるだろう。

(まあいいわ。マリアとの共同経営事業が上手くいくまでの辛抱よ。
すご~く豪華な家具をそろえて、みんなを見返してやるんだから!!
アルフレッド様の周りだって…私こそがアルフレッド様のお相手に…ガルドベンダ公爵夫人に相応しいと、認めるわよ。その時になって、付き合いたいって言ってきたって、相手にしてやるもんですか!!)

結局ぶすくれたまま…掃除をいつまでも続けるアンナマリーだった。
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