【R18】魔族で魔眼な妹は、勇者な兄とお付き合いしたい!

ドゴイエちまき

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盲目乙女は拗らせ剣士に愛されたい

2.私も連れて行って

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 穏やかで優しい日差しが、じりじりと焦がすような熱に移り出した頃。青々とした空に浮かぶ大きな雲を見上げ、そういえばそろそろだな……と、クロウは雑に額の汗を腕で拭った。

 「今年はキアラも連れて行きなさい」

 名前を呼ばれ、声がした方向を振り向くと、爽やかに笑う父レオがそんな事を言い出した。勇者として名高いレオは人懐っこい栗色の瞳と、光に透けると金になる明るい茶色の髪をした、よく笑う太陽のような人だ。しかも恐ろしいほどのカリスマオーラを放っている。大抵の事は笑顔でゴリ押してくる父に何だか嫌な予感がして、クロウはつい身構えてしまう。

 毎年夏の始めと、夏の暑さに慣れ始めた頃。少し遠くの海沿いに決まってニ種の魔物が発生する。初夏にどこからか発生する魔物はそこまで強くはないが、なんせ一度に湧く数が多い。腕に自信がない者からするとそれだけで脅威だし、放置して住み着いてしまえば人が踏み入れられない場所になってしまう。遅れて発生するもう一種の魔物は少し厄介で、何が何でも倒しておかないとかなり危険な魔物だ。そう短期間で何度も移動するのが面倒な距離にあるし、裕福な町なので報酬も待遇も良い。なのでクロウは毎年夏はそちらで過ごすことにしている。

 聖剣を父から譲り受けた十五の誕生日からはや四年。毎年の恒例行事も一緒に譲り受け、クロウは今年も例年通り一人で出向くつもりだった。

「は?」
「は? はないでしょ~。キアラは魔法が使えるんだから、一緒に行った方が安心だよ。一人より二人!」

 兄妹仲良く! 力を合わせて! そう背中を叩く父に、クロウは面倒極まりない視線を向ける。この父はまた何か企んでいるらしい。
「いや、毎年一人でやってるけど、何の問題もないし……むしろ足手まといというか……」
「クロウ、慢心はいけない。君は剣の腕は相当確かだけど、回復魔法が使えないじゃないか。キアラが行ってくれた方が、僕もサアレも安心だよ。だから兄妹仲良く! ね?」
 やたらと「兄妹仲良く」を強調されて、クロウはうんざりと顔をしかめる。どうやら妹であるキアラとの仲を取り持ちたいようだが、クロウにはその気はない。
「別に、変に気を遣ってくれなくても、仲悪くはないよ。それに、キアラはそこまで魔法上手くないだろ」
「何も知らないの? ……もう少しキアラと話しても良いと、父さんは思うよ。ね、キアラもそう思うよね」
 さっきレオがやって来たと思われる方角をクロウが見ると、少し気まずそうなキアラと目が合った。先程までキアラと話していたレオが、「ちょっと待ってて」とクロウに駆け寄ってしまったので、言われた通り待ちぼうけをしていたらしい。名前を呼ばれたキアラはレオの元へ小走りに寄ってくる。
「えっと……それは、兄さんの自由だけど……でも連れて行ってくれると、嬉しいな。私、兄さんの役に立ちたくて魔法の勉強、頑張ってるんだよ」

 恥ずかしいから内緒にしてたんだけど、と笑顔を作るキアラの内心は、ものすごく焦っていた。
 光の魔力値が常人ではないレオは持ち前のセンスもあり、光魔法のエキスパートだ。主に回復や結界を得意としている。
 それに加えて魔法式の仕組みを完全に把握しているレオは、他属性の式も組み立てる事ができる。
 キアラは攻守のバランスが良い風の魔力に長けているが、保護な育て親のおかげでこの五年近く大切に守られ、ぬくぬくと育ってきた。なので魔法の勉強は程々、という度合いだった。
 だけどここ一年、クロウに内緒でレオのスパルタ指導を受け、本当にものすごく頑張った。それはもう普段温厚なレオからは想像も出来ない程の鬼教官ぶりに怯えつつ、特に苦手だった回復魔法の精度を高めた。
 もっと一緒にいたいから。必要として欲しいから。あわよくば、魔法を見たクロウに、是非一緒に来て欲しい、力を貸して欲しい、君がいないとダメなんだ、と言わせたいというのが、キアラの最大の目的だった。どんなに相手にされていなくても、恋愛中の乙女はとにかくつよい。

 (でも、でもそれって、たった一年の修行でそこまで出来てるのかな? だって、回復魔法ってあまり得意じゃなかったし。そこそこ使えるようになったとは思うけど兄さんの求めるレベルって、めちゃくちゃ高いんじゃない? それって今披露しても、がっかりされるんじゃないかな?)

 渦巻く不安を極力出さないよう、引き攣る笑顔のキアラにレオが近付いて優しく肩を抱き寄せる。そこに鬼教官の面影は、微塵もない。
「キアラの魔法は上級魔導士にも負けないよ。何と言っても、この僕直伝だからね! 自信持って」
「父さん……」
「クロウもきっとびっくりするよ。それともクロウは、僕の指導を信用できないのかな?」
「いや、そんなことはないけど……」
 逆らうと面倒な事になる時に見せる父の笑顔に怯むクロウを見て、これは今しかないと、キアラはぐっと決心を固める。
「兄さん! 私、足手まといにならないから、連れて行ってほしい! お願い!」
 今はレオの指導と、それを耐え抜いた自分を信じようと、キアラは強く決意した。

 それによくよく考えれば、兎にも角にもついて行ってしまえば後はきっとどうにでもなる。クロウは優しくないけど、いつも必要な時には助けてくれる。もしかしたら本当に万が一だけど、一緒に一つの目標に向かう事で距離が縮まるかもしれない。あとは出発の日まで更なるスパルタを耐え抜けば、きっと大丈夫。
 感情に素直なので、落ち込むことも多いキアラだけど、思い込みの激しさも相まって、大丈夫と信じれば不安よりも何とかなる気が勝利した。どれだけ冷たい視線を向けても折れない妹と、有無を言わさない父にクロウが勝てるはずもない。この夏は兄妹仲良く海へ向かう事が決定したのだった。
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