【完結】引き篭もり娘は、白銀の天使様を崇めたい

ドゴイエちまき

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4.すきときめときときす

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 興奮が冷めやんで、秘密を打ち明けたアシュリーは、どこか軽くなった胸をホッと撫で下ろした。

 美しいだけでなく、アシュリーの事情にも怯まず態度が変わらないシルヴィスは、やはり本物の天使に違いない。改めて今日の出会いを奇跡のように思ってしまう。

 シルヴィスならば、もしかしたら……そう淡い期待で、緊張する心を落ち着けるように、アシュリーは自分の胸に手を当てた。


「あの、シルヴィスさんにお願いがあるんですが……」

「断る」

「せめて聞いてくださいよ!」

「……聞くだけだからな」


 まさか言う前に拒否されるとは思わなかったアシュリーは、前のめりにシルヴィスに寄る。まさに秒速。

 そのスピードに少し驚いたシルヴィスだったが、とりあえず話を聞くことにする。


「あの、私、こんなに人に親切にしてもらったことがなくて、しかもシルヴィスさんは天使の如く美しくて……いえ、もう確実に天使様だと思っています」

「まだ言うのか」

「それで、あの、もしよければ……お友達に、なってください!」


 そう勢いよく出されたアシュリーの手を、シルヴィスは冷めた目線で見やる。どうやら握手を求めているみたいだが、彼はその手を取らない。


「ここにずっといるつもりはない」

「すぐに出立されるんですか?」

「いや、特に決めてはない。出たい時に出る」

「じゃあ、ここにいらっしゃる間だけでも! そして! 旅立たれた後は文通でも!」


 いつまでも交わしてもらえない握手は、とりあえず諦めた。けれどもアシュリーはぐっと両の拳を握って、なんとかシルヴィスを説得しようと試みる。


「卑屈なくせして、図々しいなお前」

「そうだ! もしよければ、うちに泊まっていってください。もちろん宿代は必要ありませんので」

「いや、そういうわけには……」

「部屋も余ってますから! 少し散らかっていますけど、片付ければ大丈夫です!」


 そう言って、早くも片付けに取り掛かろうとしたアシュリーが家の扉を開き、共に覗き込んだシルヴィスは絶句する。


「少し……だと……?」

「えっと、はい……少し、よりもう少し……?」


 シルヴィスは特に潔癖というわけではない。
 
 ない、が、あまりの惨状に数秒、彼の脳が思考を拒否してしまった。


「なんだこのガラクタの山は?!」

「ひどいです! ガラクタじゃありません!」


 家の中にはあちこちに狐やら、猪やら、果てはやたらと精巧な木彫り作品で溢れている。
 ひとつひとつ眺めると、どれも緻密で美しい。まるで美術品のようだが、所狭しと乱雑に置かれているせいで、その価値が全く見出せない。


 アシュリーの母は木彫り職人で、それを町の商店に卸して生計を立てていた。
 友達もいなく、特別裕福でもないアシュリーは、小さな頃から見様見真似で、木を彫り始めた。それこそ時間は沢山あったので、いつの間にやら彼女の腕は匠の域まで届きつつある。

 これを母と同じように卸せば収入になることはわかっているが、なんせ人とあまり会いたくないアシュリーには、店と交渉なんてハードルが高い。
 手慰みに彫っては次々に増えていく在庫を処分することも出来ず、とりあえず家中に置いてある。


「到底、無理だな。予定通り宿を探すことにする」

「え、そんなぁ……じゃあまた来てくれますか?」

「気が向いたらな」

「そんなぁ……! では宿を教えてください! 会いに行きます!」

「怖いなお前……」


 シルヴィスはアシュリーを偏見の目で見なかったとても珍しい人物で、しかもやや素っ気なくても、普通に会話を返してくれる。

 この人となら友達になれる、いや是非なりたい! と意気込むアシュリーはそれはもう必死で。シルヴィスがいくらうんざりした顔をしても、一切めげなかった。あと単純に、彼女の木彫り作品に表れているように、美しく繊細なものが好きなアシュリーにとって、彼の容姿はドストライクだった。





 最後まで渋りながらもシルヴィスを見送ったアシュリーは、またいつもの日常に戻る。
 ガラクタと言われた作品たちが少し気の毒に思えて、久々に棚へと整理することにした。

 きちんと片付いたなら、もしかしたらシルヴィスはここに泊まってくれるかもしれない。
 そうしたら、一緒にご飯を食べて、眠るまで楽しく話をして……友人と過ごす時間に憧れを抱くアシュリーは、もしもの未来を想像してニヤニヤと顔がだらしなく緩んでしまう。

 幼い頃、母が買ってくれた小さな恋物語を読みながら、どちらかというと、恋愛よりも主人公とその友人の仲に随分と憧れた。 

 恋に悩むヒロインを慰め、寄り添って話し、姉のように妹のように、時には共に眠ったり。
 そんな仲睦まじい様子が、友人のいないアシュリーにはとても羨ましかった。


「お友達と眠くなるまでお話……してみたいなぁ」


 きっとアシュリーが一方的に話し続けて、それを適当に相槌を打つだけのシルヴィスなんだろうと想像して、ほわんと胸が暖かくなる。
 そして、眠くなるまでを想像したところで、ふとシルヴィスの性別を思い出す。どれだけ美人でも彼は男性だ。


「あ、私ったら……今日会ったばかりの男の人に、宿泊を勧めてしまいました……」


 久しぶりの友人に舞い上がり、咄嗟に提案してみたけれど。それは拒否されて当然だろうと、今更ながら恥ずかしさを覚えてくる。

 あんなに綺麗なのに、男の人で。でも確かにアシュリーの腕を掴んだ力は、とても強かった。
 ボサボサの身なりでも、コミュニケーションがあまり上手くない自分にも、シルヴィスは偏見の目を向けず、怪我まで癒してくれた。

 アシュリーに優しくしてくれた人は、シルヴィスで二人目だ。

 昔、年に一度だけ会う、幼なじみのような少年がいた。

 行商人の両親と共に年に一度、一ヶ月ほどこの町に立ち寄る彼は、偏見の目などなくアシュリーに優しくしてくれた、唯一の友達だった。

 お互いの髪色が似ていたことが、仲良くなったきっかけだったと思う。幼い頃は彼が来る季節が楽しみで、将来はお嫁さんになりたいとも思っていた。だけどここ数年は、一度も会っていない。

 彼の来なくなった一年目はこの世の終わりの如く絶望したが、きっと両親とどこかに定住したのだろうと思えば、まだ子供の自分たちにはどうにも出来ないので、仕方ないとも諦めがついた。

 そういえば元気だろうかと久しぶりに思い出したものの、それよりもやっぱり浮かんでくるのは、シルヴィスのことだった。

 なんとなく、掴まれた腕に触れると感触を思い出す。決して逞しくはないのに、それでもやっぱり自分とは全然違う男の腕だった。

 そうやってひとつ思い出すと、顔に触れた手や、じっと見つめる赤い瞳、それを縁取る白銀の繊細なまつ毛。

 彼のパーツ、ひとつひとつが鮮明に脳内に浮かび上がってきて、アシュリーは熱くなった頬を押さえながら、しゃがみ込んでしまった。

これは、この感情は危ない気がする。


「あうぅ……どうしましょう、ドキドキする……」


 一度意識し始めると、うるさく鳴り止まない動悸に戸惑ってしまう。昔、幼なじみに淡い恋を覚えた時を思い出す。当然、この動機が何なのかくらい、鈍いアシュリーにだってわかってしまう。

 出会ったばかりの人で、しかもあんなに美しい人に恋をしたってどうしようもないのに。せめて、友人として側にいる分には許してもらえるだろうか。
 
 少なくとも彼がここにいる間だけ。どうせなら束の間の恋を楽しい思い出にしようと、アシュリーはそう心に決めた。
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