上 下
72 / 87
極東編

外伝:トッポの危機

しおりを挟む
 シール王城の謁見の間に通じる大廊下を、ブラウンとヘーラがボロボロの男を引きずって歩いていた。
 ブラウンを知る者は「あ~あの男何かやらかしたな」と言う目で、ヘーラを良く知る者は「改造か?それとも・・・どっちでも地獄だな」と言う目で見ていた。

 何が起こったのかは、その日の昼に遡る。
 その日トッポは機嫌よくドラゴニックメタルの引渡しを終えて、何時もの食堂で食事をとっていた。
 今日のメニューはブラウンが発明した揚げ物の中でもトッポ一押しの鶏肉の南蛮漬けだった。

「やっぱり暑い時には酢の物っすよね」

 ご機嫌で鳥南蛮定食を平らげた時に、行き成り襟首をつかまれ無理やり立たされた。

「な、なんすか?」

 トッポの目の前には黒い鎧を着た男と趣味の悪い成金のような格好をした貴族らしき男が立っていた。

「貴様がドラゴニックメタルを売っているゴミか?ワシが特別に1ゴールドで全て買い取ってやる。
 文句はないな」

「は?行き成り何を言ってるんすか?
 そんなばかげた話、誰も受けないっすよ」

「このローリエ公爵が言っているのだ、ゴミは大人しく従っていろ!」

 トッポは鎧の男の手から逃れると素早く逃げ、口を目で確認して、配下の男にいざと言う時ようの「この国では取引一切停止」「命の危険あり」のサインを出すと挑発するように。

「ローリエ?知らないっすね、何処の落ちぶれ国っすか?」

 それは功を奏し、顔を赤くした公爵は癇癪を起こしたように地団太を踏むと。

「シール王国の王弟、コッボルフ・ローリエだ!!、もういい貴様を殺して権利を奪えばいいだけだ!
 やれ!」

 公爵の号令の元騎士はトッポに容赦なく剣を振り下ろしたが、トッポはすばやく身を翻し、机を盾にして後方に逃げ込んだ。

「みんなすまねぇっす、後で家の商会に請求して欲しいっす、飲食代もだすっす」

 そう言って懐から投げナイフを4本投げ牽制すると、さらに裏口を目指して飛び下がった。
 トッポは冒険者の時の経験で 逃げるための手段が懐にかなり仕込んであった。
 騎士はナイフを全て手にした剣で弾き落とすと、ショートソードを逆の手で器用にトッポに投げた。
 トッポは着地した瞬間を狙われ、辛うじて弾くも脇腹を掠めてしまう。

「ぐぅ、毒っすか」

 小さく呟くとそのまま裏口から転がるように逃げ出した。

 トッポはそのまま裏路地をふらつきながら縫うように駆け抜けると、隠れ家にしているボロ小屋に逃げ込んだ。

「ち、シールの王様なにやってるんすか・・・」

 そう言ってトッポは傷口に解毒薬をかけ、残りを飲むとどっと汗を流しそのまま倒れてしまった。

 トッポが次に目を覚ますと夜のようで、まだダルさが残る体を引きずるように、いざという時の待ち合わせ場所に向かうと、そこには血塗れで倒れた部下達の姿があった。

「み、みんな・・・」

 辛うじて息があるものの全員が瀕死だった。

「おやおや、やっとお帰りですか?」
 
 姿を現したのは食堂であった公爵と騎士、それに今日取引した商人だった。

「あんた・・・」

「悪いねぇ、公爵様とドラゴニックメタルの利益を山分けする約束でね」

 ニヤニヤと鼻髭を弄る商人は勝ち誇ったようにトッポを見下ろしていた。

「クロバの婆さんがそう簡単にアンタを信じるとは思えないっすけど?」

「あの婆にも死んでもらうさ」

「もう良かろう、殺れ」

 公爵が合図を出すと、騎士は剣を思い切りトッポに振り下ろした。

”かーん”

 硬質な音が響き、トッポと配下の周りに蒼い半透明な障壁が生まれた。

「へへ、兄貴特製の防御結界っす、範囲を広げるのに時間がかかったっすけど成功っす。
 これはオイラの魔力が尽きるまでギガンテスの拳すら防ぐ一級品っすよ」

「なぁ!!ゴミが何を持ってんじゃ!!」

「公爵様、魔力が尽きるまで待てば良いんですよ」

「それもそうじゃな」

 そう言って騎士に合図を出すと、いつでも切れるように騎士は剣を掲げて時を待った。

”魔力はまだ持つっすけど・・・体力がやばいっすね”

 毒は解毒できたが、未だに収まらない熱に徐々に体力を削られて、トッポは焦っていた。
 
 それから暫く時間が経ち、トッポの体力が尽きると思われた時、騎士が物凄い轟音を立てて吹き飛んだ。

「どうじゃ?わらわも手加減して龍気砲を放てるようになったぞ」

「そうだな、生きてるな」

 土煙を纏いながらブラウンとヘーラが姿を現した。

「トッポ!大丈夫かや!!」
 
 トッポが結界を消しブラウンとヘーラを迎え入れると、まさに倒れかけのトッポを抱え、声をかけた。
 ブラウンは、瀕死のトッポの配下の惨状を見てトッポを見つめる。

「すまないっす、あのチビは陛下の親戚らしんすけど、ドラゴニックメタルの権利を寄こせと・・・」

 涙ながらに訴えるトッポに掌を向け

「いい、お前は休んでろ」

「そうじゃ、わらわらに喧嘩を売ったのじゃ。ド派手に暴れるとしよう」

 それを聞くとトッポは意識を失ってしまった。

「さて、後はたった二人じゃ、旦那様わらわの手加減の練習に使わせて欲しいのじゃ」

「良いぞ、さっさと終らせるか」

 そこからは正に地獄だった。
 
 一番に逃げ出そうとした商人はヘーラの龍気砲で吹き飛び、鼻の大量の出来物が全てつぶれ、自慢の鼻髭に火がつき頭髪も燃え尽きた。

 公爵は、「こやつが黒幕じゃろうから丁寧にするかの?」と小首をかしげたヘーラに胸ぐらを掴み上げられ、何回もビンタをされ意識を失った。


コッボルフ・ローリエの場合


 ワシはありえない暴力の嵐の中、意識を失ったと思ったら、冷たい水をかけられ急速に意識が戻った。
 公爵たるワシに不遜なと思いつつ目を開けると、謁見の間であった。

「なぜ此処に?」

「目を覚ましたか?コッボルフ・ローリエ公爵」

 聞き覚えのある声に思わず顔を上げると、そこには眉間に皺を寄せた陛下がワシを冷たい目で見下ろしていた。

「へ、陛下・・・ワシはいったい・・・」

「ブラウン殿から話を聞き、トッポの持っていた記録の水晶で貴様の罪状は全て確認した。
 よくもまぁやりたい放題してくれた物だな・・・」

「そ、それは・・・我が公爵家の資金が尽きたので・・・あるところから奪うのは当たり前・・・」

 ワシの訴えも陛下には届かず、更なる怒りを買ったようだった。

「貴様は王族の末席とはいえ公爵家だ。
 正式な罰を与える」

「バカな!たかがゴミクズのために何故ワシが」

「爵位没収の上、貴様らが傷つけた者達が回復するまでの損失全ての補償をせよ、
 当然爵位に基づく資産は全て差し押さえた上でだ」

「そ、そんな!ワシは公爵ぞ!たとえ国王であろうともそのような暴挙許さぬ!!」

 そうだ、ワシは公爵だ!王に次ぐ権力者だ!ワシは国王になれる!

「っしね!」

 ワシは何時も懐に忍ばせている短刀を引き抜こうと手を動かしたが動かない。
 慌てて腕を見るが首だけで体が無かった。

 ナンダコレハ

「残念だったな、新しい魔道具でな
 貴様の身体は借金を返すべく、今は魔境で採取をさせておる。
 因みに体が死ねば貴様も死ぬ」
 ナンダ!ソノマドウグハ

「貴様の頭はハインツの部屋でジックリ反省するが良い」

 ワシノイシキハソコデトギレタ、ドコデマチガエタ


 その後の事

「この度のこと申し訳なかった」

 国王はトッポのお見舞いに来て頭を下げた。

「陛下、商人に簡単に頭を下げてはダメっす。
 おいら達は平気っすから。
 それに、ちゃんと罰を与えてくれたっすから」

「ありがとう。これより貴族の風紀をいっそう引き締め、二度と同じ事が起きないようにする!」

 次の日から上級貴族の査定が始まった。これにより多くの上級貴族は再教育、もしくは引退に追い込まれた。

「ブラウン殿にはまた借りが出来たな」

「そうですね、時間が経てばまた膿はたまるでしょう。
 私の方で一年に一回チェックをするとしましょう」

 そう言ってメガネを押し上げるハインツに国王はため息をつきつつ、感謝の言葉をのべた。

 

―――――――――――――――――――――

 たぬまるです

 神の娘が行く月の教会創世記を始めました。

 もしよろしければごらん下さい
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:177pt お気に入り:1,138

巻き添えで異世界召喚されたおれは、最強騎士団に拾われる

BL / 連載中 24h.ポイント:2,804pt お気に入り:8,549

婚約破棄ですね。これでざまぁが出来るのね

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:134pt お気に入り:4,134

内気な僕は悪役令息に恋をする

BL / 連載中 24h.ポイント:1,322pt お気に入り:4,433

婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:766pt お気に入り:4,193

異世界に来たからといってヒロインとは限らない

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:1,412pt お気に入り:10,533

異世界帰りの勇者は現代社会に戦いを挑む

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:227pt お気に入り:373

処理中です...