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救出
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「やめてっ……誰か……!」
必死に声を絞り出しても、誰も来てくれるはずがないと思った。
後ろから押さえつける腕は岩みたいに硬く、ネックレスのチェーンが喉に食い込んで息ができない。酒とタバコの混じった臭いが鼻を突き、吐き気がこみ上げた。頭が真っ白になりそうで、涙がにじむ。
「おい!」
突然、路地に声が響いた。驚いて顔を上げると、小柄な少年が入口に立っていた。十二、三歳くらい。服はボロボロで髪もぼさぼさなのに、目だけは真剣で、必死に私を見ている。
「女の人に何してんだよ!」
少年が手にした石を投げた。狙いは外れたけど、その行動に男たちが「なんだコイツ」と顔をしかめる。
「ガキが邪魔すんな!」
そう怒鳴った瞬間──背中を押さえていた力が一気に消えた。気づけば大男がうめき声をあげて地面に転がっていた。何が起きたのか理解できない。
その時、路地の奥に立つ一人の青年の姿が目に入った。
シャツの袖をラフにまくり、庶民的で少し荒っぽい格好のはずなのに、不思議とよく似合っていて、堂々とした雰囲気があった。
黒髪は少し長めで、ざっくり整えてあるだけ。なのに顔立ちは信じられないくらい整っていて、路地裏の泥臭い景色の中でひとりだけ場違いに輝いて見えた。
優しそうな目元の下に、小さな涙ぼくろ。それに目が吸い寄せられて、心臓がドキッと跳ねる。
「……なに、この人……イケメンすぎ……」
場違いすぎて、逆に夢でも見てるんじゃないかと思った。
「この野郎っ!」
痩せた方の男が殴りかかる。でも青年は眉ひとつ動かさなかった。
軽く体をひねって腕を掴み、そのまま地面に叩きつける。ごつん、と音がして痩せ男は呻き声をあげて動けなくなる。
「ふざけんな!」
残った大男が突進してきた。けど青年は一歩踏み込み、拳をみぞおちに突き込んだ。短く、鋭く。
大男は「ぐっ」と情けない声を漏らして、そのまま膝から崩れ落ちた。苦しそうに胸を押さえ、動けなくなっている。
ほんの数秒の出来事だった。
恐怖も不安も、一気に吹き飛んでしまった。
「大丈夫か?」
低く落ち着いた声がして、思わず顔を上げる。
すぐ目の前に立つ青年と目が合った。汗や泥で汚れているはずなのに、なぜかきれいに見えてしまう顔。優しく笑うような目が、胸をずきんと揺らす。
──いやいや、なにこれ。助けてもらったのはありがたいけど、なんでこんなときに見とれてんの、私。
「兄貴ーっ!」
さっきの少年が駆け寄ってきた。顔は泥だらけだけど、誇らしげに笑っている。
「俺、ちゃんと気を引けたよな!」
「ああ、よくやった」
青年は短くそう答え、少年の頭を軽く叩いた。その仕草が自然で、二人の信頼関係が一瞬で伝わってくる。
私は胸元のペンダントをぎゅっと握りしめた。これもし盗られたら本当にヤバかった。……考えただけで震えが止まらない。
「……助けてくれて、本当にありがとうございます」
落ち着いて聞こえる自分の声に少し驚く。
青年はすぐに返事をしなかった。まだ周囲に気を配っているようで、視線を一度路地の奥へ流し、それからようやくこちらを見た。
その横顔はきれいだったけれど、同時に険しさも残っていた。荒事の直後で気を抜いていないのが伝わってくる。
優しい表情ではないのに、不思議と安心できる。守られている──そう思えた。
さっきまで胸を締めつけていた恐怖はもう薄れていた。
代わりにじんわり広がっていくのは、場違いなほどの安心感。
必死に声を絞り出しても、誰も来てくれるはずがないと思った。
後ろから押さえつける腕は岩みたいに硬く、ネックレスのチェーンが喉に食い込んで息ができない。酒とタバコの混じった臭いが鼻を突き、吐き気がこみ上げた。頭が真っ白になりそうで、涙がにじむ。
「おい!」
突然、路地に声が響いた。驚いて顔を上げると、小柄な少年が入口に立っていた。十二、三歳くらい。服はボロボロで髪もぼさぼさなのに、目だけは真剣で、必死に私を見ている。
「女の人に何してんだよ!」
少年が手にした石を投げた。狙いは外れたけど、その行動に男たちが「なんだコイツ」と顔をしかめる。
「ガキが邪魔すんな!」
そう怒鳴った瞬間──背中を押さえていた力が一気に消えた。気づけば大男がうめき声をあげて地面に転がっていた。何が起きたのか理解できない。
その時、路地の奥に立つ一人の青年の姿が目に入った。
シャツの袖をラフにまくり、庶民的で少し荒っぽい格好のはずなのに、不思議とよく似合っていて、堂々とした雰囲気があった。
黒髪は少し長めで、ざっくり整えてあるだけ。なのに顔立ちは信じられないくらい整っていて、路地裏の泥臭い景色の中でひとりだけ場違いに輝いて見えた。
優しそうな目元の下に、小さな涙ぼくろ。それに目が吸い寄せられて、心臓がドキッと跳ねる。
「……なに、この人……イケメンすぎ……」
場違いすぎて、逆に夢でも見てるんじゃないかと思った。
「この野郎っ!」
痩せた方の男が殴りかかる。でも青年は眉ひとつ動かさなかった。
軽く体をひねって腕を掴み、そのまま地面に叩きつける。ごつん、と音がして痩せ男は呻き声をあげて動けなくなる。
「ふざけんな!」
残った大男が突進してきた。けど青年は一歩踏み込み、拳をみぞおちに突き込んだ。短く、鋭く。
大男は「ぐっ」と情けない声を漏らして、そのまま膝から崩れ落ちた。苦しそうに胸を押さえ、動けなくなっている。
ほんの数秒の出来事だった。
恐怖も不安も、一気に吹き飛んでしまった。
「大丈夫か?」
低く落ち着いた声がして、思わず顔を上げる。
すぐ目の前に立つ青年と目が合った。汗や泥で汚れているはずなのに、なぜかきれいに見えてしまう顔。優しく笑うような目が、胸をずきんと揺らす。
──いやいや、なにこれ。助けてもらったのはありがたいけど、なんでこんなときに見とれてんの、私。
「兄貴ーっ!」
さっきの少年が駆け寄ってきた。顔は泥だらけだけど、誇らしげに笑っている。
「俺、ちゃんと気を引けたよな!」
「ああ、よくやった」
青年は短くそう答え、少年の頭を軽く叩いた。その仕草が自然で、二人の信頼関係が一瞬で伝わってくる。
私は胸元のペンダントをぎゅっと握りしめた。これもし盗られたら本当にヤバかった。……考えただけで震えが止まらない。
「……助けてくれて、本当にありがとうございます」
落ち着いて聞こえる自分の声に少し驚く。
青年はすぐに返事をしなかった。まだ周囲に気を配っているようで、視線を一度路地の奥へ流し、それからようやくこちらを見た。
その横顔はきれいだったけれど、同時に険しさも残っていた。荒事の直後で気を抜いていないのが伝わってくる。
優しい表情ではないのに、不思議と安心できる。守られている──そう思えた。
さっきまで胸を締めつけていた恐怖はもう薄れていた。
代わりにじんわり広がっていくのは、場違いなほどの安心感。
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