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にくじゃが
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「空いている部屋がいくつかある。泊まっていってもかまわない」
蓮司は相変わらず淡々とした口調で言ったが、続けて少しだけ声を落とした。
「後でもう一度、詳しく話を聞かせてもらえるか? ──未来から来たってのも含めてな」
一瞬、こちらの目をじっと見つめ、それから口元がわずかに緩んだ。
ぶっきらぼうな態度のままだが、“未来から来た”という話が、どうにも面白いらしい。
「タキ、この人に部屋の案内と、着替えを頼む。今の服は目立つし、ここでは過ごしにくいだろう」
「……わかった」
タキと呼ばれた少女は短く答えたけれど、その目はずっと私をじっと見ていた。まるで私のことを気に入らない、と言っているような視線だ。どうしてそんなふうに見られるのか分からなくて、思わず目をそらしてしまう。
タキはくるりと背を向け、少し強い足取りで歩き出した。私は慌てて後ろを追いかける。
案内されたのは長屋の一角にある小さな部屋だった。畳は古くて色も薄くなっているけれど、きれいに掃除されていて落ち着いた雰囲気がある。
「ここ、空いてる部屋。しばらく使えばいい」
タキはぶっきらぼうに言ってから、棚の奥を探り、畳んであった服を取り出した。
「これ使って」
そう言って差し出してくれるが、その目はまだ私をじっと見ている。なんとなく歓迎されていない気がして、私は小さな声で「ありがとう」とだけ返した。
タキは何も言わずに、ただふいっと顔をそむけた。
借りた服に着替えて外に出ると、子供たちがそれぞれに動き回っていた。最初はただのガラクタにしか見えなかったものが、よく見ると鉄くずや古紙で、彼らはそれらを集めてきて売っているらしい。小さな子は紙を仕分け、大きな子は釘を抜いたり、使えそうな木材を整えていた。
私はその様子を少し離れたところから眺めていた。みんな、自分の役割を持って動いている。誰ひとり遊んでいる子はいない。ここでの暮らしが、それだけ切実で、必死なのだと伝わってくる。
「何か……私も手伝えないかな」
思わず口に出していた。
子供たちの一人が顔を上げ、「姉ちゃん、料理できる?」と無邪気に聞いてくる。私は少し驚いたあと、すぐにうなずいた。
「うん……ちょっとなら。あんまり得意じゃないけど」
頭に浮かんだのは、唯一まともに作れる料理。肉じゃがだ。
台所を覗くと、木箱に山盛りのジャガイモが転がっていた。さらに桶の中には近所から分けてもらったらしい豚肉が氷水に浸してある。
「……うわ、でかい」
思わず声が漏れた。普段スーパーで見るような薄切り肉じゃなく、拳ほどもある塊肉だ。どう切ったらいいのか見当もつかない。
そんな私の様子を見て、横にいた少年がにやりと笑った。
「お姉ちゃん、それ切んのムリだろ。俺、こういうの得意だからやってやるよ」
「ほんとに? 助かる!」
少年は慣れた手つきで包丁を握り、力強く肉を押し切っていく。筋の多い部分も容赦なく叩き切り、あっという間に使いやすい大きさに整えてしまった。
「すごい……」
思わず感嘆の声をあげると、少年は得意げに胸を張る。
「だろ? こういうのいつもやってっから」
少年が胸を張る。私は笑顔でうなずき、ジャガイモの皮むきを始めた。
台所には子どもたちが何人も出入りしていて、それぞれが手伝おうとしている。小さな子が玉ねぎを水で洗ってくれたり、少し年上の子が鍋に水を張って火をおこしてくれたり。役割分担が自然に決まっているらしく、私もすぐにその輪の中に入り込めた。
切った肉と野菜を大きな鍋に放り込み、しょうゆや砂糖を加えて煮込んでいく。甘じょっぱい匂いが漂い始めると、子どもたちがわくわくした顔で鍋をのぞき込む。
「いい匂い!」
「なんか、お腹減ってきたなぁ」
その反応に、私の胸も少し弾んだ。料理なんて家ではほとんどしなかったけれど、こんなふうに誰かのために作るのは不思議と楽しい。
蓮司は相変わらず淡々とした口調で言ったが、続けて少しだけ声を落とした。
「後でもう一度、詳しく話を聞かせてもらえるか? ──未来から来たってのも含めてな」
一瞬、こちらの目をじっと見つめ、それから口元がわずかに緩んだ。
ぶっきらぼうな態度のままだが、“未来から来た”という話が、どうにも面白いらしい。
「タキ、この人に部屋の案内と、着替えを頼む。今の服は目立つし、ここでは過ごしにくいだろう」
「……わかった」
タキと呼ばれた少女は短く答えたけれど、その目はずっと私をじっと見ていた。まるで私のことを気に入らない、と言っているような視線だ。どうしてそんなふうに見られるのか分からなくて、思わず目をそらしてしまう。
タキはくるりと背を向け、少し強い足取りで歩き出した。私は慌てて後ろを追いかける。
案内されたのは長屋の一角にある小さな部屋だった。畳は古くて色も薄くなっているけれど、きれいに掃除されていて落ち着いた雰囲気がある。
「ここ、空いてる部屋。しばらく使えばいい」
タキはぶっきらぼうに言ってから、棚の奥を探り、畳んであった服を取り出した。
「これ使って」
そう言って差し出してくれるが、その目はまだ私をじっと見ている。なんとなく歓迎されていない気がして、私は小さな声で「ありがとう」とだけ返した。
タキは何も言わずに、ただふいっと顔をそむけた。
借りた服に着替えて外に出ると、子供たちがそれぞれに動き回っていた。最初はただのガラクタにしか見えなかったものが、よく見ると鉄くずや古紙で、彼らはそれらを集めてきて売っているらしい。小さな子は紙を仕分け、大きな子は釘を抜いたり、使えそうな木材を整えていた。
私はその様子を少し離れたところから眺めていた。みんな、自分の役割を持って動いている。誰ひとり遊んでいる子はいない。ここでの暮らしが、それだけ切実で、必死なのだと伝わってくる。
「何か……私も手伝えないかな」
思わず口に出していた。
子供たちの一人が顔を上げ、「姉ちゃん、料理できる?」と無邪気に聞いてくる。私は少し驚いたあと、すぐにうなずいた。
「うん……ちょっとなら。あんまり得意じゃないけど」
頭に浮かんだのは、唯一まともに作れる料理。肉じゃがだ。
台所を覗くと、木箱に山盛りのジャガイモが転がっていた。さらに桶の中には近所から分けてもらったらしい豚肉が氷水に浸してある。
「……うわ、でかい」
思わず声が漏れた。普段スーパーで見るような薄切り肉じゃなく、拳ほどもある塊肉だ。どう切ったらいいのか見当もつかない。
そんな私の様子を見て、横にいた少年がにやりと笑った。
「お姉ちゃん、それ切んのムリだろ。俺、こういうの得意だからやってやるよ」
「ほんとに? 助かる!」
少年は慣れた手つきで包丁を握り、力強く肉を押し切っていく。筋の多い部分も容赦なく叩き切り、あっという間に使いやすい大きさに整えてしまった。
「すごい……」
思わず感嘆の声をあげると、少年は得意げに胸を張る。
「だろ? こういうのいつもやってっから」
少年が胸を張る。私は笑顔でうなずき、ジャガイモの皮むきを始めた。
台所には子どもたちが何人も出入りしていて、それぞれが手伝おうとしている。小さな子が玉ねぎを水で洗ってくれたり、少し年上の子が鍋に水を張って火をおこしてくれたり。役割分担が自然に決まっているらしく、私もすぐにその輪の中に入り込めた。
切った肉と野菜を大きな鍋に放り込み、しょうゆや砂糖を加えて煮込んでいく。甘じょっぱい匂いが漂い始めると、子どもたちがわくわくした顔で鍋をのぞき込む。
「いい匂い!」
「なんか、お腹減ってきたなぁ」
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