ぽっちゃり?令嬢は可愛がられる

紫乃

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高いヒールを履いているのに物音なく、
流れるような動きは美しい。40代の半ばを過ぎ、5人の子を持つとはとても思えないほっそりとした姿は月の女神の肖像から抜き出たような美貌。
ただ歩いているだけなのに美しいと思ってしまうのは元王女であり、現王姉である我が母の所作の美しさのせいだけではないだろう。

いつもはただ誇らしく思う母のことも今の自分には母はこんなに美しいのに。姉のように母に似たかったのにと劣等感に苛まれる。
自分を愛してくれている家族に嫉妬してしまう自分の心の醜さに落ち込むばかりだ。


「っお母様!どうしてこちらに⁈」
すっかり落ち込むばかりだったが、自分の今の姿を思い出し慌てる。昼間から具合が悪い訳でもないのにベッドで惰眠を貪っている姿を見られたら、優しいが躾には厳しい母に叱られ呆れられてしまう。
内心で冷や汗をかきながら叱られると思い首を思わず竦める。

「聞いたわ。舞踏会に出たくないのですって?」
ギシッと音を立てながら行儀悪く足を組んでレイラのベッドのふちに腰掛けていた。 



まず叱られなかったことに驚きつつも淑女の鑑とされる母がベッドに腰掛け、足を組む姿を初めてみたことに驚愕する。行儀が悪くあってもヒールを履いた足先が艶めかしくてとても似合っている。なんだか気恥ずかしい気持ちになりレイラは顔が真っ赤になってしまった。


しかし、辺境伯夫人として社交で忙しいはずの母がせっかく自分を心配して尋ねてくれたのだ。
舞踏会について話してみよう。

「お母様。私は今自分に自信が持てないのです。
みっともない姿だと笑われると惨めな気持ちになるし、悲しい気持ちを堪えて話しかけても無視されたり、笑い者にされてしまう。これではお友達どころかブランシェット家のものとしての社交ですら満足にこなせません。
自分だけ笑われるならまだしも、お母様やお父様ブランシェット家のことまで貶めされるくらいなら参加しないほうがいいのだわ」

自分で話しながら情けなさに涙が溢れてくる。
勘違いさせたと、
今まで褒めてくれてきた家族や使用人、領民たちのせいにしていたがそうではないのだ。
女神のように美しく、優しいと褒めてくれたことに胡座をかいていた自分が悪いのだ。
褒めてくれるだけの領地に引きこもるのではなく、家のために王都や外国、その他の地方の流行を調べ自分の力で美しさに磨きをかけなければならなかったのだ。

「私は、今年のデビューは諦めます。来年までにきっとお父様やお母様に誇りに思ってもらえるような美しくて洗練された令嬢になってまいります。」レイラはそう覚悟を決めた。



すると静かに話しを聞いてくれていた母が口を開いた。

「美しいってどのようなこと?お辞儀の角度だとか、手の動きなどの所作は定規で測ることができるわね。だけど、身体も心も定規で測って決まりに沿っていなければならないのかしら?
わたくしは、私たち家族はみんなあなたのことを美しいと思うわ。見た目だけでなく、心もね。
それにあなたは私たちの誇りよ。」そう言ってレイラを抱きしめた。

母の言葉はレイラの心に温かく染み込み少し前向きな気持ちになれた。

「でも。やっぱり怖いわ。」
母の言葉に勇気を貰ったが怖いものは怖い。

「領地を出る前にアウラから言われたことを思い出しなさい。あなたは誰より美しいし、私たちの評判なんて小娘たちの噂ぐらいで揺らぐものではないわ。
そんなに気になるのならあなたの好きなお菓子のビュッフェにでも行くぐらいに思っていればいいの」



「アウラお姉様の…」



ーーーーー

時は領地を発つ前に遡る。

「レイラのデビューについてだが。私とオリアーナが王都に連れて行く。」

「はっ⁈父上は母上のエスコートがあるでしょう。それに若い私の方がエスコートした方が絶対いい」
長兄の言葉に
「いや、俺の方が剣の腕も立つしレイラに近づく奴らを蹴散らせる」
「僕は王宮に輸入品を納めに行ってるし、顔が効くから僕が1番いいと思う」と次男、三男が続く。

「お前たちは爵位を継いでいるわけでもなし、私なら辺境伯という身分でレイラを守ってやれるからな。それに1人連れて行くにしてもお前たちはまだまだ3人で一人前だからな。領地を守るためにも3人で残りなさい。なので却下。」

「私もついて行くわ。レイラが心配だもの。」
姉であるアウラの言葉に

「いや、来月には東国スワトゥラからシルクが届くし、再来月には西方のファリダット国から宝石や貴金属が届く。宝飾品や布地はお前の目が1番効く。
お前がいなければ、どんな大損になるか」

「それならお母様が残るといいわ。お母様の目利きと権力の前では確実に大儲けじゃない」
食い下がる姉に

「私は王姉として参加するように招待状を国王陛下から頂いているの」すまして答える母。

最高権力者を使うなんて卑怯よ!レイラがケダモノ共や鶏ガラどもに傷つけられたらどうするのと叫ぶ姉とぎゃーぎゃーと文句を言う兄たち。

「レイラ!あなたは世界で1番可愛くて美しいの!ダイエットのし過ぎでおつむに栄養のいってないの言うことを聞く必要はないのよ」


レイラとしてはみんな来てくれるのなら心強いがお仕事ならばしょうがないし、招待状が来ているのならそうするしかない。


「レイラがボーッとしてるわ!絶対これは聞いていないわ。やっぱり心配だわ!私もついて行く!」
「アウラ姉上抜け駆けしないでください⁈」
「「それは狡い」」
「それに貿易で赤字が出たら母上からどんなお仕置きを受けるか!姉上を取り押さえろ!」

壮絶な足の引っ張り合いは出発間際まで続いたが、母オリアーナの一喝により急速に収束した。



「こいつらを1人でも連れていったらレイラに手を出そうとする男や小娘たちにどんな陰険でねちっこい報復をするか分からんからな…。嫌なところばかりオリアーナにそっくりだし1人でも私の手に負えん。最悪どれだけの数の貴族家を没落させるか…」


小声で囁く辺境伯の言葉は幸いにも4兄姉たちと妻オリアーナには届いていなかったが、オリアーナというレイラのことに関するとピンの抜かれた手榴弾並みに爆発しやすい最愛の妻と起爆剤の末愛娘を王都まで1人連れていかなければならない辺境伯の胃は出発までひと月もあるというのにシクシクと痛み始めていた。



ちなみにこの時のレイラは期待に胸を膨らませ、舞踏会で蝶のように華麗に舞う妄想に耽っておりほとんど話は聞いていなかった。


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