ぽっちゃり?令嬢は可愛がられる

紫乃

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王子様と小さなお姫様

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ーーー


我が国には伝説とも呼ばれる女性がいる。
月の女神の生まれ変わりとも呼ばれる輝かんばかりの美貌と慈悲深さで王都を照らしたのだ。

彼女が在位したのは14歳からの僅か5年という短さであったが、この国の福祉に力を入れ、禁止されている奴隷を取り扱っていた高位貴族を裁き、弱者にも手を差し伸べる正に暗闇を照らす月の女神ともいうべき女性だったそうだ。

淑女の鑑であり、奥ゆかしい彼女は自分は父王の急逝により、やむなく中継ぎの王として王位を継いだものであり正統な王位の継承者は王弟フェンディ・アポロディアス・フローレスであると告げたのだ。

王弟フェンディは稀代の悪童と呼ばれ、容赦なく罪を裁く冷徹な心を持っているのだと貴族の中には王弟を新たな王として認めようとしないものもいたが、

悪事を働いていた貴族家の者が相手だったとはいえ、私刑ともいえる悪辣な報復を行なっていた王弟を慈悲深い彼女が諫めると彼女の心の美しさに感じ入って今までの悪行を恥じ、それからは一切理不尽ともいえる報復を行うことなく、穏やかな賢君として国を治めるようになった。

このまるで神話の一幕のような譲位劇は多くの画家や劇作家達から現在まで題材として好まれている。


ーーーー

…ックソ!また勝てなかった。

月の女神の化身であったのではと今だに囁かれている前女王オリアーナの娘アウラ・ブランシェット辺境伯令嬢は彼女によく似た光輝く美貌を持ち、更に人が1つ習う間に10いや、100先のことを自分で学んでいる。
それにあの細い体のどこにその力があるのだというほど剣術に武術、戦術、攻撃魔術に至るまで同じ年のものに男であれ勝てるものはいない。
なんで令嬢が指揮官としてそのまま軍に勤められる程の剣術の腕と戦術に、王宮魔術師のトップに立てる程の力を持っているのだと嘆く男は多い。

しかし、美しい姿と顔貌で上手く隠してはいるようだが、彼女の母と違い、だいぶ性格をしているのに気づいているのは俺だけだろう。
軽々と男を下す彼女は女神のような微笑みを浮かべているが、その瞳には彼女に勝てない男にどこか失望したような、小馬鹿にしたような色が浮かんでいる。

そんな彼女に勝てないことで、好きな女子に意地悪をしてしまうように嫉妬の言葉を向ける男に対してなど、小馬鹿にしたどころかゴミクズを見るような冷たい光が浮かんでいるようにも見える。


最初に気づいたとき自分に幼い頃から仕えてくれているヨハン・ロードナイトに自分の目がおかしいのかと尋ねたことがある。
代々王家の暗部も束ねているロードナイト家だ、それに彼の叔父は前女王に仕えていた。何か感じるものや彼女について知っていることはないのかと。

ブランシェット家には関わるべからずと父上からはキツく言われています。あそこの守りは異常です。
国相手に独立戦争でも仕掛けるつもりかというほどに。あの状況と父上がそのように言うのなら
アウラ嬢もただの美しくて完璧な女性ではないでしょう。

女王の血を引くアウラが次代の王になった方が良いのではと、こちらをさも心配したように囁くものもいる。王族が月の女神の血を引く証でもある白金の髪に蒼い瞳は母の血が強く出たのか自分には現れなかった。


王になるためにも彼女に勝てるようにならなければ。
もちろん勝てないからといって令嬢相手に嫌味を言うような男として情けない事はしたくない。
それにそんな奴はだいぶ手痛い報復を受けているようだ。

我が国民は9歳から15歳まで集められ学園で教育を受ける。もちろん各々貴族は家庭教師を雇いほんの幼い頃から貴族としてのマナーや学問の基礎を身につけるが、全ての国民が平等な教育を受ける権利と義務があるという前女王陛下の温情で各身分に応じた学園がある。学園は小さな社交界ともいえる場となり、上位貴族や王族に学友から側近へ取り立ててもらう機会とギラギラとしている。

その学園も年度終わりの休みのために家である城に戻ってきたが、アウラに勝つための鍛錬として中庭で素振りを行なっていた。
このようなことで勝てるのだろうか、自分の価値を貴族どもに示すことができるのか。中庭は暖かいどころか風もなく少し暑いくらいで汗がにじむ。
疑問と焦り、汗を振り払うように重い模造剣を振るう。

長いこと素振りを行い太陽がもう真上にある。そうしていると小さな泣き声が聞こえた。
広い中庭は森のようで、低い植木を掻き分け泣き声を辿っていくと、ワイルドベリーや木苺の群生している茂みの側で小さな女の子が蹲って泣いている。

どうした?迷子にでもなったのか?
と声をかけるとびくりと肩をすくませると泣いていた子どもが顔を上げた。
月の女神のような淡い金の髪にサファイアのような瞳。自分がずっと欲しかったその色を持つその子どもは幼いながらに美しく、それになんだか甘い香りを放っている。薔薇色の頬に伝う涙を舐めたいとぞくりと自分の中を這い上った感覚がした。

こんな幼い子どもに何をと、自分の中に芽生えた何かを心の奥底に沈め、
さらに声をかける。名前は?どこから来たのか。それに両親の名前は?

さっきまで泣いていた子どもはぽかんと口を開けこちらを見ていて答えない。
声が聞きたい。家庭教師に性について、子のなし方や男女の体の仕組みを教えられたとき、細さや自分の美しさのことしか考えていない女にそのような情を抱くことなどあるわけがないと思っていた。
しかし、幼いこの娘には自分の名前を呼んでほしい。
小さなその唇を奪いたいと。その思いがしめるのだ。


おにいさま、絵本の王子さまみたいね。
そう話す娘の声は甘く響く。王子さまはね。
お姫さまとけっこんするのよ。とってもつよくてかっこいいの。王さまになるのよ。

と一生懸命王子について自分に説明してくれる。
俺は王子だよ。王になれるかは分からないが。と苦笑して続けたその時、この初夏の暑い中剣を長時間振るい続け、泣き声の元を探して茂みを走り回ったのだ。汗が眉間を伝う。
それを鬱陶しげに拭うと、急に娘があわあわとしだした。レイラは王さまにならなくたって王子さまはかっこいいと思うの。だってお姫さまのためにぐわっはっはって笑うドラゴンと戦うのよ。
とっても強いし王子さまはかっこいいの。

お腹がすくとかなしくなるわ。レイラキャンディもってる。とっても甘くておいしいのよ。
と小さなポケットから包みを取り出すと包みから出したキャンディをあーんといって差し出してくる。

汗を拭ったのをなぜか泣いていると思い込んでいるのか。自分が迷子になって泣いていたくせに11歳というこの子からしたらかなり年上だろう自分を必死に慰めようとしている。

その慰めを受けるとしよう。
口を開け指ごとキャンディを頂いた。その時に舐めた小さくてぷくぷくとした指はキャンディよりもずっと甘く感じた。

するとくるりとした綺麗な蒼い瞳をさらにまん丸にしていて可愛らしい。

こちらを慰めてくれるのだ、その心に付け込ませてもらう。
性格が悪いのは王家の遺伝だ。しょうがない。

俺は王子様だけど王になれるかはわからない。
それでも君は俺と結婚してくれる?

うん!レイラは王子さまがけっこんしてくれるようなお姫さまになるわ。


じゃあ約束だ。
君が結婚できる16歳になって社交界にデビューしたらすぐに迎えにいくよ。

うん。レイラ王子さまをまってる。


そう指きりをすると、
小さくて柔らかい体を抱きしめて王宮に戻った。
そのまま自分の住む王子の宮へ閉じ込めてしまいたい気持ちだが、この子は幼すぎる。
この子を壊すことなく愛せるまでに心と身体が育つその日まで見守ることを決め、通りかかった侍女に託す。


結局レイラという名前くらいしかわからなかったが、
王宮に登城が許される高位貴族の娘で染め粉で染めたわけでもない白金の髪にコーンフラワーブルーの瞳だ。王家の血を組む遠縁の王族か貴族の娘だろう。
数は多くない。探すのは容易だ。


即日ヨハンに探させるとあの悪魔令嬢アウラ・ブランシェット嬢の妹であり、ブランシェット辺境伯家次女、
レイラ・ブランシェットであることがわかった。
あの悪魔の妹があんなに可愛らしい子どもであるなんて遺伝子の不思議を感じた。
それからすぐに何を思ったのかブランシェット辺境伯家はレイラを連れ領地に帰り、引きこもって出てこなくなった。

鉄壁の守りを誇るブランシェット家からレイラの情報を得るのは難しかった。手紙や誕生日、折々にレイラの好きだというお菓子や花などを贈っているが、返事はない。
恐らく誰かが握りつぶしているのだろう。

ヨハンを使い、ブランシェット家と裏で情報戦を密やかに繰り広げる中で、段々とこちらも鍛えられてくる。
向こうがこちらを子どもだと甘く見ているうちに牙を研ぐのだ。


レイラが王にならなくても王子はかっこいいのだと言ってくれたその時からアウラに勝って王になるという目標はあっさり自分の中から消えてしまった。

アウラに勝つためではなく勉学も、剣術も、帝王学ですらレイラにかっこいいと、さすが王子様だと喜んでもらうため、隣に立つために力を入れるようになった。

レイラの親衛隊とも言われるブランシェット家一族と家臣団との攻防の中でレイラの隣に立つことはアウラに勝つことより、ただ王位に就くことよりもよっぽど難しいことであると気づいたのは割とすぐだった。


情報を得ること、面会すること、手紙のやり取りですら難しい。
王家は毎年貴族家全てに家族全員の肖像画を贈らせている。貴族年鑑を作り、貴族について把握するためのそれをレイラの分だけ抜き取り複製とすり替えさせて、現物を自室に飾る。
12で精通してからは幼いレイラから少しずつ成長し、年々美しくなっていく肖像画だけが彼の重すぎる愛を受け止めている。



ーーーー

母に王宮へ連れてきてもらったが母の目が離れた隙にレイラは中庭にたわわに実るベリーに釣られて奥に奥に入り込みベリーを食べていた。迷子になったことに気付いてくれた侍女に連れられて無事に家族の元に戻されたが炎天下の中泣き続け、疲労と熱中症で倒れそのまま目が覚めた時には起きた出来事のほとんどを忘れていた。


覚えているのは母から王宮に連れて行ったら迷子になって心配したと伝えられたそのことだけ。
何もかも忘れたが、その時からなぜか王子様の迎えを待つことを夢みるようになった。


だからレイラはシンデレラのように舞踏会で王子様と踊ることができるデビューを子供の頃から楽しみにしていた。















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