別れ道のツバサ

鏡恭二

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涙のツバサ

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  宗助は相変わらず、合コンと二日酔いのループにいた。
本気で好きになることもなく、ただ流れるように過ぎる日々。

そんな大学1年の冬。
キャンパスで配られた一冊の小冊子を、宗助はぼんやりと開いた。

「……ん? 物件の雑誌?」

軽くめくると、どの住所欄にも「青森県」の文字が並んでいる。

現実味がなかった。いや、何も知らなかった。
その日、同級生の雄二が言った。

「宗助、お前もう物件決めた? 来年から青森キャンパスだろ?」

──青森?
鈍くなった頭を必死で回す宗助。
やがて、忘れていた“あの会話”を思い出す。

数ヶ月前の、家族会議。

父「お前、大学どうするんだ?」

宗助「南海大学のAIメディカル統合学部にするよ」

父「……ここ、2年から青森キャンパスって書いてあるぞ? 本当にいいのか?」

母「いいんじゃない? 可愛い子には旅をさせろって言うでしょ。
 一人で暮らすってこと、学ぶのも悪くないわ」

父「……そういうもんかね」

思い返せば、確かにそんな話をしたっけ。
大学はAI医療と地方創生の名のもと、青森での専門教育に舵を切っていた。
予算も、家賃も。すべてが“青森”での生活を前提としていた。

宗助「……何も、決めてないや」

経験のない一人暮らし。
母に相談すれば、物件をめくりながらつぶやく。

「青森って……1Kで2万8千円? 安いわね~。ここにしましょ」

母に言われるがまま、不動産屋に連絡して契約。
家電も母が一緒に買いに行ってくれた。
新生活応援セットの冷蔵庫、洗濯機、炊飯器──全部、母任せ。

でも宗助は「ありがとう」も言わず、また合コンに出かけた。

はたから見れば、自由で楽しそうな大学生活。
だけど──
宗助は、心の中でずっとモヤモヤを抱えていた。

宗助(……俺、なにやってんだろ)

合コン。ゲーム。ラブコメ。
好きだったはずのものも、今の自分にはどこか遠い。

二日酔いの朝、ベッドで吐き気に耐えながら考える。
ぐるぐると頭が回って、やがてトイレに駆け込んだ。

嗚咽の音。冷たい便座。
その背中に、ふと──誰かの“気配”がした。

「……宗助くん……さみしいんだね……
 私……ここにいるよ……」

宗助は、ゆっくりと顔を上げた。
……誰もいない。

宗助「……………」

その場でうずくまり、静かに、泣いた。
はじめて、心の底から。

やがて家族が総出で引っ越しの準備をし、
宗助の青森での新しい生活が、いま始まろうとしていた。

──これは、夢にもなれなかった少年が
 ようやく、自分だけのツバサを見つける物語。
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