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浮気現場は突然に
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「貴方たち、なにをしているの! そこは私達の寝室‥‥‥レビル!」
「アナベルッ。なぜここに?」
「姉さん――違うっ、これは‥‥‥!」
「嘘‥‥‥そんな。エマ、なんてことを――!」
見られてはいけないその場を目撃されて、夫になる予定のセダ子爵令息レビルは思わず呻いた。
見てはいけないはずのその光景を目の当たりにして、妻になるはずの聖女アナベルは息を呑んだ。
知られてはいけないはずの秘密の関係が白日の下にさらされて、アナベルの妹、エマは泣きそうな顔になり必死に己の行いを隠そうとしていた。
アナベルは栗色の瞳を括目するかのように、大きく見開いた。
現実が嘘のようで、妹が言うように間違いであって欲しいと心が叫んでいた。
「妹、なの――に。何しているの」
しかし、その光景は幾度、目を凝らしても変わることがない。
悔しくなって唇を噛んだ。
頭を悔やむように垂れて、左右に振る。
寝る前ということもあり、いつもは高く結い上げている腰まである長髪が、ばさりと顔の前に落ち、視界を覆い隠した。
「違うの、待って! これは違うの、レビル様」
「待て、アナベル。話をしよう」
「へえ‥‥‥話、ね。これを見て、どう話をしろとっ?」
もしかしたら、妹は夫に言い寄られて、どうしようもなくこうなったのかも。
思わず、身内を信じたいという気持ちが大きくなる。
廊下の灯りを背にして、聖女の豊かな髪は、金色に燃える夕陽のように、罪人たちを照らしていた。
「これは僕たちには大事なことだったのだ。君の為でもある」
「わたしの為? それは! わたしの妹ですよ!」
金色の夜叉が叫んだ。
ひいいっ、と二人は悲鳴を上げる。
しかし、その痴態をどう取り繕うとしても、かなうはずもない。
事実、レビルが下に、エマがその上に跨り、二人は入り口から見て奥にあるベッドの上で、レビルにその行為を晒していた。
慌てて、エマが白いシーツで胸元を隠し、レビルがその背中に彼女を匿う。
そこまでされて、いまさら違うもなにもないでしょう、とアナベルは飲み込んだ息を押しとどめてから、全身の力を解き放つように、大きな大きなため息をついた。
「来週、結婚式だというのに。貴方という方は!」
扉にすぐ側には棚があり、その上には陶器の置物や手のひらサイズの装飾品が、綺麗なレースの布の上に置かれている。
アナベルは怒りに任せてそれらを片手で振り払った。
ついでに最初に手の中にサイズよくおさまった陶器のなにかを掴み取ると、それを振りかぶって婚約者の顔めがけてぶん投げる。
「おいっ!」
「いやああっ!」
「なんて情けない、なんて恥知らずな! 妹を信じて託したのに、まさか、手を出すなんて……」
それは花瓶だったようで、大きく弧を描いて婚約者の頭を砕くはずだった。
しかし、勢いが強すぎたのか、その後ろの壁にぶち当たると、盛大な音をたてて割れてしまい、その破片は床とベッドの上に四散する。
思わずレビルが身を挺してエマを守ったことが、さらにアナベルの怒りに触れた。
姉は憤り、息も荒いままにその不機嫌さを足音で表現して、カツカツとつめたい音とともにヒールを床へと打ちつけベッドに近づいた。
「貴方たち、なにをしているの! そこは私達の寝室‥‥‥レビル!」
「アナベルッ。なぜここに?」
「姉さん――違うっ、これは‥‥‥!」
「嘘‥‥‥そんな。エマ、なんてことを――!」
見られてはいけないその場を目撃されて、夫になる予定のセダ子爵令息レビルは思わず呻いた。
見てはいけないはずのその光景を目の当たりにして、妻になるはずの聖女アナベルは息を呑んだ。
知られてはいけないはずの秘密の関係が白日の下にさらされて、アナベルの妹、エマは泣きそうな顔になり必死に己の行いを隠そうとしていた。
アナベルは栗色の瞳を括目するかのように、大きく見開いた。
現実が嘘のようで、妹が言うように間違いであって欲しいと心が叫んでいた。
「妹、なの――に。何しているの」
しかし、その光景は幾度、目を凝らしても変わることがない。
悔しくなって唇を噛んだ。
頭を悔やむように垂れて、左右に振る。
寝る前ということもあり、いつもは高く結い上げている腰まである長髪が、ばさりと顔の前に落ち、視界を覆い隠した。
「違うの、待って! これは違うの、レビル様」
「待て、アナベル。話をしよう」
「へえ‥‥‥話、ね。これを見て、どう話をしろとっ?」
もしかしたら、妹は夫に言い寄られて、どうしようもなくこうなったのかも。
思わず、身内を信じたいという気持ちが大きくなる。
廊下の灯りを背にして、聖女の豊かな髪は、金色に燃える夕陽のように、罪人たちを照らしていた。
「これは僕たちには大事なことだったのだ。君の為でもある」
「わたしの為? それは! わたしの妹ですよ!」
金色の夜叉が叫んだ。
ひいいっ、と二人は悲鳴を上げる。
しかし、その痴態をどう取り繕うとしても、かなうはずもない。
事実、レビルが下に、エマがその上に跨り、二人は入り口から見て奥にあるベッドの上で、レビルにその行為を晒していた。
慌てて、エマが白いシーツで胸元を隠し、レビルがその背中に彼女を匿う。
そこまでされて、いまさら違うもなにもないでしょう、とアナベルは飲み込んだ息を押しとどめてから、全身の力を解き放つように、大きな大きなため息をついた。
「来週、結婚式だというのに。貴方という方は!」
扉にすぐ側には棚があり、その上には陶器の置物や手のひらサイズの装飾品が、綺麗なレースの布の上に置かれている。
アナベルは怒りに任せてそれらを片手で振り払った。
ついでに最初に手の中にサイズよくおさまった陶器のなにかを掴み取ると、それを振りかぶって婚約者の顔めがけてぶん投げる。
「おいっ!」
「いやああっ!」
「なんて情けない、なんて恥知らずな! 妹を信じて託したのに、まさか、手を出すなんて……」
それは花瓶だったようで、大きく弧を描いて婚約者の頭を砕くはずだった。
しかし、勢いが強すぎたのか、その後ろの壁にぶち当たると、盛大な音をたてて割れてしまい、その破片は床とベッドの上に四散する。
思わずレビルが身を挺してエマを守ったことが、さらにアナベルの怒りに触れた。
姉は憤り、息も荒いままにその不機嫌さを足音で表現して、カツカツとつめたい音とともにヒールを床へと打ちつけベッドに近づいた。
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