2 / 9
闇に浮かぶ街
しおりを挟む考えてもみれば当たり前のことで、年に一度か二度の訪問をする人物のためだけに使われる船の修理用部品なんて、どこにも扱いがあるわけがないのだ。
その理由は簡単で、あまりにも高価だから。
そして運悪く、そんな高価な船に使うような部品の在庫を、ヒンギス商会でも切らしていた。
「いつもならちゃんと揃えてるんだけどなー」
父親はぼやくようにそう言った。
それは知っている。
仕入れは父親がしているが在庫の管理はマーシャが行っているからだ。
在庫が切れていることは先月から承知していた。
「そんなこと言ったってお父さん。あんな高価な部品、仕入れても売れなきゃ意味がないじゃない」
「まあそれはそうなんだが」
部品の商品番号を聞いた時、レンダーは在庫があると言ってしまったらしい。
店に普段から置いてある商品は必ず品切れをしないようにする、というのが彼の信条だったから、いつものようにそう返事をしてしまったのも無理はなかった。
教会の使者が待つ間、レンダーは倉庫を確認にいき、在庫が切れているのを発見して、夢の世界でまどろんでいたはずのマーシャを叩き起こした。
寝ぼけ眼にそんなものはないと返事をする娘に、レンダーは青ざめた顔をするものだから、マーシャの方が慌ててしまった。
「どうする? 在庫があると答えてしまったよ」
「返事しちゃったものはしょうがないわ。市場に確認を取るから待って」
あると答えてしまったのは仕方がない。
時間を確認したら夜明け前だが、業者の仕入れ市は既に開いている時間だ。
その部品は高価ではあるものの市場にはいつも常備されている品だった。
確認のために魔導具であちらの担当者に連絡を取ってみたら、その品物はちゃんとあると言う。
それなら今から買い付けに行き、帰りに教会に卸せば、それでいいだろう。
そういう経緯だった。
「こんな朝早くから行かなくても、もうすこしあとにしたらどうだ?」
「お日様がでて、海から霧がたちのぼるから、それこそ危険よ。いまが丁度いいわ」
「そうか……。まあ、のんびり行ってこい。太陽も月も昇っていない状況で、船を走らせるのは危険だからな」
「大丈夫よ」
舵を握り、船の運転を管理するシステムを維持するために必要な魔力を注ぎながら、マーシャは不慣れな夜の闇の中を進んでいく。
北の方角に進んでいるせいもあって、太陽はほぼ後ろ側から彼女を追いかけて上がってくる。
向かう先にあるのは薄暗く人工の灯りをともしている、都の中心部だ。
巨大な魚が水面に顔をだして、口を開けているかのように、ぽっかりと闇の中に浮かんで見えた。
その不気味さに何か寒いものを感じて、マーシャは背筋を強張らせた。
「待っていたよ。しかし早かったな」
「お客様が今すぐにでも欲しいって言うの。急いで届けないとあちらに迷惑をかけてしまうから」
「こんな夜更けに、こんな高い部品を欲しがるなんてどこの金持ちだ、贅沢なやつめ」
「とてつもなく大きなお客様からもしれないわよ」
市場で部品を購入し、梱包して貰って、それを船に積み込んでもらう。
部品は一抱えほどもあり、女性の手にはとても負えない品だった。
十六歳になるまで、物心ついたときからずっと、マーシャは父親の店を手伝ってきた。
その辺りで遊びまわっている、同世代の貴族の息子たちよりは力があるつもりだったが、これはさすがに持てない。
それほどに重たい品だった。
積み込まれたボートの喫水が、部品の重たさでわずかに下がった。
顔見知りの担当者と軽口を交わして、マーシャは再び、ボートの舵を握る。
水面を滑るように走り出す彼女の船を追いかけて、ようやく朝陽が東の水平線から顔を覗かせていた。
13
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
失礼な人のことはさすがに許せません
四季
恋愛
「パッとしないなぁ、ははは」
それが、初めて会った時に婚約者が発した言葉。
ただ、婚約者アルタイルの失礼な発言はそれだけでは終わらず、まだまだ続いていって……。
どうぞ添い遂げてください
あんど もあ
ファンタジー
スカーレット・クリムゾン侯爵令嬢は、王立学園の卒業パーティーで婚約もしていない王子から婚約破棄を宣言される。さらには、火山の噴火の生贄になるように命じられ……。
ちょっと残酷な要素があるのでR 15です。
真実の愛には敵いませんもの
あんど もあ
ファンタジー
縁談の相手に「自分には真実の愛の相手がいる」と言われて破談になってしまった私。友人達に聞いてもらって笑い飛ばしてもらいましょう!、と思ったのですが、話は予想外に広まってしまい……。
ざまぁはハッピーエンドのエンディング後に
ララ
恋愛
私は由緒正しい公爵家に生まれたシルビア。
幼い頃に結ばれた婚約により時期王妃になることが確定している。
だからこそ王妃教育も精一杯受け、王妃にふさわしい振る舞いと能力を身につけた。
特に婚約者である王太子は少し?いやかなり頭が足りないのだ。
余計に私が頑張らなければならない。
王妃となり国を支える。
そんな確定した未来であったはずなのにある日突然破られた。
学園にピンク色の髪を持つ少女が現れたからだ。
なんとその子は自身をヒロイン?だとか言って婚約者のいるしかも王族である王太子に馴れ馴れしく接してきた。
何度かそれを諌めるも聞く耳を持たず挙句の果てには私がいじめてくるだなんだ言って王太子に泣きついた。
なんと王太子は彼女の言葉を全て鵜呑みにして私を悪女に仕立て上げ国外追放をいい渡す。
はぁ〜、一体誰の悪知恵なんだか?
まぁいいわ。
国外追放喜んでお受けいたします。
けれどどうかお忘れにならないでくださいな?
全ての責はあなたにあると言うことを。
後悔しても知りませんわよ。
そう言い残して私は毅然とした態度で、内心ルンルンとこの国を去る。
ふふっ、これからが楽しみだわ。
真実の愛の祝福
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
皇太子フェルナンドは自らの恋人を苛める婚約者ティアラリーゼに辟易していた。
だが彼と彼女は、女神より『真実の愛の祝福』を賜っていた。
それでも強硬に婚約解消を願った彼は……。
カクヨム、小説家になろうにも掲載。
筆者は体調不良なことも多く、コメントなどを受け取らない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる