お金目的で王子様に近づいたら、いつの間にか外堀埋められて逃げられなくなっていた……

うしまる

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思ってたのと違う

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 翌朝、王城及び学園は共に大騒ぎだった。
 それは勿論、私が城に泊まったからというもの。流石に、同じ部屋でとかベッドでまでは隠されていたけれど。城内部では、結構そこら辺が話題になってたらしい。
 なんせ数多の申込があって尚、婚約を断り続けていたらしい王子は、幾ら熱心な誘いがあれども、茶の一杯ですら同席を許さなかったらしいのだ。
 つまり、一緒のベッドで寝るなんてことは言語道断。あり得ない、はずらしい。
 けれど、それが聡明な王子の知略であることを私は知っている。
 だから、朝イチ泡吹くメイドさんだとか、卒倒する女生徒とかにだって、ごめんって思いつつも素知らぬ顔で王子の後ろに付き従ったりしたわけなんだけど。
「流石に……ここまでしなくても良いのではないでしょうか?」
 例の如く、昼休み。中庭。
 私は、王子が私のために用意したという厳選されし紅茶を、不自然に置かれたやたらと豪華なソファで腰を抱かれて楽しんでいた。
「はて……ここまでとは?」
 澄ました笑みでカップを置いた王子はそう言った。
 え……うそ、無自覚なの?
 うわぁ、例えフリでも王子と生涯共にするとかは絶対無理だなとか思いながら、口を開く。
「自分の乗って来た馬車があるのに、わざわざ同じ馬車――それもセレモニー用の盛装のものに一緒に乗って登校とか」
 王子がこくりと頷く。
「ご自身の服装と私の服装の色を揃えたり」
 王子がまたこくりと頷く。
「毎休み時間、お茶菓子付きで私の所を訪れてくださったり」
 王子がまたまたこくりと頷く。
「ひいては、私の腰に手まで回してくださる演出とか……」
 王子がにこりと口元を緩める。
「ここまでやる必要はないと思うのですが、いかがでしょう?」
 遠巻きに王子のファンと見られる女教師女生徒各位の怨嗟こもる眼差しを一心に受けながら、光と覇気の抜けた表情でそう尋ねれば、
「なるほど、君は匂わせアピールの方が好みだったというわけか」
 なんて爽やかな笑みでそんなことを返された。
 いや、何言ってんの⁉︎
 唖然とする私なんてつゆ知らず、王子はふと一瞬考えるような仕草をとると、
「では、こうしようか」
 そういって自身のタイを解き始めた。
 え? なに……? 今度はなにするの……。
 これまでの前科により、若干引き気味でその行く末を見守って、しゅるりと華麗に解かれたタイが腰から離れた手と共に私の頭に居場所を定めてきた。
 ゴソゴソとなにやら私の髪を弄くり始める王子様。
 ……嫌な予感しかしない。
 恐らく私の表情は、最高に怪訝なものだっただろう。
 けれど、王子はやたらニヤニヤと楽しげな笑みを浮かべていて。
 暇だったのでなんとなく横目でみたその顔は、噂通りの粗ひとつない完成されし美貌。だけど、あまりに綺麗すぎるものだから、もはや女性にすら見えて来てしまった私は、同じ女性としてのジェラシー的なものを感じてすぐ見るのをやめた。
「……これでいい」
 最後にいっそう満足げな笑みを浮かべた王子は、やっとその手と顔を離していく。
 私は、王子の側近らしき人からすかさず渡された鏡で、恐る恐るにそれを確認した。
 すると、そこには王子の首元を飾っていた上品な白のタイが、あまりに可愛らしいリボンとして髪に添えられていた。
 ちなみに、ちょっと髪に編み込まれたりもしてあって、長いタイが私の垂れ流しただけだった味気ない髪を綺麗に飾り立てていた。
「気に入ったかな?」
 今度は別の意味でぽかんとするわたしに向けて、王子は肯定しか想定してないような自信を持って尋ねてくる。
 本当は、ちょっとばかり価値観の違いを吠える予定だったけど、王子があまりにも期待に満ちた眼差しを注いでくるものだから。
「……ま、まぁ素敵だとは思いますが」
 なんて、ついそんなことを口走ってしまったりして。
 ふ、不覚だ……。でも、実際本当に可愛いし……。
 自分で自分に言い訳をしていれば、顔に出てしまっていたのか王子にクスリと笑われた。
「これはね、ただの白地じゃないんだよ。光を当てれば王家の家紋が浮き上がる仕様になっているんだ」
 そんな言葉に私はハッとする。
 分かりたくもない王子の思考が読めてしまったのだ。
 初め、髪にタイを括り付けられたときには『私、親しい殿方がいるんですのよ』アピールを想定しての行動かと思っていたんだけど、甘かった。
 王子はその更に上を行く、『私、親しい殿方がいるんですのよ』アピールを私にさせようとしていたのだった。
 そして、この学園に在籍中の王族は只今、王子、ただ一人。つまりは――
 うわぁ……。
 顔が心のドン引きに従って、激しく引き攣っていくのがよく分かる。
 これ、フリだから我慢できるけど、本当の恋仲なら無理じゃない……?
 ていうか、装着風景見られてる時点で匂わせですらないし……。
 そもそも、匂わせなんて求めてないし。
 大体、こんなことまでしちゃって本命さんの方は大丈夫なの……?
 尚も激しい周囲の怨嗟オーラの中、不満と無理解、色んなものが私の頭をグルグル回転する。
 けれど、この苦悶顔のどこに微笑む要素があったのか、王子は更に笑みを深めたりなんかして。
「君の期待にこれ以上ない形で応えてしまったな」
 なんて、罪深い男だな……みたいなキザなことまで口走ったかと思ったら。今度は、私の髪とか掬ってキスまで落としてくる始末。
 周りからは女子の激しい悲鳴が飛んでくる一方で、私の心は寒々と冷えていき。
 うわぁ、が脳内占拠を決めたところでふと思う。
 ……これってちゃんとだよね? 利害の一致って言ってたよね⁉︎
 悩む問いに答えは出ない。
 けれど、目的の方向性としては都合がいいので捨て置いた。
 ま、家柄的には結構差があるし大丈夫でしょ!
 そんな呑気なことを考えていたせいで、着々と外堀が埋まっていっていることには、まだ一ミリも気が付いてはいないのだった。
 
 
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