お金目的で王子様に近づいたら、いつの間にか外堀埋められて逃げられなくなっていた……

うしまる

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二人の夜1

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「え。…………ぇぇええええ⁉︎ だだだだだ抱く⁉︎ 眠るって――」
「君が嫌だということは決してしない。この身に誓おう」
 言いながら王子は静かに跪いて、私の手をそっと優しく取っていく。
 足を上げたせいで、バスローブの重なりが少したわみ、王子の色気が隙間から溢れ出す。私は、色んな意味で目が潰れそうだった!
 誓うとか言われても……。
「どうか許して欲しい」
 しかし、王子のそれはまるで縋るような目で。
 いつでも自信に満ち溢れた王子が寂しげにすら見えてきた私は、胸がチクリとして手が払えなかった。
「駄目、だろうか……」
 取られた手がぎゅっと握られる。
 弱い私は、頭で言い訳を寄せ集め――
 ぎこちなくもその手を握り返してしまう。
 ――立場的に王子のお願いなんて断れるわけないし、とか。
 ――聞いておいた方が、後で自分の話も大目に見てもらえるかもしれないし、とか。
 ――そもそもフリなんだし、とか。
 王子を心配してのことじゃない。
 結局、流された方が楽だから。流されて良い方へと行けば満足だし、悪い方に行けば逃げる。それが一番楽なのだ。
 だから、王子の打算めいていないその手は重かった。
 私はパーティーでの一件を全然学んでない。
 早く、王子と話さなければ――
 手の甲にはキスを落とされる。
 私はそれを、えも言われぬ複雑な気持ちで見つめていた。

 ――なんて冷静でいられたのは一瞬でした。
 あの後私を引き寄せた王子は、軽々と横に抱きかかえ、そのままベッドへダイブイン!
 私は今、王子に後ろから抱き抱えられる形で横になっていた。
 その白く繊細な手指は、私の腹と胸に添えられて。バスローブ程度のささやかな防御力では抑えられない未知の感触と体温が、私を軽く失神させかけていた。
 そしてなによりも油断ならないものが――
「……」
 無言! しかし、首元にそよそよ襲いかかってくる吐息!
 熱い身体を冷ますようにかかる吐息それは、むしろ私の熱を煽っていた。
 だ、ダメだ! 控えめに言って死にそう……!
「ああああの……っ」
「ん?」
「ここっ、これは――」
 一体どれくらいこうしていればって聞きたかった。
 けれど――
「鼓動が早いね。緊張してるの?」
 上手……。王子の方が、遥かに上手だった。
 容易くかわされた挙句、もっとハードモードになっていく。
 ふわっとした感じだった手はピッタリくっついて。その手が少しでも動きようものなら肘鉄しちゃいそう!
 だれも彼もが王子みたいに余裕があるわけじゃないんですよ! って叫びたかった。
「そ、そりゃ、イルヴィス様はこんなのくらい慣れっこかもしれませんが……」
 モテるしモテるしモテるし、ね。
「まさか。僕だってうるさいくらいに心臓が脈打ってるよ」
 嘘だ……。絶対後ろでニヤニヤしているに違いない。
 その証拠に今、ちょっと笑ってた。
 なんせ、吐息が多めにかかったからね!
「それは……、嘘ですよね」
 とはいえ、おずおず意見する。
「本当だよ。なんなら、触ってみる?」
「さ! さわっ……触って⁉︎」
 いやいやいや、それは無理でしょ……。
 当然首を振る。
「そうか。それは残念だね」
 あっ、また笑ってる!
 本当は元気なんじゃないか、この人。
 とにかく、このままの王子ペースはダメすぎる。なにか話を逸らさなきゃ。
 そうだ、ちょうど良い機会だし……。
「あ、あのっ! 私もひとつ聞いていただきたいことがあって……」
「なに?」
「フリの話なんですが……!」
 結構勇気を振り絞った。喉に一枚膜が張られたみたいにつっかえていた言葉を、勢いと雰囲気だけで吐き出して。ええい、このまま全部言っちゃおう! って思っていた。
 けど……。
「フリ?」
 王子は、まるで初めて聞いた言葉のように繰り返した。
「……こ、恋人のフリ」
 ささやかながらも言い直してみれば――
「あぁ、そういうことか」
 今度は、閃いたような声が放たれる。
「え⁉︎ そういうことってどういう……」
「いや、こっちの話だよ。気にしないで続けて」
「あ……、はい」
 見るからに噛み合っていない話を強引に整えられ、『気にしないで』でまとめられた私はなにも言うことができなかった。
 とはいえ、だからといってここで止めるわけにもいかない。
 続けてとまで言われたのだからと、私はおっかなびっくり口を開いていった。
「そ……、それでですね。私たちは、あまりその件について、話し合いができていないと思いまして。やっぱり協力をする以上、互いの最終目標とか計画みたいのは知っておいた方が良いかなぁ、と思うのです。恋人のフリにも、その……。程度とか、内容とかって結構色々ありますし……」
 とどのつまり、パーティーの惨事みたいなことを繰り返したくない。それが全てだった。
「なるほどね。それは勿論、賛成だよ」
 王子の明るい声に安堵する。
 さっきは一度、『恋人のフリ』云々で声のトーンが僅かに落ちたから、少しドギマギしていたのだ。
 表情が見えないって難しい。……いや、見えても王子のことはよく分からないけど。
 とにかく、賛成を貰った私は少し気分も上がり、緊張を抱えながらも進めていく。
「……で、でしたら先ずは私からお話しさせていただきますね!」
 そうして、私はなんと無礼極まりない、あまりに打算的な私欲まみれの言い訳を王子へと告げていった。

 
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