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真偽の望眼1

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「って、いや普通に無理です」
 そんな私の制止を華麗にかわしながら、淡々と告げられたジルさんの話というのは――
「大丈夫ですよ。世の理を書き換えると言っても、要は『時を戻そうとしている』というだけですから」
 ……なにが大丈夫なのか全く分からない!
「というか、そもそもそんなことできるんですか……?」
 いくらご都合主義の魔法だって、あちこちでホイホイ時を戻してたら、世の中ぐちゃぐちゃになりそうなものだけど……。
真偽の望眼しんぎのぼうがんという魔導具があります」
「……しんぎのぼーがん?」
 我ながら、なんとも阿呆っぽい声が出た。
 しかし、ジルさんはそんな私をチラ見に無視で続けていった。
「はい。それは、偽るものを正しく表し、正しいものを偽りにするという、極めて特殊な術が込められたものです。この力があれば、例えこの正しく流れる時間軸であっても、望む偽りへと変えていくことくらいは造作もないことでしょう。
 ちなみに、セクリー卿の同化魔法をイルヴィス様が破ったのも、この力の恩恵ですね」
「あぁ……!」
 だからか! 
 思わず手を叩いて合致した。
 なんで見えたの? って思ってた時より、王子に対する得体の知れなさとが幾分減った気がした。
 王子は実は千里眼なんです! とか言われたら、正直、今後のフリも仲良くやれる自信なかったかも。普通に怖すぎて!
「あれ? でも、その時を戻すって、やっちゃうとなにか良くないことでもあるんですか?」
 確かに二度目だから、王子無双にはなりそうだけど……。
 首を傾げていれば、ジルさんは窓外に見える景色を目で追いつつ。心なしか、少し重たくなった声色で、
「この力はとても強大ゆえ、ひとつ大きな対価を必要とされるのです」と。
「対価……ですか?」
 思わず固唾を呑む。
 雰囲気に呑まれやすいのは、私の悪い癖だ。
 そして、そんな私にジルさんは静かに言葉を落としていく。
 
「はい、使用者の命を使うのです」

 なんて、そんなヘビー級に重たい言葉を。
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