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王子の思い出1
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「もう夕暮れか……」
茜色に染まる空の下。
イルヴィスは、天を仰ぎながらバルコニーの柵に腰掛けていた。
その手には、美しい漆黒と琥珀の石を伴った首飾りが握られていて。表情は、どこか寂しげなものだった。
ゆっくりと瞳を閉じる。
そして、首飾りをそっと胸にあてがった。
「願わくば、また彼女と出会わんことを――」
その声は、静かな空へと消えていった。
小さく息を吐く。切なげな笑みを浮かべた。
「…………君は、最期まで僕に与えてくれるんだね。『恐怖』なんて、初めて感じる感情だよ。ましてや神頼みなんて――」
振り返り、視線を湖へと落としていく。
「――いや、それは違うか。神にはきっと、ずっと願っていたんだろうな」
ふっと笑ったイルヴィスは、過去のことを思い出す。
ミラを初めて見つけた、あの時のことを――
彼女に出会う前の僕といえば、良く言えば大人びてる、悪く言えばつまらない、それが正しい形容の子供だった。
物心ついた頃から要領が良く、飲み込みが早かったのもあって成果を残すことに長けていた。だから、兄同様『天才』という評価を容易く得ることになり、どこか世を達観し、冷めた所があったのだ。
いつだったか兄は、王になると言っていた。そして、その為に勉学に武術に魔法に社交等々、乏しい表情ながらも『必死』というものが見て取れる姿で取り組んでいた。
だから、それが兄の目標なのだろうと、僕は常々感心をしていた。
何故なら、僕には目標はありはしなかったから。
同じ『天才』であれ、それは似て非なるもの。兄はその力を、国の為に行使したいと望んで励み。僕といえば、なんの希望も目標も――興味すらをも持てぬまま、つまらない日々を淡々と過ごしていたのだ。
茜色に染まる空の下。
イルヴィスは、天を仰ぎながらバルコニーの柵に腰掛けていた。
その手には、美しい漆黒と琥珀の石を伴った首飾りが握られていて。表情は、どこか寂しげなものだった。
ゆっくりと瞳を閉じる。
そして、首飾りをそっと胸にあてがった。
「願わくば、また彼女と出会わんことを――」
その声は、静かな空へと消えていった。
小さく息を吐く。切なげな笑みを浮かべた。
「…………君は、最期まで僕に与えてくれるんだね。『恐怖』なんて、初めて感じる感情だよ。ましてや神頼みなんて――」
振り返り、視線を湖へと落としていく。
「――いや、それは違うか。神にはきっと、ずっと願っていたんだろうな」
ふっと笑ったイルヴィスは、過去のことを思い出す。
ミラを初めて見つけた、あの時のことを――
彼女に出会う前の僕といえば、良く言えば大人びてる、悪く言えばつまらない、それが正しい形容の子供だった。
物心ついた頃から要領が良く、飲み込みが早かったのもあって成果を残すことに長けていた。だから、兄同様『天才』という評価を容易く得ることになり、どこか世を達観し、冷めた所があったのだ。
いつだったか兄は、王になると言っていた。そして、その為に勉学に武術に魔法に社交等々、乏しい表情ながらも『必死』というものが見て取れる姿で取り組んでいた。
だから、それが兄の目標なのだろうと、僕は常々感心をしていた。
何故なら、僕には目標はありはしなかったから。
同じ『天才』であれ、それは似て非なるもの。兄はその力を、国の為に行使したいと望んで励み。僕といえば、なんの希望も目標も――興味すらをも持てぬまま、つまらない日々を淡々と過ごしていたのだ。
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