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お風呂1

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 ちゃぽ――ん、と。
 広い浴室に湯の滴る音が響き渡る。
 かくしてここは、王室大湯殿である。
 先先代の王妃様が愛した愛さなかったとか、初代王様が作ったとか作らなかったとか、そんな歴史深い場所に私は王子と二人きり。
 ぽっかり空いた風呂の中に浸かっていた。
 ちなみに、私の手首にはしっかりお風呂専用ブレスレットが装着されているわけだけど。それでも王子特注プラチナチェーンの長さが結構あったので、私は王子と対角に居座るように縮こまっていた。
 ちょっと腕を動かすだけで、石にチェーンが当たってカラカラと音がする。
 チェーンの先は浴槽横にある女神像に脚に括り付けてあるのだ。
 なんの女神か知らないけど、いいのかなぁと思う。できればバチは私でなくて王子にしてくださいとも思ってしまう。
 王子といえば、拘束可否は私の体格上抜け出せる場所があるかどうかが基準らしい。
 とはいえ、この場にある抜け道といえば、割と高めに設置された大きな窓くらい。そこからは心地良い陽差しが差し込んでいるわけだけど、ここは四階だ。どうあっても逃げ出せるわけがない。
 絶対に拘束なんかいらないはずなのに。
 私は開け方すら分からないような窓を眺めつつ、そもそもあの窓開くのか……? なんて訝しむ。
 すると、王子からはふふっと愉しげな笑い声が飛んできた。
「早速、逃げようかなとか思ってるの?」
 大きい浴槽なので距離はそこそこある。
 けれど、二人っきりの静かな空間によく響いて、その声はやたらと艶っぽく耳を掠めていった。
「……まさか。大体、逃げ道なんてないじゃないですか」
 私は、抱えた膝に顔を俯かせ、ちょっとだけ減らず口を叩いてみた。
 けれど、尚も王子は嬉々として
「あぁ、あの窓なら裏にあるレバーで開閉できるよ」
 なんてアドバイスを私に授けてくる。ついでに、
「これで脱出できちゃうね」
 とか悪魔の囁きを……って。
「扉だって、ジルさんと数名の兵が固めてるって、さっきイルヴィ様が仰ってたじゃないですか」
 罠にかけようったってそうはいかないぞ、と警戒心剥き出しだ。
 ちなみに、名前は時を戻す戻さないの一件の後、『名前、戻ってたね』とそっと囁かれたので恐ろしくて元に戻した。
 王子は、本気でこの名をミドルネームに添えるつもりらしい。只今、親族に掛け合い中と言っていた。
 一体、どんな理由で相談してるんだ……。
 私の名前とか出さないでくれよ。
 とか思っていると、王子から。
「でも、君ならそれくらい、みぞおちを突いて逃げ出しそうだよね」と。
「んなわけあるか!」
 しまった、つい本音が!
 ついでに、思いっきり突っ込んだせいでずっと見ないように逸らしていた王子の姿を直視してしまう。
 なにを隠そう、王子は素っ裸――ではなく、ヒタヒタに湯を吸った半透けの湯着を召していた。
 なんなら、お色気レベルでいったら裸より上なんじゃ……?
 髪なんか掻き上げちゃってさ……。
 思わず息を呑んで固まる私を、王子は満足げに笑った。
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