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誘拐
入れ替わり
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「わぁぁ! 本当にマルコル様ですか⁉︎ すごい! すごい!」
目の前ではしゃぐマルコル姿のミラは、入れ替わりに大層興奮しているようで、その顔は喜色満面に彩られていた。
うん……、非常に複雑だな。
それに引き換え、隣の悪魔は最悪だ。
事情を知っている癖に、平然を装って。僕が視線を送れば、気持ちの悪い笑みを向けてくる。
ダメだ、心が腐っていきそうだ。ミラを見よう。ミラだけを見て、癒されよう。
まずい、こっちもマルコルだった。
自然と顔がゲンナリする。
と、そこでジルが。
「ハーセン卿、宜しければこちらを」
部屋にあるドレッサーの鏡が開けられる。
なるほど……!
僕は足早に近づいた。
そこには、紛うことなきミラがいた。
「ミラだ!」
叫べばクスクスと。近づいてきていたミラが笑っていた。
「なんか面白いですよねぇ」
優しい笑みだった。
くそっ。これが、ちゃんとミラだったら……。
嬉しいような苦いような、極めて微妙な感情に巻かれていく。
もういい、さっさとここから出よう。
頭がおかしくなりそうだ。
「では、この後はどうしましょうか。まずは、やはり着替えでしょうか……」
言ってからハッとする。
まずい! この状況で着替えたら……。
頭の中に、あらゆる願望が湧いてくる。
触り放題……?
色んな格好させ放題……⁉︎
つい頬が緩む。そんなところを、ミラが覗き込んだ。
「な、なんでしょうか……?」
「ふふっ……。やっぱり普段着ない服って、ちょっとワクワクしますよね。マルコル様が笑ってらしたので、同じなんだなと思いまして」
「あ、あぁ……。そうですね、女性の服を着るなんて滅多にないことですから」
「ですよね。折角なので、そういうのも楽しんでくださいね! 実は、マルコル様は嫌々なんじゃないかって思ってたんです。だから、少しでも楽しんでいただけたら、私はとても嬉しいです」
ミラが少し困ったように笑う。
彼女が戸惑っていることには気が付いていた。けれど、自分も同じように、どうすれば良いのか戸惑っていたから中途半端な対応になってしまっていたのだ。
可哀想なことをしたかも知れない、と思う。
「…………ごめんね」
小さく呟いた。ミラは聞き取れなかったようで、小首を傾げている。
僕は、頭を切り替えた。
「では、私は着替えてまいります。それから、先ほどイルヴィス殿下がこちらへ戻っておられるという旨を聞きましたので、早速足を運んでみようと思います」
言えば、ミラはニッコリと。
「はい! 頑張ってくださいね!」
拳をギュッと握ってガッツポーズを見せられる。それから――
「大丈夫ですよ! ちょっと、常人には理解できない目に遭うかもしれませんが、困った時にはジルさんにウインクしてください! 助けてもらえるよう頼んでおきますね!」と。
え……。僕がこの悪魔にウインク……?
想像してゾッとする。
ミラには苦笑いを返しておいた。
「では、私は一度こちらで……」
背を向ける。名残惜しいような気持ちがある。
折角彼女に近づけたのに……、と。
振り向きたい気持ちをグッと堪えた。
ジルの前に立つ。ジルはニコリと笑って誘導して、
「では、ミラ様はごゆっくり。くれぐれもミラ様のお身体でおかしな事をされませんよう、目を光らせておきますね」
そんな余計なことを言って部屋を出た。
閉める直前、「大袈裟だなぁ」なんてミラの呟きが聞こえたような気がした。
そんな僕は、前を向き。
さっさと邪魔者を片付けに行こうと、強く足を進めていった。
目の前ではしゃぐマルコル姿のミラは、入れ替わりに大層興奮しているようで、その顔は喜色満面に彩られていた。
うん……、非常に複雑だな。
それに引き換え、隣の悪魔は最悪だ。
事情を知っている癖に、平然を装って。僕が視線を送れば、気持ちの悪い笑みを向けてくる。
ダメだ、心が腐っていきそうだ。ミラを見よう。ミラだけを見て、癒されよう。
まずい、こっちもマルコルだった。
自然と顔がゲンナリする。
と、そこでジルが。
「ハーセン卿、宜しければこちらを」
部屋にあるドレッサーの鏡が開けられる。
なるほど……!
僕は足早に近づいた。
そこには、紛うことなきミラがいた。
「ミラだ!」
叫べばクスクスと。近づいてきていたミラが笑っていた。
「なんか面白いですよねぇ」
優しい笑みだった。
くそっ。これが、ちゃんとミラだったら……。
嬉しいような苦いような、極めて微妙な感情に巻かれていく。
もういい、さっさとここから出よう。
頭がおかしくなりそうだ。
「では、この後はどうしましょうか。まずは、やはり着替えでしょうか……」
言ってからハッとする。
まずい! この状況で着替えたら……。
頭の中に、あらゆる願望が湧いてくる。
触り放題……?
色んな格好させ放題……⁉︎
つい頬が緩む。そんなところを、ミラが覗き込んだ。
「な、なんでしょうか……?」
「ふふっ……。やっぱり普段着ない服って、ちょっとワクワクしますよね。マルコル様が笑ってらしたので、同じなんだなと思いまして」
「あ、あぁ……。そうですね、女性の服を着るなんて滅多にないことですから」
「ですよね。折角なので、そういうのも楽しんでくださいね! 実は、マルコル様は嫌々なんじゃないかって思ってたんです。だから、少しでも楽しんでいただけたら、私はとても嬉しいです」
ミラが少し困ったように笑う。
彼女が戸惑っていることには気が付いていた。けれど、自分も同じように、どうすれば良いのか戸惑っていたから中途半端な対応になってしまっていたのだ。
可哀想なことをしたかも知れない、と思う。
「…………ごめんね」
小さく呟いた。ミラは聞き取れなかったようで、小首を傾げている。
僕は、頭を切り替えた。
「では、私は着替えてまいります。それから、先ほどイルヴィス殿下がこちらへ戻っておられるという旨を聞きましたので、早速足を運んでみようと思います」
言えば、ミラはニッコリと。
「はい! 頑張ってくださいね!」
拳をギュッと握ってガッツポーズを見せられる。それから――
「大丈夫ですよ! ちょっと、常人には理解できない目に遭うかもしれませんが、困った時にはジルさんにウインクしてください! 助けてもらえるよう頼んでおきますね!」と。
え……。僕がこの悪魔にウインク……?
想像してゾッとする。
ミラには苦笑いを返しておいた。
「では、私は一度こちらで……」
背を向ける。名残惜しいような気持ちがある。
折角彼女に近づけたのに……、と。
振り向きたい気持ちをグッと堪えた。
ジルの前に立つ。ジルはニコリと笑って誘導して、
「では、ミラ様はごゆっくり。くれぐれもミラ様のお身体でおかしな事をされませんよう、目を光らせておきますね」
そんな余計なことを言って部屋を出た。
閉める直前、「大袈裟だなぁ」なんてミラの呟きが聞こえたような気がした。
そんな僕は、前を向き。
さっさと邪魔者を片付けに行こうと、強く足を進めていった。
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