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誘拐
断罪風呂1
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ちゃぽ――ん、と。
客用浴室に湯の滴る音が響き渡る。
かくしてここは、一人用の浴槽である。
そんな中に、私と王子、絶対に容量オーバーな感じで脚なんかを触れ合わせつつ、向かい合って座っていた。
ちなみに、私の手首には当たり前のようにお風呂専用ブレスレットがつけられており、そこに繋がるチェーンの先は女神像――ではなく。喜色満面の王子によって絡め取られていたりする。
恥ずかしい……。
恥ずかしすぎる……。
今回悪いことしてないのに……。
そんなことばかりが頭を回転する。
できるだけ、湯着を羽織った身体を丸め込んだ。
幸いなのは、湯量がそこまでタプタプじゃないってこと。湯着があんまり濡れずに済んでいる。
「ねえ、それだとお仕置きにならないんだけど」
愉悦に満ちた王子の声が飛んでくる。
ついでに、チェーンもクイックイッと引っ張られた。
とはいえ、意地でも動かさない。浴槽の縁に掴まって腕にグッと力を籠めた。
「お、お仕置きって。今回は、なにも悪いことしてないじゃないですか!」
イルヴィス条約――異性との接触禁止やらについては、今回不問だと思っている。
何故なら、私は曲がりなりにも『誘拐』されたから! 命を守る大切な行為なはずなのだから!
しかし、王子は「え――、本当に?」と。
やたらと意味ありげな声を出してきたりする。
騙されるな、騙されるな! これが奴の手口なんだ!
心を強く持って頷いた。
「勿論です! 神に誓って後ろめたいことはありませんよ!」
言ってから、『あ、ちょっと言いすぎたかな……』とか思ったりする。けれど、隙を見せては終わりだと、唇をキツく結んだ。
すると王子は何故か、ははっと愉快げに笑い出す。
サイコパスか……? とか思いつつ。
「な……、なんですか?」
恐ろしいので尋ねてみれば、王子は髪を掻き上げながらも、
「神とかいいから、僕に誓ってよ」と。
よく分からないので首を傾げれば、
「後ろめたいことがないなら、僕に誓って。それで、もし嘘だったら、僕のいうことなんでも聞いて」
そんなことを言ってきた。
一瞬固まる。
後ろめたいことあったかな……。
ちょっだけならあったよなぁ……。
マルコルに王子の技を盗ませたりしようとしたなぁ、とか。
王子の元に帰りたくなくて、お兄さんと一瞬結託しちゃったなぁ、とか。
そんなことが蘇ってくる。
悩む。頭をグルグル悩ませる。
そんな間にも「あれ? やっぱり悪いことしたのかな?」とか変態王子は煽ってくる。
これが奴の性癖だ!
そう割り切って無視を決め込み、ややあって解答を得た。
でもそれ、王子は知らないじゃん! と。
一緒にいたのはあくまでマルコルとお兄さんで。私を『療養中(笑)』にして、ハーレムうはうはで楽しんでただろう王子は知らないはずじゃん! と。
いける! 私は確信を得た。
かつてない自身だった。勝てると思って、自身満々の笑みで王子に顔を向けた。
……けど、またも色気メーターが振り切れ気味の王子は私には刺激が強すぎたので、すぐに顔を戻すことになる。
こんにちは、壁。
「別にそれでも私は構いませんけど」
震えないよう、ちょっと大きめの声で言ってみた。
ちょっと沈黙があった。
どうせ王子も、根拠なく揺すってたんだろうと思ったりした。
けれど――
「……それ、もう取り消せないからね?」
そんな言葉が聞こえてしまった。
客用浴室に湯の滴る音が響き渡る。
かくしてここは、一人用の浴槽である。
そんな中に、私と王子、絶対に容量オーバーな感じで脚なんかを触れ合わせつつ、向かい合って座っていた。
ちなみに、私の手首には当たり前のようにお風呂専用ブレスレットがつけられており、そこに繋がるチェーンの先は女神像――ではなく。喜色満面の王子によって絡め取られていたりする。
恥ずかしい……。
恥ずかしすぎる……。
今回悪いことしてないのに……。
そんなことばかりが頭を回転する。
できるだけ、湯着を羽織った身体を丸め込んだ。
幸いなのは、湯量がそこまでタプタプじゃないってこと。湯着があんまり濡れずに済んでいる。
「ねえ、それだとお仕置きにならないんだけど」
愉悦に満ちた王子の声が飛んでくる。
ついでに、チェーンもクイックイッと引っ張られた。
とはいえ、意地でも動かさない。浴槽の縁に掴まって腕にグッと力を籠めた。
「お、お仕置きって。今回は、なにも悪いことしてないじゃないですか!」
イルヴィス条約――異性との接触禁止やらについては、今回不問だと思っている。
何故なら、私は曲がりなりにも『誘拐』されたから! 命を守る大切な行為なはずなのだから!
しかし、王子は「え――、本当に?」と。
やたらと意味ありげな声を出してきたりする。
騙されるな、騙されるな! これが奴の手口なんだ!
心を強く持って頷いた。
「勿論です! 神に誓って後ろめたいことはありませんよ!」
言ってから、『あ、ちょっと言いすぎたかな……』とか思ったりする。けれど、隙を見せては終わりだと、唇をキツく結んだ。
すると王子は何故か、ははっと愉快げに笑い出す。
サイコパスか……? とか思いつつ。
「な……、なんですか?」
恐ろしいので尋ねてみれば、王子は髪を掻き上げながらも、
「神とかいいから、僕に誓ってよ」と。
よく分からないので首を傾げれば、
「後ろめたいことがないなら、僕に誓って。それで、もし嘘だったら、僕のいうことなんでも聞いて」
そんなことを言ってきた。
一瞬固まる。
後ろめたいことあったかな……。
ちょっだけならあったよなぁ……。
マルコルに王子の技を盗ませたりしようとしたなぁ、とか。
王子の元に帰りたくなくて、お兄さんと一瞬結託しちゃったなぁ、とか。
そんなことが蘇ってくる。
悩む。頭をグルグル悩ませる。
そんな間にも「あれ? やっぱり悪いことしたのかな?」とか変態王子は煽ってくる。
これが奴の性癖だ!
そう割り切って無視を決め込み、ややあって解答を得た。
でもそれ、王子は知らないじゃん! と。
一緒にいたのはあくまでマルコルとお兄さんで。私を『療養中(笑)』にして、ハーレムうはうはで楽しんでただろう王子は知らないはずじゃん! と。
いける! 私は確信を得た。
かつてない自身だった。勝てると思って、自身満々の笑みで王子に顔を向けた。
……けど、またも色気メーターが振り切れ気味の王子は私には刺激が強すぎたので、すぐに顔を戻すことになる。
こんにちは、壁。
「別にそれでも私は構いませんけど」
震えないよう、ちょっと大きめの声で言ってみた。
ちょっと沈黙があった。
どうせ王子も、根拠なく揺すってたんだろうと思ったりした。
けれど――
「……それ、もう取り消せないからね?」
そんな言葉が聞こえてしまった。
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