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異能者同士の恋
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「まあ、お茶もまともに淹れられないなんて、とんだ穀潰しですこと!」
「ご、ごめんなさい!」
明治初頭の、とある屋敷での出来事だった。
妹である桜子の部屋にお茶を持って行った私は、差し出した湯呑みを放り投げられる。病弱で美しい妹は、両親からも愛されていて、好き放題をしていた。それに比べて私は、先妻によく似ていることから、あまり良く思われていなかった。
そして私が床を拭く中、母からさらに耳の痛い説教を受ける。
「いいですか、美緒。武者小路家の娘として、あなたは家紋に恥じない人間におなりなさい。お茶ひとつ淹れられないなんて、桔梗院家の当主様が知れば、きっと今回の縁談も破断になりますわよ」
ほほほ、と独特な笑い方で私を見下ろす目は、いかにもな悪人ヅラ——ではなくて、やや嬉しそうな顔をしている。どうやら私の嫁ぎ先が決まったのが嬉しいらしい。先方は美しい妹をご所望だったけど、妹が嫌がったので、私が身代わりで嫁ぐことになった。こんなことは前代未聞である。
きっと、バレたら大変なことになるに違いない。異能持ちで有名な当主様は、とても恐ろしい御方だと聞いていた。だけど、発言権のない私には、反論する余地はなかった。
いつかバレて、殺されてしまうとなれば、私はなんのために生まれてきたのだろう。悲しいかな、短い人生でした。
————なんつって。
実はお義母様や妹には内緒にしていたけど、私にも異能がある。それは未来を視るというもので、そのおかげでこれまでなんとかこの家で生きながらえてきたのである。だから今日も、私は未来を視る。
方法は簡単だった。寝る前に祈りを捧げるだけである。たったそれだけで、今日も私は未来を視ることができた。
そして私が今回見た未来、それは——なぜか平成だった。平成は夢のようだった。おもちゃを買い求めて行列をなす人々に、雪のような色をした、こりこり食感のナタデココ。そしてその頃には、遠くであっても会話ができる携帯電話なるものがあった。
私は自分の置かれている状況も忘れて興奮した。平成という未来を知った以上、これを取り入れないわけにはいかなかった。
そして平成で頭をいっぱいにした私は、他の未来を視ることもなく、結局なんの解決策も考えないまま祝言当日を迎えた。
***
「ふふふ、これでうちの厄介者は追い払えたわ」
宴席で桜子が口元を押さえる。その姿は、晴れやかで、まるで花嫁を食い物にでもするのかと思うほど、華美だった。
だが隣にいる母親もそんな娘を窘めることはなく。ほほほ、と独特な笑い方で佇んでいる。義理の娘の嫁入りがよほど嬉しかったのだろう。そのうち笑い声が高くなり、周囲はガン見していた。
そしていざ、花嫁が登場する——となったわけだが。なぜか美緒はなかなか登場せず。しまいには客席がざわつきはじめる中、ようやく襖が開いた。
かと思えば——。
「チョリーッス! みんな、高まってるぅ?」
出てきたのは、桃色の短い着物に身を包んだ少女だった。しかも何やら顔色がわからないほど化粧が濃く、髪は異国人のごとく金髪だった。
客席が呆気にとられて声を出せない中、花嫁——美緒はいきなり踊り始める。ほとんど手しか動かない奇怪な踊りを披露する中、怒りに震えた義母が立ち上がる。そしてビシッと指を差して何か言おうとしたその時だった。
反対側の襖も開いた。
「マジ、リスペクト!」
袴姿だが、肩までの野暮ったい金髪に濃い化粧。
平成ギャル男の登場だった。
だが美緒は直感で彼が何者かを瞬時に悟る。
平成を知ることができるのは、異能を持つ者だけ。ということは、この平成ギャル男は結婚相手である桔梗院家の当主だろう。
出会うなり見つめ合った二人に、電流のようなものが走る。
そして祝言は新郎新婦のパラパラで、テンアゲでワッショイなぱーりーないとが繰り広げられたのだった。
「ご、ごめんなさい!」
明治初頭の、とある屋敷での出来事だった。
妹である桜子の部屋にお茶を持って行った私は、差し出した湯呑みを放り投げられる。病弱で美しい妹は、両親からも愛されていて、好き放題をしていた。それに比べて私は、先妻によく似ていることから、あまり良く思われていなかった。
そして私が床を拭く中、母からさらに耳の痛い説教を受ける。
「いいですか、美緒。武者小路家の娘として、あなたは家紋に恥じない人間におなりなさい。お茶ひとつ淹れられないなんて、桔梗院家の当主様が知れば、きっと今回の縁談も破断になりますわよ」
ほほほ、と独特な笑い方で私を見下ろす目は、いかにもな悪人ヅラ——ではなくて、やや嬉しそうな顔をしている。どうやら私の嫁ぎ先が決まったのが嬉しいらしい。先方は美しい妹をご所望だったけど、妹が嫌がったので、私が身代わりで嫁ぐことになった。こんなことは前代未聞である。
きっと、バレたら大変なことになるに違いない。異能持ちで有名な当主様は、とても恐ろしい御方だと聞いていた。だけど、発言権のない私には、反論する余地はなかった。
いつかバレて、殺されてしまうとなれば、私はなんのために生まれてきたのだろう。悲しいかな、短い人生でした。
————なんつって。
実はお義母様や妹には内緒にしていたけど、私にも異能がある。それは未来を視るというもので、そのおかげでこれまでなんとかこの家で生きながらえてきたのである。だから今日も、私は未来を視る。
方法は簡単だった。寝る前に祈りを捧げるだけである。たったそれだけで、今日も私は未来を視ることができた。
そして私が今回見た未来、それは——なぜか平成だった。平成は夢のようだった。おもちゃを買い求めて行列をなす人々に、雪のような色をした、こりこり食感のナタデココ。そしてその頃には、遠くであっても会話ができる携帯電話なるものがあった。
私は自分の置かれている状況も忘れて興奮した。平成という未来を知った以上、これを取り入れないわけにはいかなかった。
そして平成で頭をいっぱいにした私は、他の未来を視ることもなく、結局なんの解決策も考えないまま祝言当日を迎えた。
***
「ふふふ、これでうちの厄介者は追い払えたわ」
宴席で桜子が口元を押さえる。その姿は、晴れやかで、まるで花嫁を食い物にでもするのかと思うほど、華美だった。
だが隣にいる母親もそんな娘を窘めることはなく。ほほほ、と独特な笑い方で佇んでいる。義理の娘の嫁入りがよほど嬉しかったのだろう。そのうち笑い声が高くなり、周囲はガン見していた。
そしていざ、花嫁が登場する——となったわけだが。なぜか美緒はなかなか登場せず。しまいには客席がざわつきはじめる中、ようやく襖が開いた。
かと思えば——。
「チョリーッス! みんな、高まってるぅ?」
出てきたのは、桃色の短い着物に身を包んだ少女だった。しかも何やら顔色がわからないほど化粧が濃く、髪は異国人のごとく金髪だった。
客席が呆気にとられて声を出せない中、花嫁——美緒はいきなり踊り始める。ほとんど手しか動かない奇怪な踊りを披露する中、怒りに震えた義母が立ち上がる。そしてビシッと指を差して何か言おうとしたその時だった。
反対側の襖も開いた。
「マジ、リスペクト!」
袴姿だが、肩までの野暮ったい金髪に濃い化粧。
平成ギャル男の登場だった。
だが美緒は直感で彼が何者かを瞬時に悟る。
平成を知ることができるのは、異能を持つ者だけ。ということは、この平成ギャル男は結婚相手である桔梗院家の当主だろう。
出会うなり見つめ合った二人に、電流のようなものが走る。
そして祝言は新郎新婦のパラパラで、テンアゲでワッショイなぱーりーないとが繰り広げられたのだった。
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