闇鍋という名の短編集

悠木全(#zen)

文字の大きさ
26 / 108

異能者同士の恋

しおりを挟む
「まあ、お茶もまともに淹れられないなんて、とんだ穀潰しですこと!」

「ご、ごめんなさい!」 

 明治初頭の、とある屋敷での出来事だった。
 妹である桜子の部屋にお茶を持って行った私は、差し出した湯呑みを放り投げられる。病弱で美しい妹は、両親からも愛されていて、好き放題をしていた。それに比べて私は、先妻によく似ていることから、あまり良く思われていなかった。
 そして私が床を拭く中、母からさらに耳の痛い説教を受ける。

「いいですか、美緒みお武者小路むしゃのこうじ家の娘として、あなたは家紋に恥じない人間におなりなさい。お茶ひとつ淹れられないなんて、桔梗院ききょういん家の当主様が知れば、きっと今回の縁談も破断になりますわよ」

 ほほほ、と独特な笑い方で私を見下ろす目は、いかにもな悪人ヅラ——ではなくて、やや嬉しそうな顔をしている。どうやら私の嫁ぎ先が決まったのが嬉しいらしい。先方は美しい妹をご所望だったけど、妹が嫌がったので、私が身代わりで嫁ぐことになった。こんなことは前代未聞である。
 きっと、バレたら大変なことになるに違いない。異能持ちで有名な当主様は、とても恐ろしい御方だと聞いていた。だけど、発言権のない私には、反論する余地はなかった。
 いつかバレて、殺されてしまうとなれば、私はなんのために生まれてきたのだろう。悲しいかな、短い人生でした。

 ————なんつって。

 実はお義母様や妹には内緒にしていたけど、私にも異能がある。それは未来を視るというもので、そのおかげでこれまでなんとかこの家で生きながらえてきたのである。だから今日も、私は未来を視る。
 方法は簡単だった。寝る前に祈りを捧げるだけである。たったそれだけで、今日も私は未来を視ることができた。

 そして私が今回見た未来、それは——なぜか平成だった。平成は夢のようだった。おもちゃを買い求めて行列をなす人々に、雪のような色をした、こりこり食感のナタデココ。そしてその頃には、遠くであっても会話ができる携帯電話なるものがあった。
 私は自分の置かれている状況も忘れて興奮した。平成という未来を知った以上、これを取り入れないわけにはいかなかった。

 そして平成で頭をいっぱいにした私は、他の未来を視ることもなく、結局なんの解決策も考えないまま祝言当日を迎えた。



 ***



「ふふふ、これでうちの厄介者は追い払えたわ」

 宴席で桜子が口元を押さえる。その姿は、晴れやかで、まるで花嫁を食い物にでもするのかと思うほど、華美だった。
 だが隣にいる母親もそんな娘を窘めることはなく。ほほほ、と独特な笑い方で佇んでいる。義理の娘の嫁入りがよほど嬉しかったのだろう。そのうち笑い声が高くなり、周囲はガン見していた。
 そしていざ、花嫁が登場する——となったわけだが。なぜか美緒はなかなか登場せず。しまいには客席がざわつきはじめる中、ようやく襖が開いた。

 かと思えば——。

「チョリーッス! みんな、高まってるぅ?」

 出てきたのは、桃色の短い着物に身を包んだ少女だった。しかも何やら顔色がわからないほど化粧が濃く、髪は異国人のごとく金髪だった。

 客席が呆気にとられて声を出せない中、花嫁——美緒はいきなり踊り始める。ほとんど手しか動かない奇怪な踊りを披露する中、怒りに震えた義母が立ち上がる。そしてビシッと指を差して何か言おうとしたその時だった。

 反対側の襖も開いた。

「マジ、リスペクト!」

 袴姿だが、肩までの野暮ったい金髪に濃い化粧。
 平成ギャル男の登場だった。
 だが美緒は直感で彼が何者かを瞬時に悟る。
 平成を知ることができるのは、異能を持つ者だけ。ということは、この平成ギャル男は結婚相手である桔梗院家の当主だろう。
 
 出会うなり見つめ合った二人に、電流のようなものが走る。
 そして祝言は新郎新婦のパラパラで、テンアゲでワッショイなぱーりーないとが繰り広げられたのだった。
しおりを挟む
感想 175

あなたにおすすめの小説

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...