闇鍋という名の短編集

悠木全(#zen)

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大嫌いな僕

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 小さいころから活発だった僕は、年齢が上がるとともに落ち着いて、気づけばクラスでも地味な人間になっていた。最初からそれを望んでいたわけではないけれど、それでもバカみたいに騒ぐくらいなら、根暗と呼ばれた方がマシだった。
 今の僕が陽キャになれるとは思っていないし、かといってなりたいとも思わない。騒いで楽しい時代はとっくに終わっているような気がした。そして静かに本を読んだり音楽を聴くことが僕にとって一番幸せな時間だった。
 だから僕は今日も窓際の席で愛読書の文庫を開く。空は見る人によって色が違う、というタイトルの本だった。なんていうか、すごく優しい物語で、疲れる日々を癒してくれるような気がした。
 そんな風に、僕が同じ本を繰り返し読んでいると、ふいに誰かが僕の机の傍に立った。クラス委員の山川くんだった。山川くんは僕とは違ってなんでもできる優等生だ。しかも誰に対しても平等に接していたから、ついたあだ名は先生だった。担任の教師よりも先生らしい感じがするからだ。
 そして山川くんは、僕のところにやってくると、消しゴムをポンと置いた。その無感情な顔に、僕はごくりと固唾を呑んだ。誰に対しても優しい山川くんだけど、なぜか僕に対してだけ冷たいような気がした。

 その夜、僕は夢を見た。

 なぜか僕が山川くんになった夢だった。
 山川くんは毎日誰からも頼られて忙しい生活を送っていた。僕と違い、山川くんは親や先生からたくさん期待されて、兄弟たちからも頼られて、幸せに見えていた——が、実際は幸せなんかじゃなかった。
 山川くんは良い人間のふりをしている、偽善者だった。本当はずっと誰に対しても心の中で悪態を吐いているし、勉強もしているふりしかしていない。それでも授業は真面目に聞いているので、成績はそれほど悪くはなかった。なんだか悲しい生活だった。

 山川くんになった僕は、山川くんの代わりに本音を言うことにした。
 先生が間違っている時も、面倒ごとを押し付けてくる女子にも容赦無く否定の言葉を放ってやった。すると、周りは山川くんになった僕を嫌いになり始める。けれど、僕はなんだか清々した気持ちになって、周りに本音をぶつけまくった。
 そうして僕がすっかりクラスの嫌われ者になったところで、目を覚ました。楽しい夢だった。これほどスッキリしたのはいつぶりだろうか。根暗で思ったことを素直に言えない僕が、山川くんになって、全てを壊すなんて楽しいに決まっている。
 それからご飯を食べて登校した僕は、いつものように窓際の席に座って、文庫を広げる。相変わらず、僕に寄ってくる人はいない。今日は山川くんもいないようで、僕に冷たい視線を向けることはなかった。
 だけど、放課後になって、帰り支度を始めた時だった。

「あの……ごめんなさい」

 クラスの女子がなぜか僕に謝罪した。僕はなんのことかわからず、首を傾げた。けど、女子は泣きそうな顔をしていたから、なんとなく気まずくなって「こっちこそごめんね」と言ってみた。とりあえず、クラスメイトと会話をしたくない僕は、それだけ言って逃げようとした。けど、僕の前に現れたのは、女子だけじゃなかった。
 先生が怒った顔をして僕のところにやってくると、「指導室へ来なさい」と言った。僕は先生が怒っている理由もわからなくて、理由を尋ねようとするけれど——先生は何も言わずにそのまま教室を出ていった。
 僕は胸の奥がヒヤリとした。まるで夢の中のようだった。山川くんの代わりに、文句をぶつけた女子に「ごめんなさい」と言われ、僕が怒りに任せて罵った先生に呼び出された。
 だったら、これは夢の続きなのかもしれない。そう思った矢先だった。

「あいつが呼び出されたぜ。いい気味だ」

 陽キャの男子たちが、僕を見て笑った。
 それから何事もなかったように帰り支度を始めた僕のところに、クラスメイトがやってくる。そしてその陰キャの少年は、僕に消しゴムが落ちていることを教えてくれた。

「落ちてたよ、山川くん」
 
 ふいに、昨日、消しゴムを届けてくれた山川くんの顔を思い出す。
 けど、記憶にあった山川くんが、まるでテレビのチャンネルを変えるように、姿を変えた。

 ————ああ、そうか。昨日消しゴムを届けてくれたのは、彼だっけ。

 そう、僕自身が山川だったのだ。
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