闇鍋という名の短編集

悠木全(#zen)

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面倒な埋蔵金

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 ある日、うちの庭から埋蔵金が出た。

 それは寒さが厳しい正月直前のお昼どきだった。
 庭を堀ったのはうちの小学二年生の息子だった。タイムカプセルを埋めるために、朝からせっせと土を掘り起こしていたのだが。それがまさか、埋蔵金の発掘に繋がるとは誰が思っただろう。
 息子が「こんなのが出たよ!」と木のなべ蓋のような物を見せた時は、なんのことだかわからず、適当に相槌を打ったのだが——息子がその下にある中身を持ってきた時、祖父があっと驚いて腰を抜かした。
 息子はわざわざ瓶の中にあった小判をピカピカに洗って見せつけたのだ。そしてそれが本当に埋蔵金だとわかったのは、一週間後のことだった。役所の調査を得てようやく埋蔵文化財と認められたそれは、江戸時代の天保小判というものだった。
 しかも江戸時代に埋めた物としては浅いので、後から誰かが埋め直した物らしい。
 平凡な主婦の私には価値がさっぱりわからないが、六ヶ月経っても所有者が現れない場合、所有権がうちに移るという。鑑定の結果、小判の総額は三千万円ほどだったが、届出を出したことでニュースになり、近所の人たちに埋蔵金のことが知られるようになった。

「 羽沢はざわさん、埋蔵金を発見したんですって? いいわねぇ」

 近所の人がやってくると、必ず埋蔵金の話になった。しかも周知されたことで、募金団体もよく来るようになった。三千万円といっても、うちの懐に入ったわけではないので、予定なのだが——世間的にはすでに手に入れたものとしてみなされてしまった。
 これには少々困惑した。連日やってくるのは、金を無心する人間ばかりだった。おまけに所有権を訴える人間が二十人ほどやってきたが——誰も権利を証明することはできず。気づけば一年が過ぎていた。
 その間、マスコミや動画配信者もひっきりなしにきて、芸能人になったわけでもないのに、まともに外に出られなくなってしまった。
 そしてようやく役所の手続きを経て埋蔵文化財が我が家の財産になった時には、うちの家族はすっかり疲弊しきって、何もかもが面倒くさくなっていた。

「羽沢さん、募金をお願いします」

 インターホンを押さずに叫ぶ募金団体に、私は辟易して顔も出さなかった。インターホンはすでに線を切っていた。こう毎日来られては、私もいちいち対応していられないのである。
 そして近所の人たちが、うちを通るたびにヒソヒソと声を出さずに噂するようになった。何を噂しているのかはわからないが、あまり良い雰囲気でないことはわかる。
 だから私は、なるべく近所の人に出くわさないように、夜遅くに出かけるようになった。
 
 私は噂が下火になるのを待った。いつか話題に飽きる時が来る。それは間違いないのだから。だが、近所づきあいをあまりしなくなったことで、いつの間にか近所の人たちはすっかり私の家には寄り付かなくなっていた。
 
「これは平和になったというべきなの?」

 ふいにリビングで湯呑みを手にため息を吐くと、向かいのソファに座っていた夫がテレビを見て笑いながら言った。

「いいじゃないか。近所づきあいなんて面倒だって言ってただろ?」

「でも、全くつきあいがないと、自治会の時困るのよ。近所の人とやりとりしないといけないこともあるんだから」

「へぇ、じゃあ引っ越すか?」

「この家を売ったところで二束三文でしょ? 埋蔵金のお金を合わせても、新しい家を買うのは大変だわ」

「じゃあ、我慢するしかないな。募金団体もそのうち諦めるだろう」

「諦めるまで何年もこの状態でいろっていうの?」

「だったら、どうすりゃいいんだよ。俺だって、以前のように戻れるなら埋蔵金なんていらないよ。誰の金かもわからないってのに」

「本当に、どうしてこんなことに……」

 ふとその時、リビングのドアが開いて、小学四年生になった息子が入ってくる。息子は私のところにやってくると、目を丸くしながら言った。

「本当にいらないの? お金」

「ええ、いらないわよ。以前の生活の方が、よほど楽しかったわ」

「……そっか、わかった」

 そう言って二階への自分の部屋へと上がっていった息子に、私は再びため息を落とす。息子が埋蔵金を掘り当ててから、毎日ため息ばかりだった。

 その翌日。
 私は洗濯物を干すために庭に出る。正月が近いせいか、凍るような寒さだった。私があかぎれの手に息を吹きかけていると、ふいに息子よりも小さな子供が庭に現れた。スコップを持った子供にぎょっとしていると、その子供は庭を掘り始めた。私は慌てて子供に注意する。

「ぼく、どこの子かな? よその庭を掘っちゃいけないよ?」

「何言ってるの? 僕だよ、トモだよ」

「え? トモくん」

 小さい子は、まさかの息子だった。私は驚いて何度も目をこするが——なぜかトモは小さかった。まるで二年前くらいのような、その姿に驚いていると、息子のトモは言った。

「あのね、タイムカプセルを埋めるから、今から庭を掘るんだよ」

「タイムカプセル? まさか……今日って、二年前の?」 

 私はエプロンのポケットに入れていたスマートフォンを確認する。確かに、今日は二年前の埋蔵金を掘り起こした日だった。
 どうして時間が遡ったのかはわからなかったが、私がやることは一つだった。

「トモくん、庭を掘るなら、あっちにしなさい」

 私が庭の隅を指差すと、トモは素直に頷いて土を掘り始めた。
 ほっと一安心する私のところに、義父がやってくる。

「おやおや、エミさん。トモくんは何をしているんだい?」 

「どうやら、タイムカプセルを埋めたいようで」

「そうかい。だったら、あっちの土のほうがいいかもね」

「え?」

「おーい! トモ! 私も手伝ってやるから、あっちの土を掘ろう」 

「待ってください、お義父さん!」

 私が止めようとしても、耳が遠い義父はトモのところに行ってしまう。
 そして二人は仲良く例の場所を掘り起こしたのだった。

 結局、タイムリープをしても、辛い日々を二度味わうだけだったのだ。
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