66 / 108
画期的な薬
しおりを挟む
「ふふふ……ようやく完成したぞ」
発明家の逸然透は、試験管に入れた液体を見ながら、不敵な笑みを浮かべる。
すると、助手の村名萌乃香はメガネを持ち上げて、逸然の手元を覗き込む。
「博士、今回はいったい何を作ったのですか?」
「これは、嫌な虫を寄せ付けない薬だよ」
「なるほど。嫌な虫を寄せ付けないなんて、夏のバカンスにピッタリですね」
「これから商品化するまでに治験やなんやかんやと時間がかかるからな……来年の夏に間に合わせるためにも、さらに確実な試験をしないといけない」
「と、申しますと?」
「村名くん、君にこれを検証してもらいたいんだ」
「ええ⁉︎ どうして逸然博士じゃないんですか⁉︎」
「それはだな……ほら、私は老人ということで、あらゆるアレルギーを持っているだろう?」
「博士、老人とアレルギーは関係ないと思います」
「とにかく! こういった仕事は君のような若い女性の方が向いていると思うのだよ」
「……まあ、成分を見た限り、悪い物ではなさそうなので、構いませんが」
「なんと! 被験体になってくれるのかい?」
「どうせ、嫌だって言っても、あの手この手を使って、私を巻き込むんでしょう? 時間が勿体無いので、この際、博士の横暴に応じます」
「横暴とはなんだね……だが、君が快く承諾してくれるなら、こちらも願ったり叶ったりだ」
「いや、快く承諾した覚えはないですけどね。それで、その薬はどの程度、効果が持続するものなんですか?」
「そうだな。四十八時間というところかな? さっそく、今から飲んでみてくれるかい?」
「……はい。では」
それからグビっと酒のように薬をあおった村名は、しばらくしゃっくりが止まらなかったが、そのうち落ち着いたと同時に、もやもやと緑色の空気を流し始める。といっても、本人には見えていないのだが。
緑色の空気は、薬の臭気のようだった。
「うげ、なんという臭いだ」
鼻をつまむ逸然博士に、村名は焦り始める。まさか、人を寄せ付けないほどのひどい臭気だとは思ってもみなかった。だが、飲んでしまったからには、それから四十八時間耐えるしかなかった。
「ちょっと逸然博士、こんなの聞いてませんが」
「何がだ?」
「嫌な虫を寄せ付けないっていう話は聞きましたが、人まで寄せ付けないなんて……」
「何を言ってるんだ? 嫌な虫といえば、嫌な虫だろう?」
「どういう意味ですか?」
「言い方を変えれば、〝悪い虫〟とも言うな」
「まさか……これって、悪い男が寄ってこない薬ってことですか?」
「いかにも、だ。旅先でのナンパ、海でのナンパ、駅前でのナンパ。あらゆる場所でやってくる虫を寄せ付けない薬だよ」
「はあ⁉︎」
「うちの娘がもうすぐ成人するんだよね。だから、パパ気になっちゃって」
「アホかー⁉︎ それならそうと、最初から言ってくださいよ! 私はこれまでモテたことなんてないんですからね!」
「そうか……それは人選ミスだな。よし、近所の朱莉ちゃんにも試してもらおう」
「ちょっと待てー! 私はどうなるんですかぁ⁉︎」
こうして悪い虫が寄ってこない薬を飲んだことで、悪い男を寄せ付けない体質になった村名だが——帰りは異臭騒ぎで電車が止まったという。
村名は自分が思っているほど、モテないわけでもないかもしれない。
発明家の逸然透は、試験管に入れた液体を見ながら、不敵な笑みを浮かべる。
すると、助手の村名萌乃香はメガネを持ち上げて、逸然の手元を覗き込む。
「博士、今回はいったい何を作ったのですか?」
「これは、嫌な虫を寄せ付けない薬だよ」
「なるほど。嫌な虫を寄せ付けないなんて、夏のバカンスにピッタリですね」
「これから商品化するまでに治験やなんやかんやと時間がかかるからな……来年の夏に間に合わせるためにも、さらに確実な試験をしないといけない」
「と、申しますと?」
「村名くん、君にこれを検証してもらいたいんだ」
「ええ⁉︎ どうして逸然博士じゃないんですか⁉︎」
「それはだな……ほら、私は老人ということで、あらゆるアレルギーを持っているだろう?」
「博士、老人とアレルギーは関係ないと思います」
「とにかく! こういった仕事は君のような若い女性の方が向いていると思うのだよ」
「……まあ、成分を見た限り、悪い物ではなさそうなので、構いませんが」
「なんと! 被験体になってくれるのかい?」
「どうせ、嫌だって言っても、あの手この手を使って、私を巻き込むんでしょう? 時間が勿体無いので、この際、博士の横暴に応じます」
「横暴とはなんだね……だが、君が快く承諾してくれるなら、こちらも願ったり叶ったりだ」
「いや、快く承諾した覚えはないですけどね。それで、その薬はどの程度、効果が持続するものなんですか?」
「そうだな。四十八時間というところかな? さっそく、今から飲んでみてくれるかい?」
「……はい。では」
それからグビっと酒のように薬をあおった村名は、しばらくしゃっくりが止まらなかったが、そのうち落ち着いたと同時に、もやもやと緑色の空気を流し始める。といっても、本人には見えていないのだが。
緑色の空気は、薬の臭気のようだった。
「うげ、なんという臭いだ」
鼻をつまむ逸然博士に、村名は焦り始める。まさか、人を寄せ付けないほどのひどい臭気だとは思ってもみなかった。だが、飲んでしまったからには、それから四十八時間耐えるしかなかった。
「ちょっと逸然博士、こんなの聞いてませんが」
「何がだ?」
「嫌な虫を寄せ付けないっていう話は聞きましたが、人まで寄せ付けないなんて……」
「何を言ってるんだ? 嫌な虫といえば、嫌な虫だろう?」
「どういう意味ですか?」
「言い方を変えれば、〝悪い虫〟とも言うな」
「まさか……これって、悪い男が寄ってこない薬ってことですか?」
「いかにも、だ。旅先でのナンパ、海でのナンパ、駅前でのナンパ。あらゆる場所でやってくる虫を寄せ付けない薬だよ」
「はあ⁉︎」
「うちの娘がもうすぐ成人するんだよね。だから、パパ気になっちゃって」
「アホかー⁉︎ それならそうと、最初から言ってくださいよ! 私はこれまでモテたことなんてないんですからね!」
「そうか……それは人選ミスだな。よし、近所の朱莉ちゃんにも試してもらおう」
「ちょっと待てー! 私はどうなるんですかぁ⁉︎」
こうして悪い虫が寄ってこない薬を飲んだことで、悪い男を寄せ付けない体質になった村名だが——帰りは異臭騒ぎで電車が止まったという。
村名は自分が思っているほど、モテないわけでもないかもしれない。
30
あなたにおすすめの小説
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる