闇鍋という名の短編集

悠木全(#zen)

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画期的な薬

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「ふふふ……ようやく完成したぞ」

 発明家の逸然いつもとおるは、試験管に入れた液体を見ながら、不敵な笑みを浮かべる。
 すると、助手の村名そんな萌乃香ものかはメガネを持ち上げて、逸然いつもの手元を覗き込む。

「博士、今回はいったい何を作ったのですか?」

「これは、嫌な虫を寄せ付けない薬だよ」

「なるほど。嫌な虫を寄せ付けないなんて、夏のバカンスにピッタリですね」

「これから商品化するまでに治験やなんやかんやと時間がかかるからな……来年の夏に間に合わせるためにも、さらに確実な試験をしないといけない」

「と、申しますと?」

「村名くん、君にこれを検証してもらいたいんだ」

「ええ⁉︎ どうして逸然博士じゃないんですか⁉︎」

「それはだな……ほら、私は老人ということで、あらゆるアレルギーを持っているだろう?」

「博士、老人とアレルギーは関係ないと思います」

「とにかく! こういった仕事は君のような若い女性の方が向いていると思うのだよ」

「……まあ、成分を見た限り、悪い物ではなさそうなので、構いませんが」

「なんと! 被験体になってくれるのかい?」

「どうせ、嫌だって言っても、あの手この手を使って、私を巻き込むんでしょう? 時間が勿体無いので、この際、博士の横暴に応じます」

「横暴とはなんだね……だが、君が快く承諾してくれるなら、こちらも願ったり叶ったりだ」

「いや、快く承諾した覚えはないですけどね。それで、その薬はどの程度、効果が持続するものなんですか?」

「そうだな。四十八時間というところかな? さっそく、今から飲んでみてくれるかい?」

「……はい。では」

 それからグビっと酒のように薬をあおった村名そんなは、しばらくしゃっくりが止まらなかったが、そのうち落ち着いたと同時に、もやもやと緑色の空気を流し始める。といっても、本人には見えていないのだが。
 緑色の空気は、薬の臭気のようだった。

「うげ、なんという臭いだ」

 鼻をつまむ逸然いつも博士に、村名そんなは焦り始める。まさか、人を寄せ付けないほどのひどい臭気だとは思ってもみなかった。だが、飲んでしまったからには、それから四十八時間耐えるしかなかった。

「ちょっと逸然博士、こんなの聞いてませんが」

「何がだ?」

「嫌な虫を寄せ付けないっていう話は聞きましたが、人まで寄せ付けないなんて……」

「何を言ってるんだ? 嫌な虫といえば、嫌な虫だろう?」

「どういう意味ですか?」

「言い方を変えれば、〝悪い虫〟とも言うな」

「まさか……これって、悪い男が寄ってこない薬ってことですか?」

「いかにも、だ。旅先でのナンパ、海でのナンパ、駅前でのナンパ。あらゆる場所でやってくる虫を寄せ付けない薬だよ」

「はあ⁉︎」

「うちの娘がもうすぐ成人するんだよね。だから、パパ気になっちゃって」

「アホかー⁉︎ それならそうと、最初から言ってくださいよ! 私はこれまでモテたことなんてないんですからね!」

「そうか……それは人選ミスだな。よし、近所の朱莉あかりちゃんにも試してもらおう」

「ちょっと待てー! 私はどうなるんですかぁ⁉︎」

 こうして悪い虫が寄ってこない薬を飲んだことで、悪い男を寄せ付けない体質になった村名だが——帰りは異臭騒ぎで電車が止まったという。
 村名は自分が思っているほど、モテないわけでもないかもしれない。
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