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「なぁ、アル」
「なんだ?」
「何日目?」
「……」
「いや、目を反らすなって。二人で篭って何日目だ?」

アルフレートは嫌そうに視線をそらしたままだ。その顔をジッと見つめ続けるとボソリと観念したように呟く。

「三週間」
「三週間か……三週間!?家は!?ってか学園!茶会も!」
「茶会は駄目だ!」
「馬鹿!お前の嫁だぞ!んな適当な事できるか!」
「……俺の嫁」

フフフと不気味に笑いだしたアルフレートの胸元をポカリと殴り、イアンは自分を棚に上げて怒鳴った。

「浮ついてる場合か!」

まさにお前が言うな、というセルフ突っ込みを心でしながら、イアンは明け方まで抱かれていた体に鞭を打って立ち上がった。





「みんな、久しぶり」

いつも通り完璧な挨拶をした後でれっと口調を崩して茶会の席についた。久しぶりと口々に声をかけあい、暫くは出された紅茶に口を付け茶菓子に舌鼓を打つ。

実に一か月近くも互いの近況が分からなかった主人公被害者の会の面々との久方ぶりの茶会である。色々、色々言いたいことはあるが、とりあえず全員が無事この場に居る事に安堵した。

浮ついた三週間が過ぎてから様々な事が判明した。まずアルフレートは今回王子としての公務と称し、イアンと一緒に遠くの地へ視察すると学園と家に連絡を入れていた。

期間は二週間から一か月と伝えており、状況によって変動すると申し付けていた。家族たちはもちろん心配してたらしいがきちんと書状もある為、息子の口からの説明がなく姿もない突然の事に不安を覚えつつも了承するより他なかった。学園に至ってはそもそも疑ってもいない。

そしてその間過ごしていた謎の建築したばかりの建物は、城下の外れに建てた結婚した後に住む予定のアルフレートとイアンの家だった。しかも外側と間取りは何とかできているが未完成だという。なにやら魔道具とやらで家としての形を保っているらしい。怖い。

それもあってイアンが過ごした二部屋、トイレ、浴室以外まだ何もなく空っぽ。そもそもイアンが過ごしていた部屋でさえ主にベッドくらいしかなかったのだから、全く気付かなかった自分にも驚きだった。
確かにデートした際に妙に丁度いいところにあるが別荘としては王城に近すぎないか?とは思っていたが、まさか将来の自身の住む家とは思わなかった。王家の別荘のようなもの、と思っていたため他の部屋に勝手に入ったりなんなりする事もなく全く気付かないままだった。そして王家の皆さまは陛下にせよ王妃にせよ、この行動に賛同していた。
何故だ。

欲しいものは奪ってでもという事だろうか。いや、妙にアルフレートの顔色を窺っている風だったのでどうせ何か脅しでもしているのだろう。さすが病んでる系攻略者様である。息子に脅される両親。いいのかそれでと思ったがイアンは最早気付いてない振りをしてやり過ごした。

そして実家に帰ると言うイアンに離れたくないとずっと駄々を捏ねていたアルフレートを何とか宥め、卒業したら速攻結婚すると約束させられてから家に帰った。

家族はとても心配しており視察内容には触れないにしても、体は大丈夫だったか嫌な事はなかったかと何度も確認されて申し訳なくなった。初めてのめくるめく快楽に耽ってましたとは言えず、なんとか微笑みを作りながらいい勉強になったと白々しく告げて罪悪感に胃が痛くなった

どちらにしても、ほぼほぼ何かおかしな事態に巻き込まれていた事はバレていたに違いない。ニールはずっと疑っていたし、兄も執拗に何があったのか遠回しに聞いてきたので勘が良いのも困り物である。

そして家に帰って待っていたのは思ったより少ない主人公被害者の会の面々からの茶会の誘いだった。もっと心配されたり怒ったりされているかと思っていたのに拍子抜けしつつ内容を確認して青ざめる。なんと全員似た様な状況に陥っていたらしく暫く皆学園を休んでいたらしい。

普通の生活に戻る期間はまちまちだが、皆最低でも二週間近くは何か大変な目に合っていた。ちなみに最長はイアンだった。

とにもかくにもそうして最後の茶会から一か月近くも間を空けて、改めて皆で集まる事ができたのがやっと今日なのである。

「はぁ、それにしても、皆大変だったみたいだなぁ」
「イアン様が一番、その、大変そうでしたが大丈夫でしたか?」

暫く当たり障りのない会話をしていたがイアンから切り出す。手紙で互いに何となく察しているが詳しく、というかあんな破廉恥な事を事細かに手紙にしたためる事は出来ない。秘密文書のやり取りをするための暗号を用いるほどでもないため、結局皆の茶会の誘いの手紙の最後は詳しくは集まってから、の言葉で締められていた。

「俺は大丈夫。ドミニク様は大丈夫でしたか?」
「は、はい。えっと、その、色々と勘違いがあったみたい、で」

顔を赤らめながらそう口にするドミニクは何を思い出したのか、もじもじと視線を彷徨わせ色を纏った溜息を小さく漏らす。こちらの顔が赤くなりそうな色気に思わずゴクリと喉を鳴らした。

「かわいいドミニク様をこんなに色気たっぷりにしたのは誰だ……危ない」
「えぇ、本当に危険かと。学園内ではしっかり守っていただかないと」

マシューが震えるような声でそう呟く。そんなマシューはマシューで今にも脳内にめくるめく妄想が掻き立てられそうな程気怠い雰囲気で色気が増している。どうも本調子ではないところを見ると彼もまたそれこそ昨夜まで、いや、朝方まで慈しまれていたのかもしれない。体に明らかに力が入ってないし、服で隠れるギリギリに吸いつかれた首筋の痕が少し動く度に見え隠れする。

「君もね」

半笑いでそう答えたのはコリンだ。彼もまた色気全開、気怠さ全開である。目減りした愛情は果たして戻ったのだろうか。疲労が色濃く見える為少し心配だ。

「それを言うなら全員じゃないですかぁ?俺ですら自分で危ないなぁって思いますしぃ」

ベージルはほんわり笑いながら周りを見回してそう言った。しかしその言葉に力はない。空気が抜ける様な声しか出ていないのが儚く見えてかなり危うげだ。

「疲れた」

そして一番目が死んでいるのがバロンだ。相手はこの国の将来の宰相である。一番冷たそうな顔で普段は面倒ごとや争いごとをうまく回避するタイプである。ただ基本的にサドなので相手をするのは大変そうだ。

皆の言いたいけど言えない、という心の声が分かりイアンは手をスッと上げた。

「下がって。王家の影が付いているので問題ありません」

キリッとした顔でそう言うと従者たちが頭をサッと下げて、見っとも無くない程度に足早にスススっとこの場を去る。教育が行き届いていて感心する。ちなみにここはドミニクの家、ウォーターズ邸である。

人の気配が去った後、暫く口を閉じていた面々は一気にこれまでの事と営みについての不満を吐露し始めたのだった。
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