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1-1 アルフレートside ※微
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「好きにして」
少し掠れた声が甘く脳内に流れてくる。
一瞬飛んだ理性を呼び戻した瞬間、イアンが厭らしく微笑んで腰を振ったので結局理性ははじけ飛んだ。
レースで出来た下着はわざと胸当ても作った。夜用のレースで出来た下着だ。
既にレースを少し押し上げてピンと立つ乳首にむしゃぶりついてイアンの甘い喘ぎ声に酔う。ぢゅるぢゅると吸い、舌で押しつぶせばイアンの背が反り喉元が無防備になった。
その喉元に指を這わせ少し力を入れればうっとりとした視線がアルフレートを捕らえて、舌が赤く熟れた唇からチロリと見え隠れした。
ここまで堕とすまでずっと不安を感じていたアルフレートは、自身のベッドに沈み込むイアンを穴が開くほど見つめてようやっと手に入れたと実感できた。
イアンは気づいていないが、そもそもイアンが池に落ちた原因はアルフレートである。
初めてイアンを見つけた時のあの衝撃は今でも覚えている。
▶
忘れもしない六歳になったばかりの頃、側近、友人、婚約者、何でもよいから自身の傍に置く者を決めろと茶会が開かれた。年が近いため兄もいたが兄は既に側近となりえる人物を見つけており、面倒臭いと美しい顔を歪めながらも暇つぶしと称して参加していた。今回の主役はアルフレートだったが、アルフレートはともかくしょうもないと思っており、嫌々渋々その会に参加したのだ。
そこで運命に出会う。
瞳と髪が濡れた様な艶やかな黒で透き通りそうな程白い肌。同じ人間かと疑いたくなる程美しく、まだ十年も生きていないのに妖艶な姿とも言えるイアン・ラッセル。爵位は様々であったが割かし全員見目麗しかった中でアルフレートの目に留まったのはただ一人。
口を開けたまま間抜け面でイアンを凝視するアルフレートを他所にイアンは満面の笑みで頭を下げた。
「おはつにおめにかかります、でんか。わたしはイアン・ラッセルともうします」
「アルフレートだ」
「アルフレートさま」
名前を呟く様に囁いた後、彼は純粋に酷く楽しそうに綺麗に笑った。心臓が止まりそうな程その笑顔に衝撃を覚えたアルフレートはその後彼の事しか頭になかった。どうやって仲良くなろう、どうやってその頬に触れよう、どうやって自分のものにしよう。とてもじゃないが六歳で考えるような事ではない物騒な独占欲が瞬く間に自身の胸に広がった。
イアンの隣をキープし、気持ちの悪い虫を平気で捕まえて笑うイアンに合わせて自身も虫に興味があるかのように振る舞い、そんなに好きでもないジュースをイアンが美味しいと言えば美味しいと返す。イアンが薔薇に興味を持てば薔薇が好きだと嘯き、お菓子を頬に詰め込んで幸せと言えば同じように菓子を頬に詰め込んだ。
そうしてどんどん仲が良くなり、中庭の池の方向へ走っていくイアンを手を繋いで繋ぎ止め、ゆったりと二人の時間を楽しむ。もちろん近くに護衛はいるし二人の後ろをゾロゾロどうでもいい人間達がついてきていたが、アルフレートはすっかりイアンは自分のモノだと認識してしまっていた。
「わぁ、きれいですね!」
「うん。イアンはきれいなものが好き?」
「はい!クワガタのテカテカしたちゃいろもすきですし、いけがキラキラひかってるのもすきです!」
王家自慢の美しい池と昆虫が同等な事に理解は出来なくとも同意しておく。そして池の周辺でまた使用人たちがお菓子を広げると皆思い思いに遊び回った。
暫くはしゃいで疲れたイアンが池に泳ぐ美しい魚を見て指を水に浸した。
「イアン、あぶないよ」
「きをつけます!」
そうじゃない、と思いつつもハラハラと見守った。小さな指が池の水に触れる度ソワソワとしつつも、アルフレートは当然のように口を開く。
「イアンはぼくのものだよね」
「はい!」
今思えば意味など分かってなくて、親に全部はいと言っておけなどと言われていたのだろう。しかしアルフレートは心からその返答に喜びイアンに抱き着いた。イアンは嫌がりもせずそれを受け止め、擽ったそうにクスクス笑う。
そうして暫く二人の時間を堪能していると数名のご学友候補達が近づいてきた。
「でんか、ぼくたちともはなしましょう!」
「いあんさまも!」
瞬間的に不機嫌になったアルフレートは、今は二人の時間だとギロリとやってきた候補達を睨んだ。ヒッとその顔に怯えを滲ませる者達に邪魔をするなと口にしようとしたアルフレートより先に、イアンが元気に返事をする。
「はい!みんなであそびましょう!」
「なっ!?イアンは俺と二人がいいだろ?」
無邪気に笑うイアンに焦ったようにそう返したアルフレート。良くない雰囲気を感じ取りジリッと後ずさる名も知らぬ候補達。不穏な中ただ一人、イアンだけは何も気づいておらず首を傾げてアルフレートへ視線を向ける。
「なぜですか?みんなでいたほうがたのしいですよ!」
その瞬間の無邪気な笑顔にアルフレートは一瞬で激高した。そもそも自分以外に笑いかけるのも気に食わないというのに、あまつさえ二人より皆で一緒の方が良いと断言したのだ。
今思えば当然の事だと理解できるが当時は裏切りにも思えついその体を突き飛ばした。
もちろん池に落とすつもりはなかった。だが泣かせるつもりではいた。なんなら怪我でも負って自身に逆らうとどうなるのか身をもって知るべきだとすら思っていた。イアンが誰のものか分からせるつもりだったのだ。
そうして強く突き飛ばしたイアンの体は呆気なくボシャンと池に沈んだのだ。その後は当然阿鼻叫喚である。
近くに使用人や騎士もいたので素早く助け出されたイアンは、それでもくったりとしていたし顔は青ざめていた。サッと血の気が引いたアルフレートと大泣きし出した候補達。
収拾がつかなくなりお開きとなったその後、アルフレートはイアンを望んだ。目撃者は多数。アルフレートは完全に悪意を持ってイアンを突き飛ばした。だが、子供同士ふざけた結果誤って池に落ちたとされた。堂々とイアンを求めた当時の自分を今となっては恥じる。
イアンはアルフレートに逆らう事に恐怖を覚えているだろうと思っていた。しかしイアンの体調が戻り次に会った時、イアンの無垢な表情は消えていたのだ。何をしても何を言っても最低限の返ししかない。焦って近づいてその手に触れてもスルリと上手に抜け出していく。
無表情ではないが張り付けた様な笑みは初めて会った時と全く違った拒絶を表しており、悪意を持って突き飛ばした事がバレていて、恐れよりも怒りを買ったのだとやっと気づいた。
少し掠れた声が甘く脳内に流れてくる。
一瞬飛んだ理性を呼び戻した瞬間、イアンが厭らしく微笑んで腰を振ったので結局理性ははじけ飛んだ。
レースで出来た下着はわざと胸当ても作った。夜用のレースで出来た下着だ。
既にレースを少し押し上げてピンと立つ乳首にむしゃぶりついてイアンの甘い喘ぎ声に酔う。ぢゅるぢゅると吸い、舌で押しつぶせばイアンの背が反り喉元が無防備になった。
その喉元に指を這わせ少し力を入れればうっとりとした視線がアルフレートを捕らえて、舌が赤く熟れた唇からチロリと見え隠れした。
ここまで堕とすまでずっと不安を感じていたアルフレートは、自身のベッドに沈み込むイアンを穴が開くほど見つめてようやっと手に入れたと実感できた。
イアンは気づいていないが、そもそもイアンが池に落ちた原因はアルフレートである。
初めてイアンを見つけた時のあの衝撃は今でも覚えている。
▶
忘れもしない六歳になったばかりの頃、側近、友人、婚約者、何でもよいから自身の傍に置く者を決めろと茶会が開かれた。年が近いため兄もいたが兄は既に側近となりえる人物を見つけており、面倒臭いと美しい顔を歪めながらも暇つぶしと称して参加していた。今回の主役はアルフレートだったが、アルフレートはともかくしょうもないと思っており、嫌々渋々その会に参加したのだ。
そこで運命に出会う。
瞳と髪が濡れた様な艶やかな黒で透き通りそうな程白い肌。同じ人間かと疑いたくなる程美しく、まだ十年も生きていないのに妖艶な姿とも言えるイアン・ラッセル。爵位は様々であったが割かし全員見目麗しかった中でアルフレートの目に留まったのはただ一人。
口を開けたまま間抜け面でイアンを凝視するアルフレートを他所にイアンは満面の笑みで頭を下げた。
「おはつにおめにかかります、でんか。わたしはイアン・ラッセルともうします」
「アルフレートだ」
「アルフレートさま」
名前を呟く様に囁いた後、彼は純粋に酷く楽しそうに綺麗に笑った。心臓が止まりそうな程その笑顔に衝撃を覚えたアルフレートはその後彼の事しか頭になかった。どうやって仲良くなろう、どうやってその頬に触れよう、どうやって自分のものにしよう。とてもじゃないが六歳で考えるような事ではない物騒な独占欲が瞬く間に自身の胸に広がった。
イアンの隣をキープし、気持ちの悪い虫を平気で捕まえて笑うイアンに合わせて自身も虫に興味があるかのように振る舞い、そんなに好きでもないジュースをイアンが美味しいと言えば美味しいと返す。イアンが薔薇に興味を持てば薔薇が好きだと嘯き、お菓子を頬に詰め込んで幸せと言えば同じように菓子を頬に詰め込んだ。
そうしてどんどん仲が良くなり、中庭の池の方向へ走っていくイアンを手を繋いで繋ぎ止め、ゆったりと二人の時間を楽しむ。もちろん近くに護衛はいるし二人の後ろをゾロゾロどうでもいい人間達がついてきていたが、アルフレートはすっかりイアンは自分のモノだと認識してしまっていた。
「わぁ、きれいですね!」
「うん。イアンはきれいなものが好き?」
「はい!クワガタのテカテカしたちゃいろもすきですし、いけがキラキラひかってるのもすきです!」
王家自慢の美しい池と昆虫が同等な事に理解は出来なくとも同意しておく。そして池の周辺でまた使用人たちがお菓子を広げると皆思い思いに遊び回った。
暫くはしゃいで疲れたイアンが池に泳ぐ美しい魚を見て指を水に浸した。
「イアン、あぶないよ」
「きをつけます!」
そうじゃない、と思いつつもハラハラと見守った。小さな指が池の水に触れる度ソワソワとしつつも、アルフレートは当然のように口を開く。
「イアンはぼくのものだよね」
「はい!」
今思えば意味など分かってなくて、親に全部はいと言っておけなどと言われていたのだろう。しかしアルフレートは心からその返答に喜びイアンに抱き着いた。イアンは嫌がりもせずそれを受け止め、擽ったそうにクスクス笑う。
そうして暫く二人の時間を堪能していると数名のご学友候補達が近づいてきた。
「でんか、ぼくたちともはなしましょう!」
「いあんさまも!」
瞬間的に不機嫌になったアルフレートは、今は二人の時間だとギロリとやってきた候補達を睨んだ。ヒッとその顔に怯えを滲ませる者達に邪魔をするなと口にしようとしたアルフレートより先に、イアンが元気に返事をする。
「はい!みんなであそびましょう!」
「なっ!?イアンは俺と二人がいいだろ?」
無邪気に笑うイアンに焦ったようにそう返したアルフレート。良くない雰囲気を感じ取りジリッと後ずさる名も知らぬ候補達。不穏な中ただ一人、イアンだけは何も気づいておらず首を傾げてアルフレートへ視線を向ける。
「なぜですか?みんなでいたほうがたのしいですよ!」
その瞬間の無邪気な笑顔にアルフレートは一瞬で激高した。そもそも自分以外に笑いかけるのも気に食わないというのに、あまつさえ二人より皆で一緒の方が良いと断言したのだ。
今思えば当然の事だと理解できるが当時は裏切りにも思えついその体を突き飛ばした。
もちろん池に落とすつもりはなかった。だが泣かせるつもりではいた。なんなら怪我でも負って自身に逆らうとどうなるのか身をもって知るべきだとすら思っていた。イアンが誰のものか分からせるつもりだったのだ。
そうして強く突き飛ばしたイアンの体は呆気なくボシャンと池に沈んだのだ。その後は当然阿鼻叫喚である。
近くに使用人や騎士もいたので素早く助け出されたイアンは、それでもくったりとしていたし顔は青ざめていた。サッと血の気が引いたアルフレートと大泣きし出した候補達。
収拾がつかなくなりお開きとなったその後、アルフレートはイアンを望んだ。目撃者は多数。アルフレートは完全に悪意を持ってイアンを突き飛ばした。だが、子供同士ふざけた結果誤って池に落ちたとされた。堂々とイアンを求めた当時の自分を今となっては恥じる。
イアンはアルフレートに逆らう事に恐怖を覚えているだろうと思っていた。しかしイアンの体調が戻り次に会った時、イアンの無垢な表情は消えていたのだ。何をしても何を言っても最低限の返ししかない。焦って近づいてその手に触れてもスルリと上手に抜け出していく。
無表情ではないが張り付けた様な笑みは初めて会った時と全く違った拒絶を表しており、悪意を持って突き飛ばした事がバレていて、恐れよりも怒りを買ったのだとやっと気づいた。
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