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「アルカ・ハヴェル。お前との婚約は、今日をもって破棄とさせて貰う!!!」
意気揚々と言い放たれた叫び声が、場に大きく響き渡る。
それは、メルア侯爵家が嫡子。
ドルク・メルアの一言であった。
「そして、僕の婚約者はそこの阿婆擦れではなく、淑女であるユーミスとする!!」
メルア侯爵家が開くパーティーにて、待っていたと言わんばかりに声を上げるドルクの発言に頭が痛くなっていたけれど、それ以上にそんな彼の側に己の妹が立っている事実のお陰で、私は頭が痛いを通り越して逆に冷静になる事が出来ていた。
……というより、なんで私が阿婆擦れ呼ばわりされなくてはいけないのだろうか。
このメルア侯爵家が開くパーティーの費用も、本当はしなくてもいいのに一部うちの家が負担しているというのに。
流石に、礼儀がなってなさ過ぎではないだろうか。
「……それは、メルア侯爵家の公式な発言と捉えて宜しかったでしょうか」
ふつふつと湧き上がる怒りの感情に蓋をしながら、出来る限り冷静に努めて私は言葉を返す。
そもそも、この婚約は落ち目であったメルア侯爵家を助ける為に父が善意で差し伸べたが故のものである。
懐事情は縁談を纏めたあの頃と大差はないにもかかわらず、嫡子である私との縁を一方的に阿婆擦れ呼ばわりした挙句、切り、ハヴェル侯爵家の血を継いでいない連れ子の妹————ユーミスと婚約をするらしい。
……ドルクは継母の子だからと父が今はお目溢しをしているものの、あと数年経たない間にひとり立ちをさせるつもりである事を知っているのだろうか。
……恐らく、近い将来にユーミスがハヴェル侯爵家の人間でなくなる事実を知らないんだろう。
そんな感想を抱きながら、私は溜息を吐いた。
「当然だ!! お前との縁がまだ続く事は遺憾ではあるが、メルア侯爵家から捨てられたお前に最早、居場所はあるまい!!」
居場所がないというか、金の無心ばかりしてきた婚約者がわざわざ自分から縁を切ってくれて清々したくらいにしか思えない。
何より、この事を彼の父上は知ってるのだろうか。私ではなく、寧ろドルクの居場所がなくなるだけな気がするんだけれども……。
「だが、後悔しようとも何もかもがもう遅い」
確かに、これだけの証人がいると、どれだけ後悔しようとも無かったことには出来ないだろう。
事実、内情をそれとなく知っている一部の貴族はぎょっとした表情を浮かべている。
私が一方的に破棄するならばまだしも、ドルクからともなれば狂行にしか映らないだろう。
実際、私の目にもそうとしか映っていない。
「そういう事なの。きっとお姉様にも他に良い人が見つかるわよ」
そしてとどめでも刺すかのように、ドルクの側にいたユーミスによる一言。
冷静に努めてはいるけれど、無性に手で顔を覆いたくなった。
取り敢えず、何よりも先に父に報告しなくちゃいけないのは当然として、どうしたものか。
と考えたのち、これ以上この場にいる事は不快でしかなかった上、私自身も何を言ってしまうか分からなかったので、ここはひとまず、出て行く事にした。
「……分かりました。それでは、父にはそうお伝えしておきますね」
意気揚々と言い放たれた叫び声が、場に大きく響き渡る。
それは、メルア侯爵家が嫡子。
ドルク・メルアの一言であった。
「そして、僕の婚約者はそこの阿婆擦れではなく、淑女であるユーミスとする!!」
メルア侯爵家が開くパーティーにて、待っていたと言わんばかりに声を上げるドルクの発言に頭が痛くなっていたけれど、それ以上にそんな彼の側に己の妹が立っている事実のお陰で、私は頭が痛いを通り越して逆に冷静になる事が出来ていた。
……というより、なんで私が阿婆擦れ呼ばわりされなくてはいけないのだろうか。
このメルア侯爵家が開くパーティーの費用も、本当はしなくてもいいのに一部うちの家が負担しているというのに。
流石に、礼儀がなってなさ過ぎではないだろうか。
「……それは、メルア侯爵家の公式な発言と捉えて宜しかったでしょうか」
ふつふつと湧き上がる怒りの感情に蓋をしながら、出来る限り冷静に努めて私は言葉を返す。
そもそも、この婚約は落ち目であったメルア侯爵家を助ける為に父が善意で差し伸べたが故のものである。
懐事情は縁談を纏めたあの頃と大差はないにもかかわらず、嫡子である私との縁を一方的に阿婆擦れ呼ばわりした挙句、切り、ハヴェル侯爵家の血を継いでいない連れ子の妹————ユーミスと婚約をするらしい。
……ドルクは継母の子だからと父が今はお目溢しをしているものの、あと数年経たない間にひとり立ちをさせるつもりである事を知っているのだろうか。
……恐らく、近い将来にユーミスがハヴェル侯爵家の人間でなくなる事実を知らないんだろう。
そんな感想を抱きながら、私は溜息を吐いた。
「当然だ!! お前との縁がまだ続く事は遺憾ではあるが、メルア侯爵家から捨てられたお前に最早、居場所はあるまい!!」
居場所がないというか、金の無心ばかりしてきた婚約者がわざわざ自分から縁を切ってくれて清々したくらいにしか思えない。
何より、この事を彼の父上は知ってるのだろうか。私ではなく、寧ろドルクの居場所がなくなるだけな気がするんだけれども……。
「だが、後悔しようとも何もかもがもう遅い」
確かに、これだけの証人がいると、どれだけ後悔しようとも無かったことには出来ないだろう。
事実、内情をそれとなく知っている一部の貴族はぎょっとした表情を浮かべている。
私が一方的に破棄するならばまだしも、ドルクからともなれば狂行にしか映らないだろう。
実際、私の目にもそうとしか映っていない。
「そういう事なの。きっとお姉様にも他に良い人が見つかるわよ」
そしてとどめでも刺すかのように、ドルクの側にいたユーミスによる一言。
冷静に努めてはいるけれど、無性に手で顔を覆いたくなった。
取り敢えず、何よりも先に父に報告しなくちゃいけないのは当然として、どうしたものか。
と考えたのち、これ以上この場にいる事は不快でしかなかった上、私自身も何を言ってしまうか分からなかったので、ここはひとまず、出て行く事にした。
「……分かりました。それでは、父にはそうお伝えしておきますね」
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