聖・黒薔薇学園

能登

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I

III

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ぎゅう、と四季の体を強く抱き締める西園寺は首筋に鼻を近付けてから、「はぁ」と熱い息を漏らす。

「え!?何!?...っ近い近い近い!西園寺!」

「...君は...やけに美味そうな匂いがする...。」

「う、美味...!?」

(待って、まじで何この状況...!?)

「...今日からこの部屋に住ませてやってもいいよ。」

「え?」

「この美しく気高き私と、四六時中一緒だ。
光栄だろう?新入生。」


体が一瞬離れたが、またしても強く抱き締めてから髪に鼻を寄せる西園寺。
みずみずしいアクアマリンの瞳と、見間違えたかもしれないが鋭い牙に言葉を失った。

「あー!やっぱり黒須くんを拉致したのは西園寺くんだったんだね!?
こら、ちょっかい出さないの。」

「部屋を見せて欲しいと誘惑してきたのは新入生の方だよ。」

「いや、誘惑してない!!!!」

眉根を寄せ、頬を膨らませた加賀美の姿に胸を撫で下ろす。
西園寺に体をまさぐられた時、正直命の終わりを感じた。

男に尻を揉まれたことも、首の匂いを嗅がれたことも今日が始めてだ。


「黒須くん、大丈夫?
ごめんね、西園寺くんって色狂いだから。」

「んん?今この私を色狂いと侮辱したな??」

「さ、早くご飯食べに行こ。
ここの食堂、ご飯がとっても美味しいんだ。」


色狂いの西園寺を無視して四季の手首を掴んだ加賀美は、食堂までの道のりを案内してくれた。

食券機の前で数分悩み、加賀美はオムライス、四季はハンバーグを頼む。

メインの他にスープとサラダ、ヨーグルトが乗ったプレートを食堂のお姉さんに手渡されると、ぐるる...と腹の虫が鳴った。


入学初日、教材の受け渡しや慣れない校内、忙しさに圧倒され昼も菓子パン一つしか食べれなかった四季は、ご飯のありがたさに目頭を押さえる。



19時

ご飯時だと言うのに辺りにはほぼ人がいない。

加賀美曰く、部活動や夜間授業を受けている生徒が多い兼ね合いで、この時間はゆっくりご飯が食べられるのだとか。

「にしても新入生、君の身長はいくつだ?」

「あー、春に計った時は176cmだったかな。」

「ふむ...今までは低身長にしか興味なかったが、176cmもいいな...。」

「ナチュラルに僕たちの隣でご飯食べるんだね?西園寺くん。」

唐揚げ定食を食べる西園寺は、綺麗な面をしているにも関わらず口端に米粒をつけている。
これでは二枚目が台無しだ。

「何を隠そう、この西園寺 密...身長は179cm...。
かっこ良すぎないか...?この顔で且つ高身長だなんて、あまりにも罪作りな男...。」

「「聞いてない聞いてない。」」

遠くを見つめる加賀美と言葉が被る。

「そうだ新入生、君の名前...もう一度教えてくれないだろうか。」

「四季。」

「四季か...!
私のことは密様と呼んでくれて構わないよ。」

「おー、分かった。
西園寺、口の横に米粒ついてんぞ。」

「む?」

まともに相手していると絶対に疲れる。
隣の部屋にこんな色狂いナルシストが住んでいるという事実に、四季は再びアウェイを感じた。


「取れたか?」

声を掛けられ西園寺の方を向くと、さっきまで一粒しかついていなかった米粒が両方の頬に付いていた。

これには加賀美もテーブルを叩きながら笑い、こちらとしても意味が分からなすぎて吹き出しそうになる。

「どんな食い方してんだ...!」

両頬の米粒を布巾で拭い取り、落ち着いて食べるように促すと西園寺の頬が薄ピンクに染まっていく。

「...。」

(流石に両頬にご飯は恥ずかしいよな...。
箸は使い慣れていないのかもしれない。
髪色はブロンド、瞳はブルー...主食はパンって顔してるし。)


「...四季。」

「西園寺くん、ナチュラルに四季呼び!?」

「やっぱり...私は君と一緒に寝たい。」


今度こそ吹き出した。
加賀美の前でなんて失態を晒させるんだ、と内心で思いながら目の下を引きつらせる。

「な、んでいきなり...。」

「優しい...、友達、嬉しい...。」

「突然口下手になるじゃん...。」

「西園寺くんは少し特殊だから、黒須くんみたいに接してくれる子は少ないんだ。」

耳打ちでそんなことを言う加賀美は、念を押すように「仲良くしてあげてね。」と口にした。

「西園寺、今度泊まりに行くよ。」

「わーい!やったー!加賀美くんも来たまえ、この私がお布団をしいてあげよう!」

無邪気に笑う西園寺と、優しく微笑む加賀美に囲まれて食べる夕食は初日の疲れを吹き飛ばすほど楽しい時間だった。






とは言ったものの、やはり体は限界らしい。
部屋の汚ぇシャワーブースでシャワーを浴び、髪が濡れたまま布団に横になる。
かび臭い布団を想像していたが、柔軟剤のいい香りがすることがこの部屋唯一の良い点。

10時から始業となると、9時45分には教室に着いていればいい。
朝ご飯を抜いて9時まで寝たとしても、余裕で間に合うだろう。

スマホのアラームをかけ、落ちてくる瞼を懸命に持ち上げる。
課題も荷解きもしてないし、明日の授業の準備もしてないのに


眠くて眠くてしょうがない。


「......。」



四季はその夜、柔軟剤の香りがする布団の上で、糸が途切れたように眠りについた。
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