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あなたの重荷を分けて欲しい
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「……ジェイラスは穢れてないよ」
苦しそうに顔を歪める彼の頬に、そっと指を触れる。
この人は、誰よりも綺麗な心を持つ人。
自分の命よりも他人を守ろうとする人なんてそういない。しかもそれを悟られないように、相手にキツい言葉を投げかけたりする。
この人の想いはとても分かりにくいけど、だけどとても美しいのだ。
「ジェイラスより綺麗な人を知らないよ」
出逢った瞬間恋に落ちた。
この世界の、何か綺麗なものに触れたような気がして、私はきっとあの時救われたのだと思う。
お父様たちに話を聞いてからずっと考えていた。どうして私は、この世界で生きていけるようになれたんだろうって。
この世界を異邦人のように彷徨い、前世も現世も家族の元で生きていけなかった私。彼に出逢っただけで、生きていけると思えたなんて。恥ずかしいけど、どうしてだろうって。
あの時、好きだと思ったんだ。
この人を、この人がいる世界を、そしてそれを感じられる自分を。それは辛い記憶や、現実に感じる恐怖も、受け入れて生きていきたいと思えるほど。
心の底から湧き上がった想いは圧倒的で、私はすんなりと、ここが私の唯一の生きている世界なのだと、納得したのだと思う。
醜いものや穢れたものだって、それは自分の心にも誰かの心にもきっとあるものだ。
ジェイラスの心の中にだって、私はまだ知らないけれど、当たり前にあるのだろうと思う。
だけど、私は彼の綺麗な心をたくさん知っている。
こんなに綺麗な人を他に知らないのに、彼はとても苦しんでいる。
「ジェイラスが穢れているなら、私はもっと穢れているし、他の誰かもそうなんだよ」
「……」
「穢れのない人なんていない。だけど、ジェイラスの心はすごく綺麗なんだって、私は知ってるよ」
ジェイラスは私の手を掴んだまま動かない。
「ジェイラスの綺麗さに、私は一目惚れした。ジェイラス、知ってるよね。感じてくれている?私の心、伝わってる?」
彼は掠れた声で、小さく私の名前を呟いた。
「伝わっている」
「……うん」
少しだけ、彼の様子が落ち着いてきたように思う。
昨日までの彼は機嫌が良さように笑っていたのに、今日は、壊れてしまいそうなほどに心が乱れている。
「ジェイラス、あのね」
言葉を紡ぎながら、自分の気持ちも素直に感じようと心掛ける。私の感情はきっとそのまま彼に伝わってしまうから。
「私のことを背負ってくれるって言ってくれて嬉しかったの。あなたは、その言葉通りに、私の心の重荷も、事情も、一緒に背負ってくれようとした」
「……」
「誰かに心を預けられることが、こんなにもほっとして、泣きたくなるくらい幸福なことなんだって、はじめて知ったの」
話しているだけで、嬉し涙が溢れそうになる。
「私にも、あなたの心の重荷を分けてもらいたい。私もあなたのことを背負いたい。もしもそれを許してもらえるなら、すごくすごく、嬉しい」
ジェイラスは無表情のまま、その無垢な瞳を私に向けている。
「ジェイラスが楽になることの手助けができるのなら、泣いてしまえるくらい幸福なの」
わたしは、と続けて言う。
「私はジェイラスが幸福でいてくれることを、いつも祈ってる」
私を無条件で幸福にしてくれる彼のためなら、私はきっとどんなことでもしたくなる。
だけど、ちっぽけな私には、今だって何も出来ない。
ただ、彼は一人ではないんだと、陳腐な言葉で伝えるだけだ。
「……シオリ」
ジェイラスが泣きそうに顔を歪めて、私を抱きしめた。
さっきとは違って優しく抱きしめてくれた。ジェイラスが少し落ち着いているのを感じる。
彼は抱きしめたまま、私の背中をゆっくりと撫でる。
「……伝わっている」
なにを、とは聞かなかった。
私はずっと、たとえ穢れていてもあなたを愛しているのだと、心の中で思っていた。
「俺の育った場所の話を聞いてくれるか?」
「うん……グラント?」
「いや……違う。その前だ」
確か首都に出たのも小さな頃だった気がしたけれど。
「俺は……」
ジェイラスは躊躇うように言った。
「創始の村で、監禁されながら育ったのだ」
苦しそうに顔を歪める彼の頬に、そっと指を触れる。
この人は、誰よりも綺麗な心を持つ人。
自分の命よりも他人を守ろうとする人なんてそういない。しかもそれを悟られないように、相手にキツい言葉を投げかけたりする。
この人の想いはとても分かりにくいけど、だけどとても美しいのだ。
「ジェイラスより綺麗な人を知らないよ」
出逢った瞬間恋に落ちた。
この世界の、何か綺麗なものに触れたような気がして、私はきっとあの時救われたのだと思う。
お父様たちに話を聞いてからずっと考えていた。どうして私は、この世界で生きていけるようになれたんだろうって。
この世界を異邦人のように彷徨い、前世も現世も家族の元で生きていけなかった私。彼に出逢っただけで、生きていけると思えたなんて。恥ずかしいけど、どうしてだろうって。
あの時、好きだと思ったんだ。
この人を、この人がいる世界を、そしてそれを感じられる自分を。それは辛い記憶や、現実に感じる恐怖も、受け入れて生きていきたいと思えるほど。
心の底から湧き上がった想いは圧倒的で、私はすんなりと、ここが私の唯一の生きている世界なのだと、納得したのだと思う。
醜いものや穢れたものだって、それは自分の心にも誰かの心にもきっとあるものだ。
ジェイラスの心の中にだって、私はまだ知らないけれど、当たり前にあるのだろうと思う。
だけど、私は彼の綺麗な心をたくさん知っている。
こんなに綺麗な人を他に知らないのに、彼はとても苦しんでいる。
「ジェイラスが穢れているなら、私はもっと穢れているし、他の誰かもそうなんだよ」
「……」
「穢れのない人なんていない。だけど、ジェイラスの心はすごく綺麗なんだって、私は知ってるよ」
ジェイラスは私の手を掴んだまま動かない。
「ジェイラスの綺麗さに、私は一目惚れした。ジェイラス、知ってるよね。感じてくれている?私の心、伝わってる?」
彼は掠れた声で、小さく私の名前を呟いた。
「伝わっている」
「……うん」
少しだけ、彼の様子が落ち着いてきたように思う。
昨日までの彼は機嫌が良さように笑っていたのに、今日は、壊れてしまいそうなほどに心が乱れている。
「ジェイラス、あのね」
言葉を紡ぎながら、自分の気持ちも素直に感じようと心掛ける。私の感情はきっとそのまま彼に伝わってしまうから。
「私のことを背負ってくれるって言ってくれて嬉しかったの。あなたは、その言葉通りに、私の心の重荷も、事情も、一緒に背負ってくれようとした」
「……」
「誰かに心を預けられることが、こんなにもほっとして、泣きたくなるくらい幸福なことなんだって、はじめて知ったの」
話しているだけで、嬉し涙が溢れそうになる。
「私にも、あなたの心の重荷を分けてもらいたい。私もあなたのことを背負いたい。もしもそれを許してもらえるなら、すごくすごく、嬉しい」
ジェイラスは無表情のまま、その無垢な瞳を私に向けている。
「ジェイラスが楽になることの手助けができるのなら、泣いてしまえるくらい幸福なの」
わたしは、と続けて言う。
「私はジェイラスが幸福でいてくれることを、いつも祈ってる」
私を無条件で幸福にしてくれる彼のためなら、私はきっとどんなことでもしたくなる。
だけど、ちっぽけな私には、今だって何も出来ない。
ただ、彼は一人ではないんだと、陳腐な言葉で伝えるだけだ。
「……シオリ」
ジェイラスが泣きそうに顔を歪めて、私を抱きしめた。
さっきとは違って優しく抱きしめてくれた。ジェイラスが少し落ち着いているのを感じる。
彼は抱きしめたまま、私の背中をゆっくりと撫でる。
「……伝わっている」
なにを、とは聞かなかった。
私はずっと、たとえ穢れていてもあなたを愛しているのだと、心の中で思っていた。
「俺の育った場所の話を聞いてくれるか?」
「うん……グラント?」
「いや……違う。その前だ」
確か首都に出たのも小さな頃だった気がしたけれど。
「俺は……」
ジェイラスは躊躇うように言った。
「創始の村で、監禁されながら育ったのだ」
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